003 双子のエマージェンシー
しばらくは意識を途絶えさせていたようで、瞼を開いて初めに見えたものは、俺の顔を恐恐と覗き込んだ女の子の姿だった。
「目が覚めたのね?」
「イツッッ!」
ホッとして安堵を漏らした、女の子のその様子を見ていることもそこそこに、俺は覚醒で頭に割れるような痛みを感じながら顔を歪めていた。
「、、、よかったぁ。グシュンッ。頭を強く打っているみたいだからあまり動かさないでね。すぐに救急車を呼ぶから。えっと、あなたのお名前と学年は?」
「あ、ああ、、、日向透。1年生だ」
「日向透くんね、りょーかい。私は高梨愛理っていうの。日向くんと同じく一年生よ」
彼女は同じ身の制服と校章を身に着けていた。そのために学校名は聞かなくても分かっているようだ。
彼女は立ち上がって最初はポケットに、それから自分の体のあちこちに手を当てながら、なにかを探し始めていた。
あれ?
よくよく見たら隣のクラスにいた、見知っている高梨さんだった。へーこの高級マンションに住んでいたのか。
美人でスタイルは抜群といった評判の女子で、髪は腰まで伸ばしたサラサラとしたロングヘア、それをピンク色のカチューシャでまとめている。
普段はおっとりとしているように見えるので、悪く言うと少々どんくさくも見えるが、身体能力はそれを裏切って高スペックを誇り、その噂を聞きつけた運動部の勧誘が、入学して2ヶ月を過ぎた今でも絶え間がないらしい。
ンン???
なんだろう、幻覚か??
それとも目の錯覚なのか?
ゴシゴシと目をこすってみてもそれは消えなかった。同じ制服を着ていたもう一人の高梨さんがそこにいたのだ。
最初はボンヤリと見えるのに過ぎなかったが、今はハッキリとよく分かった。こちらの方はポニーテールをしていて、結んでいた髪に愛理さんと同じ、ビンク色のリボンをつけていた。
彼女は愛理さんに近づくと、腰に手を当ててこう言った。
「ほらほら慌てないでよ、鉢植えはうまく回避ができたんだから。愛理があとから手放しちゃったジョウロのほうは、当たってしまったけど意識はあるし大丈夫みたいね。あとスマホのほうは慌てて出たから、きっとお部屋の中にあるわよ。だったら日向くんから借りて、救急車を呼んだほうがきっと早いって。あーもうオタオタとしない! ちょっとはおちつけっつうの!」
ポニテの高梨さんがそう一喝すると、慌てていた愛理さんは、ようやくに落ち着くようになった。
「ぶー、スマホのことに気づいていたのならもっと早く教えてよね。どうせ見ていてまた楽しんでいたんでしょ。理香の薄情者!」
拗ねた表情の高梨さんは、それから身だしなみを整えてから、コホンとわざとらしく咳払いした。
「うっかりとして、スマホをお部屋に置き忘れたみたいです。いま救急車をお呼びしますので、もしそれをお持ちでしたら、お貸していただけると助かります」
「救急車を呼ぶほどに大したことはないと思うな。にしても、高梨さんって双子の姉妹だったんだ。愛理さんと、ええと理香さんか? それも同じ高校にいたなんて、これまでまったく知らなかったよ」
二人の高梨さんは、俺の顔を穴が開くほどに見つめたかと思うと、それから驚きのあまりに、見る見るうちに顔の色が真っ青になった。
「「ええええっ! 見えているの?」」
一語一句を違わずに言ったことをみて、やっぱり二人は双子の姉妹なんだなと、俺は確信していた。
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