術式最強!!術式最強!!術式最強!!


「あぁ馬鹿だな俺は」

「周囲を見渡しゃすぐに異変に気付いたのによ!」

「やけに静かだとは思ったが」

「まさか人混みが多い場所で人除けするとはなぁ!!」


軟派男が叫ぶ。

そうね、馬鹿でもすぐに異変は気づくでしょうに。

此処は既に結界師が用意した術式〈結界圏域けっかいけんいき〉。

指定した領域にルールを強制。

現実とは違う異空間を形成する術式。

既にこの男は〈結界圏域〉の異次元領域に侵入した。

そして圏域内に侵入した者に対するルールを強制。


現在この〈結界圏域〉に枷したルールは単純明快。

〈侵入者同士で殺し合い、最後に残った人間のみが出られる〉。

つまりは私が殺されるか軟派男が殺されるか。

そうでなければこの結界圏域から出る事は出来ない。

至極単純、目の前の敵を殺せば済むだけの話。


「さあて」

「久々の喧嘩だ」

「無理をしなくてもいいよなぁ!!」

「〈唯我ゆいが顕彰けんしょう〉ッ!!」


軟派男は術式名を吐き出した。


〈唯我顕彰〉。

それは転生者のみ限定で扱える術式。

その本質は自身の前世を引き出す効果を持つと認識している。


転生者は。

前世の記憶から。

自身が生前に体感した事象。

使役していた武装具などをこの世界に〈転生〉させる事が出来る。


その武器は前世の理に適した代物だから。

人間道であるこの世界とは違った特有の法則を宿していた。

そしてこの男が唯我顕彰によって引き出したのは………。


「――—〈祈下咬きかがみ〉ッ!!」


男の腕が変わる。

その腕は獣の様な毛並みとなる。

鋼の如き硬き剣の爪が五つ伸びていた。


「さあさあ喧嘩だッ!」

「死が迫る大喧嘩だッ!!」

「久々に滾るぜ、この瞬間をよォ!!」

「俺の名前は纂浄さんじょう

「戦の決まりだッ」

「名乗れよ女ァ!!」


それが騎士や武士の作法であるかの様。

けれど。

彼の典型的な名乗り口上に私は乗っかる気は無い。


「あら」

淑女レディに対する口の利き方も分からないのかしら?」

「礼儀云々を口にする前に」

「女性の扱い方を学びなさいな」


鳩が豆鉄砲を喰らった様に。

男は一瞬の間を置いて呆けた面をしたけれど。

すぐに男は笑みを浮かべて手を叩く。


「ひひっ!面白れぇなぁお前」

「いいぜいいぜノッてきたッ!」

「俺はずっとこんな展開を待ち望んでたんだよッ!」

「俺を殺しに来る奴を返り討ちにする」

「そんな展開をなぁ!!」


男……纂浄、と言ったかしら。

私に向けて爪を伸ばし出した。

アスファルトを削って。

私の元へと伸びていく。

それが貴方の能力と言うワケね。


「〈ソノコ〉」


まあ、だからなんだ、と言う話だけれど。

私の身を裂く刃は、ソノコが代わりに受け止めた。

獣の様な体に五爪が食い込む。

黒い体液を流し出すソノコ。


「イヂャィ……イィィイ」


唸る様にソノコは嘆いた。

しかし、心配する事は無いわ。

貴方の痛みは私から流れる神胤で。

肉体が再生されていく。

えぇ、それだけじゃないわ。


屍子流怨霊術式。

縛られた怨霊は当然ながら。

縛りを枷せる術師を呪う。

その呪いは禍憑で。

私に蓄積される呪いは。

神胤として消耗される。

その神胤はソノコの基礎能力を上げていき。

能力が上昇するソノコはさらに私を呪っていく。

そうして出来上がるのは永久機関。

ソノコは天井知らずに強化されていく。

今、こうしている間にも。

ソノコは強くなり続ける。


「やりなさい」

「思い切り」

「叩き潰しなさいな」

「ソノコ」


私の命令に従って。

ソノコは肉体に力を憤らせる。

肉体に突き刺さる五爪に向けて腕を振り下ろし。

一撃で破壊して走り出す。


「ッ」

「はっはッ!」

「ウソだろ、スゲェッ!」


砕けた爪を見て纂浄と言った男は笑う。

更に爪を伸ばして、ソノコに立ち向かう。


「行くぜェ!!」


「終わらせてソノコ」


「ウンンンンンッ!!」


纂浄が走る。

ソノコが走る。

二人が重なる瞬間。

ソノコが纂浄の体を軽々と弾き飛ばした。

真珠の様な色をしたソノコの太い爪が。

纂浄の腹部の皮膚を切り裂いて。

腸を引き摺り出して血が舞い散る。

勝負は付いた。

地面に転がる纂浄は、口から血を流して笑っていた。


「は、はははッ!き、ひひ」

「いやぁ……」

「負けた負けたァ!!」


そう満足をする様に。

纂浄は死に絶えた。

それで終わりだった。


「……いいわ」

「ソノコ」

「お疲れ様」


そう労いの言葉を掛けて。

術式を解く。

それと同時に。

纂浄の肉体は灰の様に滅びていく。

転生者は魂が先に輪廻の渦に飲まれる為。

残された肉体は死すると塵と化していく。


「死体くらい」

「残して貰わないと」


私はブレザーの裏側に設置した。

特殊術符を取り出した。

飫肥壱教師が制作したオリジナル。

三つの札を合わせる事で。

様々な効果を発揮する。


私は「月」の術符、「星」の術符。

この二つの属性を複数枚取り出して。

崩れていく転生者の肉体に投げた。


その術符の効果は隔絶封印。

転生者を討伐した実績を得る為に。

肉体の部位と言う物質的証拠が必要となる。

死んだら肉体は消えるのに。

肉体を持ってこいとはなんという矛盾だろう。

残された肉体の一部。

それを封印した私は。

任務が終わったと言っても過言じゃなかった。

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