007 見えるはずのないもの




ガラガラガラ


「失礼しまーす」




放課後、職員室の扉を開き目敏く内山先生を見つけると、そちらへ向かって一直線に歩いていく。


「はい。これ日誌です」


他の先生たちと談笑を続けていた内山先生は、俺から日誌を受け取ると自席へ戻り、椅子に腰を掛けた。


「しばらく待っていてくれ」


日誌を捲りながら見落としがないかをチェックしている。




「よしご苦労さん。そうだ、今朝は頭を打っていたんだってな。保険医から聞いたぞ。大丈夫なのか?」


「はい。良くなりました」


「心配をかけさせないでくれよ。なにせうちのクラスには、入学式から早々の欠員者を抱えているんだからな」




欠員者だって?


ああ、それで思い出した。


入学式の後でのオリエンテーションの時間に、女子には欠員者が一人いるとかなんだとか、確かそうした話しをしていたっけ。




たしか名前は、、、


「高梨さん、ですか?」


「よく覚えていたな。高梨は知り合いか?」


「いいえ。急いでいるのでこれで失礼します」


知り合いと言うと余計なことになる。返答して職員室を後にした。




まさか同じクラスだったのか、、、




「終わったの? それなら話があるのよ。時間はある?」


職員室を出た後に、声をかけてきたのはその理香さんだった。









俺たちは全国展開チェーンのファミレス、モニーズの中にあったテーブル席にいる。


テーブルの上には、ウェイトレスが持ってきた2つのグラスが置かれていた。




「それではご注文を繰り返します。ドリップ珈琲、タピオカミルクティ。以上でお間違えはないですか?」


「まだ注「それでお願いします」」


俺を遮って愛理さんがそう答えると、


「かしこまりました」


と言ってウェイトレスは下がっていった。




「理香さんの注文がまだだったろ?」


注文は俺と愛理さんに対してのみで、理香さんはまるでここにいないものであるかのような扱いだった。


俺はそれに憤慨して文句をつけようとしたが、愛理さんに止められてしまったというわけだ。




「これでよくわかったでしょ? 今のが正しい反応なのよ。私の存在は普通の人に見えるはずのないものなの」




冗談か?


 


今こうして目の前で座っている理香さんが、この世界には存在していないだなんて。




「おまたせをいたしました」


ウェイトレスに注文したものが運ばれてくる。


「以上のご注文の内容で、お間違えはございませんか?」


俺と愛理さんは首を縦に振る。ウェイトレスは承認を得てニッコリと微笑み返した。


「それでは失礼いたします。ごゆっくりとどうぞ」




理香さんが見えるはずのないものなのは、もはや疑いようの無いものだった。

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天上界にこの口づけを 〜高梨姉妹の双子さんにおける事情〜 ズッコ @zukko_zukko

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