禍憑姫/輪廻始動

無価値の価値観

「さて、と」

「お前の言う通り」

「命はくれてやった」

「これで」

「大人しく投降してくれんだよな？」

「あ……」

「ん？」

「どうしたよ」

「聞こえねぇな？」

「もしかして」

「約束」

「今さら無し」

「なんて」

「言わねぇよな？」

「……ま、それでも良いけどよ」

「約束を破るんなら」

「こっちも」

「約束を破るだけだ」

「こっから先は手加減出来ねぇ」

「俺もアンタも無事じゃ済まないだろうし……」

「無事に済ますつもりもねぇ」

「一般人だろうが」

「手を滑ったとかなんとか」

「クソみてぇな理由で」

「殺しちまうかも知れねぇなぁ？」

「…………その必要は、ない」

「約束は守る」

「あの男は死んだ」

「それでもう十分なんだ」

「だから」

「もう」

「終わりにしてくれ」

「……し、んだ」

「……は、はは」

「死んだ、死んだ……やっと」

「やっと……死んだんだ」

「は、はははっ」

「はははははははは、あはははははっ！！」

「ざまァみろッ！お前なんか死んで当然なんだよ！！」

「ははは、ははははははっ！ははははははははは！！！」

「はは、は……は……」

「ぁ……ひぐ……ぁ」

「祐大……ゆぅ、だいぃ………」

「あぁ………ぁぁぁ……」

「……先輩」

「やか、い」

「八峡ッ」

「あ、貴方ッ」

「なんて……」

「なんて、真似をッ」

「そう怒んなよ、お嬢」

「クズの命一つで」

「物事は丸く収まった」

「万々歳だろ？」

「殺す必要なんて」

「無かったわ！」

「いいや」

「死んで当然な奴だった」

「あいつはこの先の人生」

「人に迷惑しか掛けねぇ」

「そんな」

「そんな事、無いでしょうにッ」

「あれは、改心したじゃない！」

「涙を流して」

「心を入れ替えるって」

「……え？お嬢」

「あいつの言葉信じてたのかよ？」

「アイツの根底は屑だ」

「クズはな」

「心を入れ替えてもクズなんだよ」

「腐ってんだからよ」

「根元の根元からな」

「グズグズと」

「腐り切ってんだ」

「だから」

「クズは改心しねぇし」

「あいつには生きる価値はねぇ」

「なんで」

「なんで貴方がッ」

「そんな事分かるのよッ！」

「俺も同じだからさ」

「同じ」

「クズだからださ」

「反省した」

「心を入れ替えた」

「あいつは」

「そんな言葉を並べただけだ」

「言葉の重みなんてありゃしねぇし」

「そんな有り合わせの言葉」

「価値すらねぇ」

「ゴミだ」

「だから」

「あんなクズでも」

「最低限の利用価値を見つけて」

「その命を使ってやったんだ」

「見ろよ」

「その結果がこれだ」

「被害は最小限に済んだ」

「起こる筈の大事件は防がれた」

「痛みも血も流さず」

「事件は円滑に締め括る事が出来る」

「『コトは須（すべか）らく丸く収まり、世は違わずゆるりと廻り続ける』、だ」

「な？」

「問題なんざ何処にもねぇだろ？」

「問題？」

「そんなの……大ありよ」

「貴方は」

「それで良いと」

「それでいいと……思ってるの！？」

「思ってるから言ってんだよ」

「まあ」

「お嬢には少し」

「理解出来ねぇか」

「出来るワケ、ないでしょうにッ」

「こんな、こんな、誰かを犠牲にする、真似なんて……」

「まあ、別にいいさ」

「理解されなくてもよ」

「俺は、それでも」

「お嬢には感謝してんだからよ」

「これは」

「お嬢が教えてくれた事だ」

「あの時」

「殆ど覚えちゃいねぇけど」

「お嬢に言われた」

「あの言葉だけは覚えてる」

「そうだ」

「その言葉があったから」

「俺は」

「自分の価値を見出せたんだ」

「それが」

「それがどうして」

「こんな事に」

「繋がるのッ？！」

「俺の価値は」

「何処まで言っても」

「無価値だ」

「クズは何をしようが」

「無価値のままなんだよ」

「けど」

「無価値は時一瞬」

「価値を見出す事がある」

「それは」

「他の価値を生かす事だ」

「自身を代価に」

「他の輝かしき価値を守る事が出来る」

「俺は」

「俺と言う命を以て」

「無価値な自分に」

「価値のある死を見出せる」

「そう、気が付いたんだよ」

(これが)

(これが、八峡の)

(異常性……)

(私が)

(私が彼の)

(ソレを)

(開いて、しまった……)

「自分より価値のある人間を」

「生かす為に俺は死ぬ」

「それが俺の生きる理由で」

「方針で、この人生の意味なんだよ」

「ッ」

(じゃあ)

(あの時の、あれは)

(助けたんじゃない)

(あれは)

(命の代替を成そうとした、だけ？)

(そんな、そんな生き方)

(私は………)

「ありがとな」

「お嬢」

「俺に、生き方を教えてくれて」

「………ッ」

「……じゃ、俺」

「結界師呼んでくるわ」

「お嬢、悪ィけど」

「この二人、見といてくれよ」

「頼むわ」

「私は……」

(私は………ッ)

「そんなつもりで」

(貴方に救われて……)

「貴方を救ったワケじゃ、ないッ」