第23話 上級冒険者

 冒険者組合の一室にて補佐長とワイバーンの調査について話していると、その調査に同行すると思われる冒険者が職員に案内され部屋へと入室してきた。


「失礼します。」


「来たか。ちょうど今調査の件で話しをしていたところだ。」


 部屋に通された二人を見て、キースは頭に疑問を浮かべる。長いこと冒険者をしているおかげで、大凡冒険者の顔は覚えているつもりではあるが、そんなキースをしてこの二人には見覚えがなかった。冒険者に成りたて、もしくは見習いならば知らぬ顔もあるかも知れないが、目の前の二人はそういった風には見えなかった。むしろ逆、それなりの実力があると思わせる立ち姿であった。


「補佐長、この二人は?」


「お前が知らないのも無理はない。この二人は最近他所から来た者たちだ。」


「なるほど、道理で。」


 さすがのキースと言えど、他所の冒険者の全てを知っているわけではない。見覚えがなくて当然である。


「その二人には、お前と一緒に調査に出てもらう予定だ。」


「わざわざ他所から冒険者を呼んだんですか?」


「いや、少し違う。二人は別件でイデアランに来ていたのだが、今はそれそころではなくなったにでな。ついでに二人にも動いて貰おうということだ。」


「ったく、こんな寂れた辺境に来てみれば、つまんねー事に時間とられて、こっちとしては溜まったもんじゃねーよ、ったく。だから糞みたいな辺境は嫌なんだよ。」


 今回キースに同行すると思われる二人の冒険者のうちの一人が、気だるそうな口調で文句を言う。隣にいたもう一人の冒険者が、その発言に眉を潜ませあからさまな嫌悪感を見せる。


「これも冒険者にとって重要な仕事のひとつよ。無駄口叩いてないで、指示された仕事を達成すればいい。」


「あぁ? んなこと判ってるよ。だからこうして来てやってるんだろうが。こんなクソみたいな仕事さっさと終わらせて、辺境からおさらばしたいね。」


「それと、さっきから辺境とバカにしているけど、その態度も改めなさいよ。現地の人と関係が悪化して良いことなんて何もないわ。」


「それこそどうでもいい。こんなクソみたいな場所二度と来ねぇから別に構いやしねぇよ。」


 悪態を付く男の態度に女の方は先程よりも嫌悪を顕にして男を睨みつける。しかし男は何も感じてないのか、その視線を無視し、だるそうにしている。


 よくもまぁ現地の人間を目の前にしてこうも悪口を叩けるものだ。ある意味感心した様子でキースは二人を観察していた。


「ザイル、辺境についてどういう感情を持っていても構わんが、口にするのはよしとけ。軋轢は何も産まんぞ。それに、あまりにも度が過ぎるようなが査定にも影響すると考えとけ。」


「……っち、 わーったよ。」


 補佐長の嗜めに、ザイルと呼ばれた冒険者は、不満そうに舌打ちしながらも渋々了承する。


「よろしい。では改めて説明させてもらおう。三人には先の話通り、ワイバーンの調査に出てもらいたい。すでに出立している調査隊とは別に、付近の調査も並行して行ってもらうつもりだ。何故ワイバーンが出たのか、それを知ることが出来れば、その後の足取りもつかめるかもしれん。」


「森周辺の調査と言いますが、私はこの周辺には詳しくありません。こいつ____、彼も同様かと。森の生態などに詳しくない私達では十分な結果を得られるとは思えないのですが。」


「それについては心配するな。二人に同行してもらうその男、キースはイデアラン周辺の森について詳しい。長年冒険者をしているお陰でそれらの知識も十分だ。森の調査はキースを軸におこなってもらう。」

 

「なるほど、了解しました。それと、ワイバーンについてですが、すでの傷を負っているとのことですが、発見した場合こちらで処理してよろしいのでしょうか。」


「構わん。むしろそのための要員として二人には今回の調査に同行してもらうのだ。」


「けっ。雑魚の尻拭いをなんで俺がしなきゃならないんだよ。さっさと始末しておけってんだ。」


「あなたね……。先程補佐長が言っていたでしょ。あまり悪態をつかないでもらえるかしら。」


「あ? とどめを刺していない方が悪いんだろう。悪態じゃなくて事実を述べたまでだぜ。」


「その口の悪さをどうにかししなさいって言っているのよ。」


「テメーに言われる筋合いはねーよ。」


 ザイルの態度に女冒険者はかなり頭に来ているようで、不信感を顕にしている。どうやらザイルと違い女性の方は一般的な良識はあるようだ。


 そんな様子の二人を観察していたキースは、この二人は元々二人で組んでいたのではなく、今回の調査でたまたま一緒になった組み合わせなのだと推察していた。流石に此処まで相性が合わない二人が日頃から組んでいるとは考えられない。


「二人とも、言い争いはそのへんにしておけ。」


「すいません補佐長。」


「けっ。」


「というわけだ。キース、お前にはこの二人と一緒に捜索してもらう。」


「まだ納得は出来ませんが……はぁー……。 まぁ、了解しました。せめて死なない程度には頑張ってみますよ。」


「うむ、では早速調査に行ってもらう。」


 補佐長から簡単な説明を受けた後、二人が部屋から退室していく。


「あぁ、キースにはまだ少し話すことがあるからこの場に残るように。」


 そしてキースと補佐長の二人きりになった所で、補佐長は話を続ける。


「キース、お前には調査の他にやってもらいたい事がある。」


「まだ何かあるんですか?正直下っ端の仕事量超えていると思うんですけど。」


「人手が足りないんだ我慢しろ。」


「はぁ……。それで、俺にやってもらいたいことって何ですか?」


「調査の間にお前の目線で構わぬ。あの二人の冒険者としての力量を観察、審査した後、私に報告をしてもらいたい。」


「……どういうことですか。」


「今言った通りだ。ザイルとエルティナ、二人の冒険者の資質を、冒険者目線で観察し、その実力を確認して欲しいということだ。」


「いやだから……。なんでそんなことをする必要があるんですか。しかも下っ端の俺なんかに。」


「先程も言ったが、今は人手が足らないのだ。だからお前に頼んでいる。本来ならばこれはうちの職員が担当、もしくは適正のある高級冒険者に依頼するのだが、そうも言ってられん。そして何故こんなことをするのかと言うとだが___。あの二人はB級冒険者へ昇級するための審査を受けるためにこの町に来た。」


 補佐長の発言にキースは目を見開いて驚いた表情をみせる。


「あの二人、C級上位の冒険者だったのか。」


 C級といえば、キースより上級の冒険者だ。一般的な冒険者の多くがこの級位に位置しているが、その中でも取り分け実力者と言われる者たちがC級上位に位置している。C級の層は厚く同じC級でもその上位と下位ではかなりの実力の差に開きがある。そんな中で上位に位置するのは、かなりの実力がなければ難しいだろう。


 二人はB級に昇級するための審査を受けるためにこの町に来たということだが、B級に上がるにはそれ相応の実力がなくては審査そのものを受けることも出来ない。あの二人はそうとう優秀なのだろう。


「そんな上位層二人を底辺の俺が審査をするのってかなり無理があると思うのですが…。というか、普通に考えて駄目なのでは。」


「そんな事はない。審査するのが上級冒険者である必要性はない。もしそれが必須ならば組合の職員で審査をする者がほとんどいなくなってしまう。それでは支障が出てしまうだろ。」


 補佐長の言うことは最もであった。組合職員の多くは主に事務をこなす者が多い元冒険者であったり、腕が立つ者もいないわけではないが、その数は普通の職員より少ない。実力がなければ何も出来ないのであれば、組合を滞りなく回すことは不可能になってしまう。


「とはいえ、それを俺がやるのは……。それにあの二人も納得しないのでは。」


「審査を受ける者が、審査をする方を選り好みする方が問題だ。納得しないのであればそれで構わん。そういった評価をするまでだ。」


 机の引き出しから何かを取り出した補佐長がそれをキースの方へと放り投げる。受け取ったのは鎖に繋がれた飾りであった。


「これは?」


「審査担当の証で、それは組合の正式な物だ。それを所持している者が審査する資格を持つ。こでれ文句は言わせん。」


「……はぁ、わかりました。面倒だけど引き受けますよ……。」


 受け取った証を首にかけ服の下へとしまい込む。


「よし、では二人と共に調査に向かってくれ。」


 組合補佐長直々の命令との事で断ることも出来ず、乗り気しないキースではあったが仕方がないとい割り切り調査へと足を運ぶのであった。


 


 

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