002 ドキドキお天気お姉さん
「キャアッ、危ないからやめてーッ!」
愛理は目の前で飛び交う植木鉢に恐怖を感じ取り、頭に腕を出して目を塞いでいる。
愛理の足は次第にガクガクと震えだして、いまや立っていることもやっとのようだ。
初めはケタケタとこれを笑っていた理香だったが、やりすぎたと気付いてからは愛理を心配してオロオロとするばかりになった。
そして突然、愛理は体をよろけさせて足の膝をガクンと落とした。
「キャアァーーッ!」
《パッッシャーーーン!》
そのとき愛理の手にあるジョウロからは、水が半分ほど床へと落ちて大きな音を響かせた。
その音にハッとして再び体の制御を取り戻す愛理の様を見た理香は、ホッとして胸をひと撫でさすった。
「もう、かるく驚かそうとしただけなのに、少しやり過ぎちゃった。でも愛理も挑発して悪いんだからおあいこってことに、、、うっ、、、ほ、ほんとにごめんね、、、怖かったでしょ?」
「理香ひどいよー。こんなイジワルをしてもう許してあげないんだから、、、今日は1日中口もきいーーーって、植木鉢!!!」
愛理がアタフタと慌てながら指を差した方向には、マンションから落ちていく植木鉢の姿があった。
理香がコントロールしていたドローン、もとい植木鉢は、すでに制御不能となっていたのだ。
「あ、こら! まちなさいッ!」
慌てて再びコントロールしようとした理香だったが、植木鉢はテラスの外側へと消してしまっていた。
☆
家を出てから8分ほど歩いていくと、建設前には日照権とかなんやらで、当時は反対運動の声が猛々しかった、地上21階建ての高級マンションがある前を通ることになる。
この辺りは閑静な生活区域となっていて、高校の通学路に使われている、バス停のある表通りとはだいぶ離れていた。
高級マンションは車で通勤する人も多く、また早朝で出歩く人もいないので、ここを歩いているのは俺だけだ。
「早く出ると、ファ、、やっぱとてもねみーわ。フアァァーーー」
俺は本日2度目となる、人目をきにせず、間延びした大あくびを出していた。
「そこの、そこの君ーーー! 避けてぇ、早く避けてッッーーー!」
突然に若い女性の悲鳴にも似たような声が、真上の方角から聞こえてきた。
俺は呑気に立ち止まって、上を振り向いた。
あー、黒い物体?????
なんだ?
はっ、鉢植え??? !!!
それが急激な勢いで俺に迫ってきているッ!!
全身にアドレナリンがブワッと駆け巡って、死への直感をダイレクトに感じた俺は、思わずにバンザイの姿勢をとりながら、これを命懸け且つ緊急的に躱すことに成功していた!
ガチャーーーンンン!
植木鉢が落ちた場所は50cmも離れていなかった。
こ、こえぇッ!
やッ、ヤバかった。
ホントに、危なかったぁッッ!!!
落ちてきた鉢植えは地面へと叩きつけられて、無惨なほどに粉々と飛散していた。
人は突発的なパニックに出会ってしまうと、目の前にある現実から目を背けようと、普段何気のないことを思い出して心を落ち着かせることがある。
かくいう俺もこのときは、心臓がバクンバクンと大きな鼓動をおこしていて、呼吸は荒々しく動悸が激しい最中だというのに、
(そういえば今朝の出かけに見ていたテレビの天気予報は何だったかな。お天気お姉さんは今朝もマジ刺激的にエロい格好だった。でもあそこまで肌を露出してないと、視聴率がとれないなんていかがなものか。とはいっても最近それを毎朝楽しみにして見ているのは俺もなんだ。今日もすらりと伸びた太ももが短いスカートからチラチラと見えてエロかったし、ウエヘヘ)
などといつしか妄想に夢中になりすぎていたのが実にいけなかった。
「よかったあ。、、(ポロリ)、、、えっ? えっ?、、、キャアァッ! やだ!よけて! 2回目、2回目なの!」
ヒューーー 、、、ゥウンーーー
ズコーンッ!
なんの警戒もしていなかった俺の頭にそれは当たった。水が半分ほど入っていた、プラスチック製のジョウロが落ちてきたのだった。
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