第22話 新たな仕事
「それで、あれから身体に変化はあったのかい?」
ソフィアからスキルの説明を受けて翌日、キースはシルビァーナの元に来て経過を報告しに来ていた。
「いや、これといって変化はみられないな。本当に魂が抜けたのか疑っちまうぐらいだ。」
「ふむ、身体的特徴に異常はみられないみたいだね。」
「だな。そんな都合よく超人的な力や能力に目覚めるといったことがあれば面白かったんだが、残念ながら、しがない低級冒険者のままだったとさ。」
「とはいえ、朽ちない身体は言い換えれば不死身の肉体と言っても、あながち間違いじゃないさね。ある意味無敵と言えるかもしれないよ。」
「はっ、冗談きついね。いくら不死身だとしても、力量が変わるわけじゃないんだ。すぐやられりちまうことには変わらないぞ。それに、やられても死ねないって事は、もし凶暴な獣に襲われでもたら、生きながらずっと獣に食われ続けるかもしれないんだぜ。そんなのある意味拷問だろ。」
「なに、相手が腹いっぱいになるまで我慢すれば、あっちから去ってくれるさね。そうしたら儲けものじゃないか。」
「おいおい……、それまで我慢しろってのかよ……。俺にそんな根性は無い。それに、もし大きな奴に丸飲みにでもされたら、それこそ地獄だろ。……うわ…、自分で想像して絶望したわ。」
「……その状況は考えてなかったね。痛み消しでも用意しとくかい?」
「いやいやっ、全身溶かされてるのに意味ないだろっ! まっ、これまで通り、下っ端冒険者として生きていくさ。なるべく危険を犯さないようにな。」
魂が抜けたことでいくら朽ちぬ肉体になったとは言え、高級冒険者になった訳ではない。高難度の依頼など受けられる筈もなく、仮に受けれたとしてもまず達成出来ないだろう。キースのスキルは今まで通り【身代】しかないのだ。身体能力強化も無ければ魔法などが使えるわけでもない。実力はあくまでD級冒険者なのだ。身の丈にあった生き方をするしかないのだ。
「さてと、報告も終わったし、仕事に戻るとするか。」
「討伐依頼でも受けてみればどうさね?」
「まさか。いつも通り下っ端の仕事を行うさ。」
「そうかい。」
シルビァーナは笑ってキースを送り出す。朽ちぬ身体になってもキースはキースのままであった。
「シルビィ、ソフィアのことよろしく頼む。」
現在ソフィアはシルビァーナの治療院で世話になっている。精神的に不安定になっている為、シルビァーナが無理矢理押しとどめたのだ。またソフィアは薬師としての知識も持ち合わせているので、治療院にいる間は、仕事もまわす事になっている。これならソフィアも金銭を得られるので、お互い損にはならないというわけだ。
シルビァーナに見送られ、町の中を歩いていく。キースが向かった先は冒険者組合である。無論仕事をする為でもあるのだが、実はそれ以外にも理由があった。それを確かめる為にキースは冒険者組合へ足を運んで行く。
――――――――――
組合に着くと、キースは受付の所まで行き職員に声をかける。
「すまない、ちょっと良いか?」
「はい、何でしょうか。」
対応したのは、比較的若い青年の職員であった。ちなみにナタリーは今日は休みである。昨日あんな事があったため、休まざるをえなかったのだ。
「ワイバーンのことについてだが、何か進展はあったか?」
キースが組合に顔を出したもう一つの理由がこのワイバーンについてのの事である。昨日キースがワイバーンと戦闘したその後、町から調査隊が出立したのだが、森の中でワイバーンを見つける事が出来なかったのだ。キースの報告から、死亡もしくは重傷を負っているであろうと予測していた調査隊は、予想外の事態に今も調査を続けているのだった。
「いえ、まだ発見出来たという報告は上がっていません。」
「そうか…。ありがとう」
あれほどの傷を負ってまだ生きているは。竜種というものは、その殆どが並外れた生命力を持っている。とはいえ、脳を損傷してもまだ生きながらえているとは、余程の化け物のようだ。
職員に礼を言いと、キースは受付を後にする。そして低級の仕事依頼が無いかを確認しようと掲示板の方へ行こうとすると、職員から声をかけられた。
「あ、キースさん!」
「ん? どうした。」
「補佐長からキースさんが組合に来たら知らせろとのお達しが。お時間よろしいでしょうか。」
「補佐長が?」
補佐長とは冒険者組合の各支部に配属されている組合職員のことだ。各支部を統括する支部長(組合長)、支部全体の業務及び支部長不在の時にその代理人を務める副支部長(副長)、そして組合長と副長を補佐及び現場との繋ぎを行うのが補佐長の役割である。
そんな立場ある補佐長が低級冒険者であるキースになんの用が……、いやそんな事は決まっているか。
「わかった。では俺が来たことを伝えてくれ。」
「はい、では少々お待ち下さい。」
――――――――――――――――――――
「来たか。」
「俺に話があるみたいですが、いったいなんの用件で?」
青年に組合の奥へ連れられ、案内された部屋へ入るとそこには壮年の男がキースを待っていた。身長はキースよりもやや長身で、切れ長の目はいかにも仕事が出来るといった風である。男にしては長い髪を後ろで纏めており、仕事には支障をきたさないようにしているのだろう。
そんな仕事が出来る風の男、言わずと知れた補佐長がその鋭い眼光をキースへと向ける。
「判り切ったことを聞くな。」
「まぁ、そりゃそうか。 ワイバーンの事でいいんですよね?」
「そうだ。職員から現状について聞いたか?」
「ええ、まだ見つかっていないそうで。」
「ああ、うちの職員と冒険者を捜索にあてているが、未だ見つかっていない。キース、お前の報告ではかなりの重傷を負っているという話であったが、もしそれが本当の話なのであれば、未だ見つからないのは少々おかしい。」
補佐長はその鋭い視線をキースに向ける。
「……俺が話をでっち上げているとでも?」
確かにあれほどの傷で未だ足取りがつかめないというのは、そもそもの話が嘘であったと疑ってしまうのもわからなくはない。だが、キースとしてはそれを受け入れることは出来ない。その為少しばかり語彙を強めて言葉を返した。
「いや、お前の話がすべて嘘だと言うつもりはない。現に争った形跡は残っていたからな。現場からはワイバーンの物と見られる血痕や鱗などが見つかっている。確かにワイバーンはあの場所にいて手傷を負ったのだろう。」
「では、何を疑いで?」
「疑いと言うわけではない。ただ少々気になっただけだ。よく低級冒険者二人で切り抜けられたものだ……とな。」
キースは表情に出ないようにしていたが、内心舌打ちをする。補佐長が疑問に思ったことは当然のものだ。本来ワイバーンなど低級がどうこうできる代物ではない。まず間違いなく殺されてお終いでろう。だからこそ補佐長はその事についてその真意をキースから得ようとしているのだ。
しかし、真実を話すことはできない。ソフィアのスキルはおいそれと広めて良いものではない。まして補佐長は組合の人間だ。組織の人間に知られるのはソフィアとって必ずしも良いことではない。だからキースはあくまで白を切るのであった。
「よく切り抜けられたなと自分でも思ってますよ。とはいえ無事だったかと言われるとそうでもないですけど。実際死にかけてますし。本当良く助かったなとしか言えないですね。」
「そのわりには__ソフィアと言ったか、他所から来た冒険者の名は。彼女はほぼ無傷だったそうじゃないか。」
「それはほら、俺のスキルので。」
「全部身代わりになったと。それでお前が死にそうになってたら世話がないな。」
「おっしゃる通りで。」
「瀕死の重傷だった聞いていたが、とてもそうには見えんな。」
「そこは優秀な治療師に助けてもらいましたので。おかげで説教を聞くのが大変でして。」
「シルビァーナ女史か……」
補佐長が苦虫を噛みつぶしたような顔をしている。シルビァーナは顔が広く、そして治療師としては凄腕ときている。それでいて我が強いという事もあり彼女を苦手としている人物は多い。組合としても彼女を無下な扱いをすることが出来ないでいる。そんなシルビァーナに対して補佐長も苦手としている所があるのだろう。
「……まぁそれはいいだろう。それよりも、キースお前にやって貰いたいことがある。」
「俺にですか。」
「ああ、お前には捜索隊とは別でワイバーン捜索に加わって貰う。」
補佐長の発言にキースは眉をひそめる。
「……俺はD級ですよ?」
ワイバーンの捜索などはその危険度から最低でも中級以上の冒険者が行うべきものだ。間違っても下っ端のキースに依頼するものではない。
「だがお前はイデアラン周辺の森に誰よりも詳しい。それこそ中級に引けを取ってないだろう。それにお前は歴だけでいえば立派な熟練だ。この状況下で新米と同じような扱いをして遊ばせるわけにもいかん。熟練者としてしっかりと貢献しろ。」
「熟練者って……、いくら古参だからといっても、その腕前が付いてくるわけじゃあるまいし、俺一人で捜索したところで、状況がかわるとも思えませんが。というか、もしワイバーン見つけたとしても餌になってそれでお終いですよ。あっけなく死にますから。」
実際死んでしまったのだからとんだ笑い話である。
「何もお前一人で捜索しろと言うわけではない。さすがにそこまで期待はしていない。」
「でしょうね。期待されても困ります。 それで、他に誰が同行するんで? 中級以上は殆ど出払っているでしょう。」
今町にいるのはその殆どが新米と低級冒険者である。それ以上の者はすでにワイバーン捜索のためで払っている。
「俺みたいな下っ端ばかり集めても使えるとは思えませんよ。ましてや新米を使うなんてのは、あまり関心しませんね。」
「そのことについては心配するな。こちらとしても考えがある。」
どうやらそこら辺はきちんと考えているようであった。下っ端編成など自殺してこいと言っているようなものである。そんなものを引き受けるつもりはキースにはない。
補佐長と話をしていると、扉の向こうから声がかけられ、先程の青年が部屋へと入ってきた。
「補佐長、お二人がお見えになりました。」
「そうか、では通せ。」
「畏まりました。」
「ちょうどいい。キース、お前に同行する冒険者が到着したようだ。」
そして少しの間を置いた後、その同伴すると思われる二人の冒険者が入室してきたのであった。
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