1章7話「最初の決戦」
「今週は16人か、連行する側としても少なくなるのはありがたいけどな」
「どうだかな、ストレス発散できない分は俺らに……」
会話の最中で片方の声が止まる。
「おい、古賀?」
振り向いた時にはもう遅い。古賀と呼ばれた男子生徒は既に死亡し、光の粒子になっている。
人を殺した時に見える、いつもの映像からも大した情報は得られなかったため、俺はすぐさま彼の首に刃をつきつける。すると、彼は叫び声も上げず、ゆっくりと俺の方を向いた。
「天蓮……玲一……」
「その16人はどこにいる」
「お前……金剛さんに……」
「16人はどこにいる……!」
自然と刃を抑える力が強くなってしまい、首から流血が滴る。
「だ、第8区……地下迷宮……」
「第8区?」
第7区『緊急区』と第9区『天空都市』、その間になにかがあることは分かっていた。それがこの第8区『地下迷宮』なのだろう。
「具体的なポイントは?」
「ここの真下です……」
「助かった」
俺はそう言って、彼の首を斬り飛ばす。
「……悪いな」
景色が変わり、そこは地下のような風景が現れる。隣には先程の古賀と呼ばれた生徒もいる。彼らは階段を上がり、天井をすり抜けると地上に出た。そこで意識が戻る。
俺の予測があっていれば、今殺した生徒は嘘をついていたということになる。
「音波、この先30メートル、あの建物の影の下に階段がある。行けるか?」
「行けます。手を握ってくれますか?」
俺は音波の手を握る。1ヶ月、地獄のような日々だった。それでも、今日の日のために努力を積んできた。
「勝つぞ、音波」
「当たり前ですよ」
◇
指定したポイントに転移すると、そこには確かに映像で見た光景が広がっていた。おそらくだが、殺した相手が直前まで考えていたことに関連したことが見えるのだろう。
近づくにつれ、会話が聞こえてくる。壁の裏に隠れ、話を聞く。
「今日は16人か」
「うーーん、少ないねぇ!」
目隠しをつけられ、口には猿轡をされた生徒らが倒れている。地獄のような光景を前にしてもなお、2人の男は当たり前のように話している。
「天蓮ちゃんってのが来るのぉ?」
「ああ、来るだろうな。なにしろ、あちらには空間転移がある」
金剛は珍しく怒りを露わにし、縛られて横たわっている男子生徒の腹を蹴る。
すると、別の壁の陰から女子生徒が出てくる。
「あんまり、ウチの派閥の子達をぞんざいに使わないでよ、催眠魔法を使ってるとはいえ、壊れてきた子も多いんだから」
「彩、ライブは終わったのか?」
「いや、いつも通り影武者よ」
「へぇーー! あれ本物じゃなかったのねぇーー! 僕ちゃんショック……」
「兼橋卿のためだったらいくらでもライブをしてあげますよ」
「なになに、僕ちゃんだけのぉ? そういうの僕ちゃん好きだなぁーー!」
3人とも緊張感なく話していたが、俺が出ると共にその声が止まる。
「来たか」
「1ヶ月ぶりだな、金剛」
「君が例の天蓮ちゃんねぇ!うんうん、これまた脳筋みたいな顔してるねぇ!」
銀色の勲章、金剛もこの男も第3位『公爵』だろう。
「兼橋、巻き込まれたくなかったら、離れてろ」
「はいはい、分かりましたよっと」
兼橋と呼ばれた男は軽い口調でそう返すと、指を鳴らす。すると、2人の生徒が両側に現れる。
「ジュエルちゃんも行く?」
「いいえ、私は見ておきます」
あれが彩珠瑛瑠か。何だかんだで1度も話せていないが、ステージから降りた彼女は別人のような雰囲気を放っている。
「あーー、そうだ!金剛ちゃん、負けたとしても、サプライズあるから安心していいよぉ!」
「黙ってさっさと逃げろ」
「へいへい」
金剛のドスの効いた声を聞いても、兼橋は軽い調子を崩さず、どこかに消えていった。
「さて、始めようか」
金剛の声に呼応するようにフィールドが燃える。俺はいつも通り、剣を構える。
「剣。魔法が使えない劣等生の最後の足掻きだな」
「……そうでもないぞ」
「なら、見せてもらおうか」
金剛は炎の塊のようなものを上空に出現させ、火の雨が降り始める。
火の雨は地面に当たるなり小規模なクレーターを次々とつくり、瞬く間に戦場は地獄と化す。
しかし、時雨が放つ電撃を見てしまった俺にとって、その攻撃はあまりにも遅い。
攻撃を避けながら、一気に距離を詰め、その太い腕を浅く斬る。
「なっ……!」
その場にいた誰もが目を疑った。たかが一撃だが、魔法も使えない剣士がその強靭な身体に傷をつけた事実は確かな焦燥感となって彼を蝕んでいく。
「どうした、まだ一撃だぞ?」
「調子に乗れるのも今のうちだ……」
即座に距離を取る。近距離戦が金剛の主戦場である以上、軽い気持ちで距離は詰められない。
金剛は火炎弾を複数生成し、放つが俺はそれを斬ることもせずに容易く避ける。
「どうした、ロクな判断もできなくなってきたか?」
見え透いた挑発に乗ってしまった彼は左拳に巨大な炎を生成し、乱暴に放つ。速く、火力も上がっている。だが、あまりにも単調。迎え撃つように炎に向かって走り、その上層部を斬りつける。
「血迷ったか……!」
魔法が斬れると分かっていても、先入観には弱い。生まれる油断が次の一撃に繋がる。
上層の更に一部分だけを狙い、破壊できるかできないかの瀬戸際に調整しながら、魔法を斬りつけ、その反動で俺の身体は弾かれる。
弾かれたことで発生したスピードと、破壊したことで最小限に抑えられたダメージで、金剛との距離を一気に縮めることに成功する。
「なっ………」
軽快な音とともに彼の腕を切り落とし、俺はすぐさま距離を取った。
金剛の目の色が変わる。蓄積された怒りと焦りが黒いオーラとなって発現する。
「お前ごときが……この俺を!」
狂化状態。感情から来る昂りからくる一時的な超強化。ここを乗り切れば、俺の勝ちだ。
放出される熱量が上がり、部屋全体の気温も一気に上がる。黒い炎を纏った彼の姿はまさに鬼神と呼ぶにふさわしいものだった。憎悪と怨念が入り混じったどす黒い炎が彼の身体から比べ物にならない巨大な炎の猛獣となって現れる。
「GYUUUAAAAAAAAAA!!」
猛獣は聞いたことないほど大きな咆哮をあげる。
「音波! 後ろは任せる!」
「任されました! 行って!」
音波から叫びのような声援を受け止めて、襲い掛かる猛獣と向き直る。
『剣士であることを恥じるな。魔法に劣っていると思うな。その確信が君を強くするのだから』
いつだったか、時雨に負け続けていた俺に先生が言ってくれた言葉を思い出した。
「GYUUUAAAAAAAAAA!!」
再び猛獣が吠え、俺をめがけて突進してくる。呼吸を整えて、剣を構える。
「
あと一歩で喰い殺せるというところで猛獣を流れるように真っ二つに斬り、そのまま地面を蹴って加速する。
「終わりだ! 金剛!」
魔法を撃っても止められないと確信したのか、彼は次の魔法を準備せず、仁王立ちで待ち構えていた。俺はそのまま彼の首元を斬りつけ、致命傷を負わせた。
「……見事」
そう言い残して鬼神は魂を抜かれたように倒れ、光の粒子として消滅した。
そして、いつも通り頭痛が走ったかと思うと、景色が変わる。
見覚えがあるその場所は学園だが、様子が少しおかしいようにも思える。
『西条、代表補佐は……?』
『姫月吹雪は死んだ』
『そんなことが……』
目の前の金剛に驚きの表情が浮かぶが、それは俺も同じだった。知らない人とはいえ、この学園で人が死ぬことなどあるのだろうか。それとも比喩なのか、俺には分からない。
『俺は学園を取りに行くが、お前はどうする?』
『俺は貴方様に従うのみです』
意識が戻る。
地獄のように変貌していた室内が瞬時に修復されていく。
「……勝った。勝ちましたよ……!天蓮君……!」
音波が見たことないほど、興奮した声を上げる。ペースを完全にこちらに持ち込み、一方的に戦いを進めた。俺達の完全勝利だ。
2人で勝利を喜んでいると、奥の方で見ていた1人の女子生徒が寄ってくる。彩珠瑛瑠だ。
「助けて頂きありがとうございました」
「お前が彩か……」
「はい、私は長らく金剛に支配下にいたので本当に助かりました。よろしければ、貴方様の傘下に……」
最後まで話を聞こうと思っていたが、遮るように彼女の首元に剣を向けてしまっていた。
「な、なにを……?」
「お前が……この事態を招いたんだ」
「ですが……私は仕方なく……」
「仕方なく、だからなんだ?お前は信頼してくれている派閥の人達を売った」
「……それのなにが悪いと?」
彩の目の色が変わるが、俺も引くことはしない。
「私のために派閥があり、派閥のために人がいる。つまり、私のためにこの人達はいるんですよ。それをどう扱おうと、私の自由では?」
「ああ、お前の自由だ。でも、お前はそんな人達を売った。保身のために、沢山の人が傷ついた。その自覚もないやつがよくも被害者ヅラしてられるな……!」
俺の怒りが収まったわけではないが、そこまで言って、剣を下ろす。
「殺す気はないが、組むつもりも毛頭ない。さっさと俺の前から消えてくれ」
「帰るのは手間だろう! 俺が送ってやる!」
どこからともなく、男の声が響く。
次の瞬間、彩の心臓は紅い稲妻に貫かれていた。
「えっ……………」
彩はなにが起きたのか理解できないまま倒れ、消滅する。
「他にも沢山いるな、片付けておくとしよう」
すると、今度は16人の生徒の心臓が紅い稲妻に撃ち抜かれ、消滅する。
その場に一緒にいた音波はなにもなかった。だが、彼女の様子がおかしい。その魔法を見て、足が、身体全体が恐怖で震えているようだった。
「正義の味方、というやつか。真面目すぎて反吐が出るな」
ようやく、その姿が現れる。鮮やかな金髪は自信に満ち溢れ、それに加えて禍々しいオーラを放ち続ける。一言で言えば、『異常』そのものだった。
「この俺の次を選んだかと思えば、こんなに詰まらない男だとは……嘆かわしい……だから、俺が、この俺が!迎えに来てやったぞ!音波琴葉ぁ!」
「高杉………」
今まで見たことないほど音波の顔は酷く青ざめていた。
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