第25話 森での調査
キースは補佐長の命令でザイルとエルティナというB級上位冒険者二人を連れ森の中を捜索していた。ワイバーン発生の調査のための捜索であるが、今の所大した進展は見られていない。ワイバーンに遭遇した場所に行って足取りをつかもうとしたが、手がかりは何も見つからなかったのだ。
「痕跡からみるに、ワイバーンもそれなりの深手を負っているのは間違いないみたいですけど……。」
「少なくとも、獲物を前にして見逃すぐらいには弱っていたのは間違いない。でななければ、今頃腹の中だったろう。」
「本来ここら一帯はワイバーンの生息地域ではなのですよね。」
「ああ、少なくとも俺が冒険者をしている間、イデアラン周辺では目撃されていなかったな。もし確認されていたら少なくとも組合が把握しているはずだ。」
「なるほど。ではやはり森の奥から来たと考えるのが妥当ですね。他の調査隊はどの程度奥まで調査しているのでしょうか。」
「あまり奥深くまでは捜査の手を広げてはいないな。森の奥深くに行くのは危険だ。それそもう少し奥に行くともう王国領地ではないからな。」
「ではこの森の奥は……」
「ヌマリ樹海だ。まぁ辺境イデアランと言われる所以の一つだな。森と樹海の境界線がはっきりしている訳ではないから、どこまでが安全だとは言えないが、あまり奥まで行くと戻ってこれなくなる可能性がある。だからどうしても深くまでは調査するのは難しい。それと、山脈付近の森は隣国のスバルイエと接している。その意味でもあまり奥まで調査は出来ない。武力を集めすぎて境界付近をうろつくと侵略と勘ぐられる恐れもある。」
「……思った以上に物騒な問題になってきましたね……。」
「ぐだぐだうるせーんだよ。」
エルティナに状況の説明を説明をしていると、苛立った様子のザイルが声を荒げてキースたちの会話を遮ってきた。
「樹海だとか隣国だとか、そんなもの俺には関係ねーっての。さっさとこの下らない調査を終わらせて俺はイルンに帰りてぇんだよ。」
イルンとは此処イデアランから少し離れた所に位置する街の名称だ。ザイルはイルンからB級昇格の審査を受けるために辺境イデアランまで足を運んできいた。それがこんな調査に時間を割かれてしまい、苛立っているのだろう。
「文句をたれないでくれるかしら。これも立派な冒険者としての努めよ。あなたもC級の端くれだったらそれぐらいの責務を果たしなさい。」
「だからそれがくだらねーって言ってんだよ。こんなクソみたいな調査俺がやらなくてもいいんだよ。こんなの下っ端のクズがやるべきだろう。丁度そこにいるおっさんみたいなな。なぁおっさん、お前どうせうだつのあがらない冒険者なんだろ?だったら俺の代わりにしっかり働けよ。ゴミでもそれぐらいできるだろ。」
「…………っ」
ザイルの物の言い方に、切れる寸前と言った所だろうか。エルティナの眉毛が少々危険な角度に上がったところで、キースは彼女を宥めるようにして肩を叩く。キースの手を肩に置かれたエルティナは、深く呼吸をし高まった怒りをどうにか抑える。
「キースさん……」
「まあ落ち着きなさんな。君が熱くなる必要ないでしょ。それに、別にザイルも嘘を言っているわけじゃない。俺が下っ端なのは本当だしな。それぐらいイデアランの冒険者なら誰でも知ってるぞ? 今更そんなことで目くじら立てんでもいいだろう。」
「でも……」
「はっ、やっぱり底辺野郎だったかよ。マジで使えねークズだな。」
「まっそんなわけだ。でもな、そんな下っ端なオッサンでも組合からの依頼だけはきっちり務めなきゃならんのよ。」
キースは胸に仕舞っていた飾りを取り出し二人に見せる。
「これは補佐長から渡された審査証だな。」
キースの言葉にザイルは明らかに反応を示す。ザイルだけではない。エルティナ同様に表情をわずかに崩しその飾りに視線を向ける。
「俺は断ったんだが、人手が足りないからといって無理やり押し付けられたんだ。二人の反応をみるにもう理解出来ると思うが、まっそういうことだ。ザイル、先程くだらない調査だと言っていたが、今回の調査で結果を残せれば依頼と審査両方を達成できる。補佐長の認証を得られれば晴れてB級ってわけだ。そう考えると、くだらない調査も案外悪くないだろう?」
キースは笑みを浮かべてザイルに語りかける。その言葉を受け、これまで顔をしかめていたザイルは口角を上げ笑い声をあげていく。
「……ククク、まさかこいういう展開になるとはな。こんなクソみたいな調査もおっさんの言った通り案外悪くないみたいだな。おいオッサン、テメェふざけた評価下しやがったらぶっ殺すからな?」
「生憎こう見えて俺は正直者なんでね。ザイルが結果を残せばきちんとそう報告するさ。それにこの審査証を受け取ってしまったしな。嘘もつけん。」
「ふん、ならいい。 おい、女! こんな所でノロノロしてないでとっとと移動するぞ。俺の足を引っ張るんじゃねーぞ。 オッサンもちょろちょろ動かれると面倒だから俺の後ろでしっかり俺の活躍をみておけ。」
先程まで、まるでやる気がなかったザイルであったが、この調査がB級審査の評価対象となると知ると、手のひらを返したようにやる気を出していく。それもそうだろう。B級となれば名実ともに一流冒険者である。B級に昇格するためにザイルはこの辺境まで足を運んだのだ。やる気も人一倍であろう。
「キースさんが審査員だったんですね。」
キースの話を聞いて、何故かエルティナが不安そうな表情をしている。
「まぁ、仕方がなくだがな。 どうした?」
「あ、いえ…… その……。」
エルティナの態度に、キースはひょっとしたらと、思っていたことを口にする。
「___もしかして、これまでの事が評価に響くとか思ってるのか?」
「っ! ……いくら頭にきたからと言って、あんな感情を剥き出しにして彼に突っかかるなんて……。冒険者として良い行動とは思えません…。冷静さに欠いた行動でした……。己を抑えられない者がB級になんて……」
「ははっ!」
「……え?」
エルティナのしおらしい態度に、キースは思わず笑いが出てしまった。
「そんなこと気にしてたのかっ。心配しなさんな。あんなんで評価を下げることなんてするかよ。むしろあんなので審査を落としたりしたら世の冒険者全員失格しちまうぞ。冒険者なんてみんな荒くれ者みたいなもんだ。品行方正なんて期待しちゃいない。」
キースはエルティナの頭に手を置き、その髪を少々荒くなでつける。
「お前さんは普段どおり行動すればいい。それがお前さんという冒険者だ。気負わなくていい。贔屓は出来ないが応援はしてやる。」
「っ___はいっ! ありがとうございます。」
エルティナは頭を下げ感謝の言葉を口にする。
「さてと、それじゃあ調査を再開しますか。ザイルもやる気になったことだし、調査が進展するといいんだけどな。」
森の奥へと進むザイルの後ろ姿を追うようにしてキースとエルティナは肩を並べて歩いていくのであった。
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