第26話 上級冒険者の実力
「ハァァアアッーーーー!!」
鋭い一閃、繰り出された斬撃はいとも容易く獲物の体を両断した。その巨体は腹から上下に分断されそのまま重力に逆らうことなく上半身が地面へとズレ落ちていく。剣についた血糊を振り払い、ザイルは凶暴な笑みを浮かべ次の獲物を探しすように森の中を進んでいく。
「流石C級上位なだけあるな。凄まじい斬撃だ。」
今ザイルが斬り伏せた獲物は巨大な灰熊である。人間の二倍近くはあるその巨体を簡単に仕留めるその力に、キースは感心した様子で眺めていた。ここまでの道中、ザイルはその身体能力を活かし、キース一人では到底討伐不可能な獣をいとも容易く屠ってきていた。B級昇級を目の前にした冒険者とはこうも凄まじいものなのだと改めて感じるのであった。
その人間離れした技、恐らく身体能力強化系のスキルであろう。キースとは違いまさに持つ者のソレである。キースでは決して到達することの出来ない領域。それが目の前の光景であった。
「まったく、無闇やたらに攻撃しないでほしいわね……。」
キースの隣で愚痴をこぼすようにして呟くエルティナ。彼女はザイルの行動にうんざりした様子ではあるが、特に驚いたといった様子ではない。エルティナにしてみればザイルの技量はさして特別なものではないのだろう。彼女自身もB級昇級を目の前にしたC級上位の実力者である。彼女もまたキースとは住む世界の違う者なのだ。
「昇級ということもあって張り切っているんだ。悪いことじゃないさ。とはいえ、無駄な殺生は少し感心せんがね。」
これが狩りなどであれば、仕留めた獲物はその場で血抜きや解体を行うのだが、今は調査という名目で森の中を探索しているのだ。皮や肉を悠長に集めている時間はない。
キースはナイフを取り出し必要最低限の肉を切り取り、素材として役に立つ爪を回収する。そして残りは放置してこの場を後にする。
「仕方がないとはいえ、利用出来るものを破棄するってのは、やはりもったいないと思っちまうな……。」
長年うだつの上がらない冒険者生活をしていたせいで、こうした利用できるものを破棄するのに抵抗があるキースであるが、今は個人で探索しているのではない。キース一人の我儘で時間を取るわけにはいかないのだった。とはいえ、やはり心情は穏やかではなかった。こればかりは慣れないのだろうなと、キースはそう感じていた。
「キースさん?」
「いや、なんでもない。さっ、調査を続けよう。」
――――――――――――――――――
キース達は森の奥深くまで調査の足を伸ばしていた。最初は森の奥深くに行くのに難色を示していたキースであったが、ザイルが異を唱え、結局キースとエルティナが折れた形となった。
しかし、なんの考えもなく森の奥に行くわけではない。そこにはある思惑があった。ザイルには奥に何かあると感じているらしいのだ。これはただの勘とかそういう曖昧なものではないらしい。おそらく何らかのスキルが関係しているのではないかとキースは推察していた。確証はないが、おそらくキースの考えは当たっているのだろう。その証拠というわけではないが、ザイルはこの調査の間、かなりの確率で獲物と遭遇していたのだ。ただ闇雲に歩いているだけでは決して遭遇出来ないりょうであった。そういった事もありキースは森の奥へ行くことを了承したのだった。とはいえ、それはあくまで森までのことである。樹海までいくと流石に了承することは出いない。もし無理に行こうとするのであれば、審査証を盾にしてでも止めるつもりであった。
結構な時間を費やし森の奥まで足を運んだ一行であったが、少し前からキースはある違和感を感じていた。
これまでかなりの頻度で獲物と遭遇していたが、それが少しずつ減少していたのだ。そして今現在、これまでの遭遇率が嘘のように鳴りを潜めていた。
「まったく獣の姿をみなくなりましたね。」
「そのようだな。ザイル、周囲に獣の気配を感じ__」
「___黙れ」
それまで浮かべていた笑みを消し、ザイルは真剣な表情で森の中を見つめている。その様子はこれまでの軽薄な態度とはまったく別物であった。
「****」
静かに目を閉じ小さな声で呟くようにしてザイルが何かを唱える。その様子から何かしらの能力を行使しているのだと思われた。
しばらくそうしていたザイルであったが、呟きを唱え終えるとそのまま静かに森の奥へと足を運んでいく。その様子をみていたキースとエルティナはザイルの後を追うように静かに森の中を進んでいくのであった。
「……ククッ」
どれほど歩いていたであろうか。しばらく無言で森の中を歩いていたキースら一行であったが、その沈黙を破るかのようにザイルが不敵に笑い声を上げる。
「どうした。」
「____どうやらB級昇格は間違いないようだな。 当たりだぜオッサン。」
ザイルは獰猛な笑みを浮かべキースに話しかける。そしてザイルは森の奥に視線を向けキースらにその視線の先を促す。
それを見たキースは思わず息を呑むのであった。
そこには頭から血を流し、崩れ落ちるように横たわっているワイバーンの姿があった。
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