1章6話「学園最強の騎士」
「おはようございます、天蓮くん」
ホテルから出ると、音波がわざわざ待ってくれていた。恋人のようなひと時にも思えたが、相変わらずの無表情だとそんなものは感じられない。
「学校行かなくても大丈夫なのか……?」
「大丈夫ですよ、鴉羽の権力は凄まじいですから」
皮肉るようにそう言う。相変わらず凄まじい毒舌だ。
「なぜ笑っているんです?」
自分でも気づいていなかったが、笑っていたらしい。最近は音波の人間らしい一面が見えるようになったのが嬉しいのだろう。
「いや、なんでもないよ」
「そうですか」
深く聞いてこないのは寂しいが、助かった。
しばらく2人で歩くと、昨日行った闘技場に着く。中に入り、その奥にある戦闘用のフィールドに入ると、そこには時雨と鴉羽先生がいた。
「来たか、2人とも」
鴉羽先生が話し始めたので、隣の音波が気になったが、幸い今日は冷静なようだ。
「授業に出なくても大丈夫なんですか?」
授業をサボったり、遅刻すると、勝手に階級が下がることもある。先程音波にも聞きはしたが、気になってしまった。
「天蓮と音波は課外授業という体にしてある。安心しろ」
これがもしも罠で、戻ったら階級が一気に下がっているという線も考えられなくはないが、わざと考えないことにした。
「とりあえず、今日は見ていろ。桐生が魔法破壊の運用法、強み、弱みを見せてくれるはずだ」
鴉羽先生の言葉に安堵を覚える。ここまで懇切丁寧に教えてもらって、罠だと疑うのはあまりにも失礼だ。
俺と音波は一旦フィールドの外に出て、別の通路を通って、フィールドよりもかなり高い位置にある観客席に着く。
『天蓮、音波、聴こえるか?』
イヤホンなどを付けた訳でもないのに、鴉羽先生の声が聴こえる。
「聴こえてます」
俺が呆気に取られている間に、音波は淡々と返す。
『早速始めるぞ。まずは魔法破壊の本質からだ』
時雨の声が聴こえ、見下ろすと時雨が慣れた手付きで剣を構える。その姿を見て、不思議な感覚を覚えた。
「天蓮くんと構えが似てますね」
音波に言われてようやく、その感覚に気づく。確かに言われてみれば、似ている。だが、別段特殊な構え方をしているわけではないので、そう見えるだけかもしれない。
『行くぞ、桐生』
先生はそう言って、手のひらに巨大な光の球を作り、ゆっくり投げる。
速くても時雨なら斬れるのだろうが、そこは見えやすいように配慮してくれているのだろう。
『魔法には核が存在する。同じ魔法でも場所はランダム、数は強い魔法ほど多い』
時雨はそう話しながら、魔法に近づき、薙ぎ払うように切り裂く。魔法はその瞬間に光の粒子となって消滅した。
『核を捉え、破壊することができる能力、それこそが魔法破壊』
間違いない。時雨と俺の能力は全く同じものだ。
『魔力注入、魔装化』
時雨がそう言うと、剣が雷を帯び、刀身が青白く変化する。それを見た鴉羽先生はなにかを察したようで、すぐさま同じ光の球を生成し、放つ。
『斬るという観点においては魔法剣でも同じことが出来る。だが、それは魔法をただ"分断"しているだけに過ぎない』
時雨が再び薙ぎ払うように光の球を切り裂くと、それらは2つに分かれる。
『暴発』
そして、鴉羽先生の声と共に爆発した。
砂埃が舞い上がり、一時的に視界が塞がれるものの、数秒すると、元に戻り、時雨はほぼ無傷だった。
『このように、核を破壊しなければ、魔法はただのエネルギー体となるだけで、結局のところ、あまり意味がない。だから、魔法破壊は強い』
魔剣も元を辿れば魔法。ということは、魔法破壊は魔法を完全に消滅させられる唯一の手段。俺の予想よりもこの能力は強いらしい。
『また、魔法破壊は魔装化した武器に対する有効打になることも強みだ』
時雨は元々持っていた剣とは別の剣を空いている左手に出現させ、魔剣を打ち付けるように叩く。すると、魔剣の青白い刀身から、メッキが剥がれたように元の銀色の刀身が露出する。
『人によるが、魔装した武器の使用者というのはそこまで自身の魔力量に自信がない。そのため、長期戦に持ち込めば、相手の魔力を危険を冒さずに永続的に枯らし続けることも可能となる』
魔力量に自信があれば、単純に魔法を使うから、ということなのだろうか。次々と出てくる魔法破壊の利点に高揚感が隠しきれない。
『ここまで利点を話したが、勿論弱点も存在する』
心を見透かしたような発言に内心ドキッとしたが、当然と言えば当然の流れではある。
『魔法破壊というのはそもそも対魔法戦において力を発揮するため、基本的に魔装状態の武器や圧倒的な腕力や速度を持つような相手は苦手だ』
金剛がまさしくそれだろう。あの巨体に押さえつけられれば、なにも出来ない。もし、魔装を剥がして魔力を枯らしに行っても、枯らす前に技術で負ければ終わりだ。
『そういう相手が来た時の対処法も教える。心配するな』
心強い。そこまで俺にしてくれる理由があるようには見えないが、好意はありがたく受け取っておきたい。
『さて、説明は一通り終わった。どうする?』
そう尋ねられても、俺にはどうしようもなく、分かりやすく慌てていると、鴉羽先生が口を開く。
『桐生、模擬戦をしないか? 自分の師となるなら、実力がどれほどか知っておいた方が良いだろう』
『良いのか? 俺に負けたら、最高幹部の名が廃るぞ?』
『ふっ、気にするな、お前などに負けはしない』
毅然とした態度で煽り合う両者の外で、俺が最高幹部という聞きなれない言葉につまずいていると、音波が口を開く。
「理事会に所属する中でも戦闘能力の高い10人を幹部、更にその中でも極めて戦闘能力が高い3人を最高幹部と呼ぶんですよ」
理事会は教育機関だと思っていたが、強い人もいるのか。相変わらずこの学校のことはよく分からない。
「要するに、物凄く強いってことですよ。あの2人は」
そんな言葉を交わしている内に、時雨が再度剣を構える。
『幻想種アマテラス顕現』
鴉羽先生がそう言うと、眩い光が彼女を包む。あまりの眩しさに目を閉じ、ゆっくりと開けると、そこには白い翼が生えた先生の姿があった。
「幻想種?」
『特殊能力の1つだと思えば良い』
鴉羽先生はそう言うと、観客席に座る俺達よりも高く飛翔し、手のひらに光球を作り、時雨に向けてレーザーのように発射する。
『
時雨は雷で出来た弓矢を生成し、矢を放つ。反動で時雨の身体が後ろに下がるほどの凄まじい威力の弓矢はレーザーを容易く貫通し、鴉羽先生の元まで辿り着くが、先生は楽々とそれを避ける。
『
鴉羽先生の右手を掲げ、上空に向けて、無数の小さい光弾を放つ。光弾は星の如く煌めいたかと思うと、それが隕石のように降りかかる。
『
時雨は加速の魔法陣を使いながら最低限の回数の魔法破壊で鴉羽先生の攻撃を避けていく。
破壊しなかった光弾は地面への着弾と共にその大きさからは考えられないほど巨大なクレーターを作る。一撃食らえば、身体も木っ端微塵になってしまいそうだ。
『埒があかないな』
彼は小さく呟くと、剣を腰の鞘に納め、走り始める。
『
地面を蹴り飛ばしたかと思うと、時雨は物凄い威力の風力を利用し、飛びたつ。
防御をしていない彼の全身に光弾が襲いかかるも、彼は一切スピードを下げることなく、確実に魔法破壊で破壊する。
着実に距離を詰める時雨に、先生は光弾の発射を止めると、その右手に再度光を集め、先程よりも遥かに巨大な光の玉を発生させる。
『擬似神器解放。
突進してくる時雨を迎え撃つかのように先生は八尺瓊勾玉を時雨の方に向け、発射する。ゆっくりと、押し潰すかのように光の玉が時雨に向かって進む。
『核が多すぎる』
ならば、と時雨は全身に雷を纏う。そして、八尺瓊勾玉に衝突し、その中を破壊しながら突き進み、突き抜ける。
『雷光一閃』
見事な居合斬りで先生の身体を斬る。その美しい肢体から流れる血がその証拠だった。
お互い落下するように急降下し、着地する。斬られた先生はもちろんだが、あの強力な魔力の中に飛び込んだ時雨が無傷な訳がなく、息も上がり、身体もボロボロだった。
『これくらいにしておこう。これ以上は身体に障るのでな』
『同感だ』
時雨の答えを聞き、鴉羽先生は俺の方を向く。
『どうだ? 天蓮。この男は強いだろ?』
「はい、強すぎるくらいですよ」
俺はその現実離れした戦いの中で確信した、俺は必ず強くなれると。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます