007 見えるはずのないもの
ガラガラガラ
「失礼しまーす」
放課後、職員室の扉を開き目敏く内山先生を見つけると、そちらへ向かって一直線に歩いていく。
「はい。これ日誌です」
他の先生たちと談笑を続けていた内山先生は、俺から日誌を受け取ると自席へ戻り、椅子に腰を掛けた。
「しばらく待っていてくれ」
日誌を捲りながら見落としがないかをチェックしている。
「よしご苦労さん。そうだ、今朝は頭を打っていたんだってな。保険医から聞いたぞ。大丈夫なのか?」
「はい。良くなりました」
「心配をかけさせないでくれよ。なにせうちのクラスには、入学式から早々の欠員者を抱えているんだからな」
欠員者だって?
ああ、それで思い出した。
入学式の後でのオリエンテーションの時間に、女子には欠員者が一人いるとかなんだとか、確かそうした話しをしていたっけ。
たしか名前は、、、
「高梨さん、ですか?」
「よく覚えていたな。高梨は知り合いか?」
「いいえ。急いでいるのでこれで失礼します」
知り合いと言うと余計なことになる。返答して職員室を後にした。
まさか同じクラスだったのか、、、
「終わったの? それなら話があるのよ。時間はある?」
職員室を出た後に、声をかけてきたのはその理香さんだった。
☆
☆
☆
俺たちは全国展開チェーンのファミレス、モニーズの中にあったテーブル席にいる。
テーブルの上には、ウェイトレスが持ってきた2つのグラスが置かれていた。
「それではご注文を繰り返します。ドリップ珈琲、タピオカミルクティ。以上でお間違えはないですか?」
「まだ注「それでお願いします」」
俺を遮って愛理さんがそう答えると、
「かしこまりました」
と言ってウェイトレスは下がっていった。
「理香さんの注文がまだだったろ?」
注文は俺と愛理さんに対してのみで、理香さんはまるでここにいないものであるかのような扱いだった。
俺はそれに憤慨して文句をつけようとしたが、愛理さんに止められてしまったというわけだ。
「これでよくわかったでしょ? 今のが正しい反応なのよ。私の存在は普通の人に見えるはずのないものなの」
冗談か?
今こうして目の前で座っている理香さんが、この世界には存在していないだなんて。
「おまたせをいたしました」
ウェイトレスに注文したものが運ばれてくる。
「以上のご注文の内容で、お間違えはございませんか?」
俺と愛理さんは首を縦に振る。ウェイトレスは承認を得てニッコリと微笑み返した。
「それでは失礼いたします。ごゆっくりとどうぞ」
理香さんが見えるはずのないものなのは、もはや疑いようの無いものだった。
天上界にこの口づけを 〜高梨姉妹の双子さんにおける事情〜 ズッコ @zukko_zukko
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