004 チャラ男くんツボにハマる




「あっ! やべぇぇ!」


ムクリと体を起こして、後ろポケットから取り出したスマホの時間を確認した。ゆうに10分間は寝てしまっていたらしい。


覚醒したときの頭が割れそうな痛みは、どうやら治まっていたようだった。




地面から立ちあがってみると、多少はフラついたものの大丈夫のようだった。そこで会話もそこそこに走り出す準備をしていた。


「今日は日直なんだ! 悠長な時間がもうない! それじゃ!」




一礼をして俺は猛然と走り出した。その姿はみるみるうちに遠くになって、やがて見えなくなってしまった。




「あっ、はやーい。もういなくなっちゃった」


「慌ただしく走っていっちゃったわね。頭はもう平気なのかしら?」




理香がそういうと、愛理はそれにかぶりをふっていた。


「そのわけがないじゃない。なにしろ私たちが見えていたんだよ」







「はー」


歩いて自分の机の前まで来ると、背負っていたバックパックを無造作に降ろし、席を引いて座ると、俺は机へと体を突っ伏していた。


「おハヨー。どおしたの? まだ1限もはじまっていないのに、もう疲れてんのか?」


そう声を掛けてきたのは俺のダチでクラスメイトの朝倉だった。チャラそうに着崩れした格好をしているが、これは彼女にアタックした過程での努力の末でこうなったそうだ。




「おー、ハヨー、さん。俺は朝からおつかれさんの状態だ」


「疲れたってなにが? とりまいってみ?」


「日誌を取りに行ったが遅れたんだ、、、たかが2分ほど遅れただけってーのに、ウッチーから大目玉をくらってきたんだぞ。そのセッキョーにつかれたってーの」


ウッチーとは担任になる内山先生のことだ。時間に正確でないと気が済まない性分の、きっちりとした几帳面なタイプの男性で、そのせいかアラサー後半の年齢となっても、まだ未婚のままだった。




「ひええー、ウッチーをあんまし怒らせんなよ。朝の伝達時間がそのぶんクドクドと余計に長くなるんだからな。そんでさ、遅れた原因はなんになるの?」


「それが聞いてくれよ。わざわざ30分前に家を出ていたってーのに、通学路の途中にある高級マンションの上から、植木鉢が俺の頭にめがけて飛んできやがったんだよ」


「プハッ!! なによソレ! まるでラノベのテンプレのような転生コースじゃんッ! 神様に土下座されて人生を再出発して異世界チートもらって来世スタートになったってのか? 笑っ!」




朝倉はゲラゲラと笑い出した。元々のコイツの趣味とは異世界転生モノを読むことである。この手の話が出たあたりから、真のチャラ男くんになりきれていない、実にザンネンなヤツだと分かる。




「ハヨーン。チョットぉ、朝からおもしろいことでもあったわけ? ねえねえ教えてよー」


その会話に首を突っ込んできたのは坂本だ。こいつは朝倉の彼女であったりしている。


「ハッハッハ! 植木鉢が頭に飛んできたんだとよ! 来世に行けなくてとても残念といった話しだ」


「キャハハハ! それって異世界転生モノでしょ! 現実はマジにありえないんですけど?」




彼氏の趣味だった部分がいまでは共有していて、彼女にまで伝染を及ぼしていたようだ。


「オレも同じこといった!」


「だよねー」


「うるせえよッ」


くっそ笑われて凹んだ。

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