第24話 上位冒険者、エルティナとザイル

 補佐長の部屋から退室し組合受付広場に足を運ぶと、そこに今回調査に同行する女冒険者が壁を背にして立っていた。女冒険者はキースに気がつくと壁際から離れ近寄ってくる。どうやらキースの事を待っていたようだ。


「すまない、待たせてしまったようだな。」


「いえ、問題ありません。」


 キースは辺りへ視線を向けてみるが、男の方はどうやら近くに居ないらしい。キースの視線に気がついた女冒険者は、すまなそうな顔をして謝罪する。


「すみません。彼にも待つように言ったのですが聞かなくて…。後で町の入口で合流するみたいです。」


「いや、君が謝る必要はないよ。そうだな、補佐長から聞いたと思うが、改めて自己紹介させてもらうよ。俺はキース、このイデアランで長いこと冒険者やってる者だ。まぁあんまし腕が立つ方ではないが、それでもそれなりに森には詳しいつもりだ。何かわからないことや気になることがあったら何でも聞いてくれ。」


 キースは腕を前へ出し握手を求める。女冒険者はそれに応えるように笑顔でその腕を取る。


「よろしくキースさん。私はエルティナと言います。今回ある事情でこのイデアランに来ていたのですが、先程補佐長の前で言った通りあまイデアラン周辺について詳しくはありません。キースさんにはご負担をかけてしまうかと思いますが、ご迷惑をおかけしないよう頑張りたいと思います。よろしくお願いいたします。」


「補佐長から聞いたよ。昇級審査を受ける為にイデアランに来たんだって? まだ若いのに凄いじゃないか。」


「いえ、私なんてまだまだ若輩者です。今回昇級のお話を頂いたのも運が良かった部分もありますし。それにまだ組合から認証を頂いていませんし。ですがせっかくの機ですから、B級になれるよう精進したいと思います。」


 C級上位ともなればすでに立派な上位冒険者だ。しかしそれに傲ることない姿勢にキースは感心する。エルティナはなかなかの人物のようだ。


「流石C級上位者なだけあるな。こんなおっさんの力でよければよろこんで貸すよ。無事昇級できるといいな。」


「はいっ!」


 清々しい笑顔で返事をするエルティナに、キースは好印象を抱くのであった。





――――――――――――――――――――







「……あなたね、何その言い草。」


「あ? 何もクソもあるかよ。」


 先程の清々しい笑顔が一変、エルティナは険しい顔で男冒険者ザイルを睨みつける。待ち合わせ場所にかなり遅れて来たザイルであったが、それを悪びれる様子もなく、むしろ文句を言うエルティナを他所に、ザイルはキースに対し開口一番悪態をついてみせたのだった。


「こんなクソみたいなオッサンなんの役にも立たねぇって言っただけだろう。なんで俺がこんな雑魚と一緒に行動しなきゃなんねーんだよ。」


 ザイルは悪びれる様子もなくキースをコケ下ろす。明らかに上から目線で、自分が上な立場であると疑いもしない発言であった。そんなザイルの態度にエルティナは怒りを顕にする。


 しかし当の本人であるキースは、ザイルに対し特に思うところはなかった。キースとザイルではそもそも実力からして差に開きがある。キースはD級冒険者という低級な級位に対しザイルはC級上位という位置にいる。誰がどうみてもザイルの方が位は上なのだ。だからキースはザイルの発言を事実として受け止めていたのだ。


 それに長年冒険者をしているキースにとってみれば、こういった態度の冒険者など、さして珍しものではなかった。元々荒くれ者が多く集まる冒険者という職である。むしろこの程度の事などは、長く冒険者をしているキースにとって、ごくごく普通のことなのであった。


 しかし、まだ若いエルティナにしてみれば、ザイルの態度は気に障るものだったのだろう。罵られているキース本人をよそにザイルと言い争いをしている。ザイルもそんなエルティナに対し、苛立った様子を見せている。


「ムカつくのはこっちだってんだ。くだらねー。組合の仕事じゃなきゃテメーらみてーなのと一緒に行動するか、クソが。俺とテメーらじゃ格が違うんだよ。俺と一緒に行動出来るだけでもありがたく感謝しろよ。」


「……いい加減その汚い口を閉ざしなさい……、 不愉快よ。」


「……あぁ?」


 いい加減怪しい雰囲気になってきたところで、キースが二人の間に割って入る。キースが罵られていたはずなのに、いつの間にか蚊帳の外になっていた。その事に苦笑しながらもキースは場を取り繕う。


「二人ともそのくらいにしておけ。これから一緒に行動するんだ。喧嘩して良いことなんて何もないぞ。別に一生一緒に行動する訳じゃない。調査の短い間だけだ。その間くらいは喧嘩しないでもいいだろう。下らないこと言ってるよりも、さっさと調査を終わらせた方がお互いの為にもなんじゃないか? その方がザイルもいいだろう。」


「あ? なんでテメェが指揮ってんだよ。」


「補佐長に頼まれたからな。俺だって断れるなら断るさ。というか既に一度断った。だが俺の意思なん何も関係もない。組合はやれと言うだけだ。だから言われた通り調査に同行するだけだ。文句があるなら補佐長に直接言えばいい。ただアレが素直に話を聞くとは思わないがな。むしろ余計面倒くさくなるぞ。言っておくが、今イデアランは組合長不在だ。副長も席をはずしている。二人がいない今、イデアラン冒険者組合で補佐長が実質一番上の立場だ。補佐長の発言が組合の総意でもある。組合に喧嘩売っても良いこと無いぞ?」 


「……っち。」


 ザイルは面倒くさそうにしながらキースから離れていき、そのまま城門の方へと向かっていく。


「……すみませんでした。」


 エルティナが頭を下げてキースに謝罪してくる。


「いや、気にするな。というか別に謝罪する必要もないぞ。」


「いえ、この場で言い争いをする必要はありませんでした。それなのに、あたし熱くなっちゃって……。本当ごめんなさい。」


「はは、エルティナは真面目だな。もっと肩の力を抜いた方がいいぞ。別に難しいことじゃない。せっかく一緒に仕事が出来るんだし、楽しくやって行こうじゃないか。」


「……はい、そうですね。」


 ザイルとの間に若干凝りが残ったものの、エルティナも気持ちを切り替えて前向きに行動してくれるようだ。


「さてと、それじゃあ調査にいきますか。」


「はい!」


 先に町外へ向かったザイルの後を追うように、キースとエルティナは足並みをそろえて調査へと向かうのであった。

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