天上界にこの口づけを 〜高梨姉妹の双子さんにおける事情〜

ズッコ

001 青空はドローン日和






「フアァ」


雲一つなく清々しい青空がどこまでも続く、ポカポカとした陽気のもとで、俺は思わず大きなあくびを漏らしていた。




俺は日向透。この春に高校へ入学してから、はや2ヶ月が過ぎさろうとしていた。


進学は家からもっとも近いといった理由のみで選んでみたので、通学時間は徒歩で15分といったところだ。


中学校時代は学区内の最端に自宅が位置していたことから、歩くと30分はかかるので登下校はとても不便であった。


俺はこの教訓から無駄なエネルギーは使わないと決めた、エコロジー派の人間になったのだ。




今日は登校をする30分前に家を出てきていた。ナニ? 中学生時代と登校する時間が、大して変わっていないのじゃないかって?


これは今日の日直に当たったのでしかたがない。朝の出席確認の前に、職員室で担任の先生から日誌を受け取とる慣わしがあるのだ。


早くに出たので週の時間割表を書き記した生徒手帳のページを再確認してみたら、午後に体育の授業があったことを思い出した。




「うへぇ、、、今日は厄日だろ」


思わず俺は呻いてしまった。


その理由は、クラスの男子の体力測定はもう終わっていたのに、女子の体力測定はまだ道半ばにあったからだ。


女子の体力測定がある間は、校庭を自由に使用する権利を持たない男子たちは、マラソン以外はやることがなくなってしまう。


同じことをするだけのはずなのに、どうして女子はこうもチンタラと、余計に時間がかかってしまうのだろうか。


男子が前回に終わっていたはずの砲丸投げを、この前にしている女子もいたので、予定がはかどっていないことは、火を見るよりも明らかだった。




そう考えると、今日は厄日だと信じてしまうのはいたしかたのないことだろう。


俺はこれまでと打って変わって、通学路をトボトボと力無く歩いていくのだった。





「、、、ーー今日は1日中晴れて過ごしやすい日となるでしょう。それでは今日もいってらっしゃーい!」


クネクネとしたポーズをとっている、一部で熱狂的なファンがいると噂される、ヒョウ柄のスカートが短いワンピースを着ていた、若い女性の天気予報士のよく響く掛け声が、広いリビングの空間にある大画面テレビから流れている。


その部屋から続いているテラスにいた少女は、お水の入ったジョウロをもって愛情深く植木鉢へと注いでいた。




「ラー ララランーララー♫」


少女は鼻歌混じりで順序よく植木鉢に水を注いでいく。陽と水を浴びて花たちもうれしそうに見えた。




そこに、いま水をあげたばかりの植木鉢のひとつが、少女の目の前の空中へと急に浮かんで、アリガトウとお辞儀をしたではないか。




少女はとても驚いて、あんぐりと大きく口を開きかけたが、誰の仕業なのかすぐに思い当たって慌てて口をつぐみ、振り向くとニコリと笑みをみせていた。




「理香おーはーよーう。今日はとてもいいお天気ね」


「毎日、愛理の驚く顔を見ているのが楽しみだったのに。これで明日からの楽しみがなくなったじゃない」


理香が苦々しく面白くない顔をしたのを見て、愛理は満面の笑みを浮かべてみせた。




「フフーンだ。そう何度も驚かされてあげないんだから。植木鉢が浮くのはもう見慣れちゃっていますよーだ。イタズラ好きの理香のご希望に応えられなくて、とてもザンネンでしたー」


これまで煮え湯を飲まされ続けていた愛理はしてやったりと、こともなげな態度でやり返してみせたのだが、これは理香の反抗心を逆撫でするくらいには十分なことだった。


植木鉢はまだふわりふわりと空中を飛び続けている。




「へえぇーそうなんだ。浮、く、くらいならね。だったらこーゆーのはどうかしらね?」




その植木鉢は二人から大きく離れると、急に縦横斜めとジグザグにせわしなく動き始めた。


傍目から見ると、それはポルターガイストがおこすものを見ているようで、理香はその様子をニヤニヤとしながら眺めていた。


それはまるでドローンのように、自由自在に植木鉢を空中で動かして見せたのだ。

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