第3話 二人の出会い
「おまたせしましたソフィアさん。」
赤髪の女性ソフィアの元に二人で近寄り、ナタリーが彼女に声をかける。伏せていた顔を上げこちらに視線を向けてくる。
遠目から見た感じでは静かな大人の女性という雰囲気があったが、こうして間近で見ると思ったよりも年齢が低いのではと思える顔立ちをしていた。背中まで伸ばされた長い髪にイエローグリーンの瞳がとても印象的である。
「席失礼しますね。」
「あっ……はい。」
断りを入れてからソフィアの前の席に二人で着席する。そしてさっそくナタリーが本題に入っていく。
「こちらの方が今回ソフィアさんの相談を受け、助力してくれる事になりました冒険者の方です。」
「えっと、ソフィアさんだったかな。はじめまして。この町で冒険者をしているキースだ。今回組合の方から君の世話をしてやってくれないかと、お願いされて引き受けた。とは言え正式な依頼とかそんな堅苦しいモンじゃなくて、もっと気軽なものだからあまり肩肘はったりしないで気楽にしてほしい。」
「え…、あ、あの……。」
キースが自己紹介とすると、何やら不安そうに戸惑いの表情をみせる。ただその様子を見ておおよそ見当がついているのか、ナタリーが横から合いの手を出すように説明しはじめる。
「大丈夫ですよソフィアさん。こう見えてこの人てんで大した事がない底辺冒険者ですから、畏まらなくって平気です。こんな怖いナリをしててその実、未だにD級でくすぶってるんですよ。笑っちゃいますよねぇ。」
「___なっちゃん。言い方ってもんがあるでしょ……。いくらなんでもおじさん傷ついちゃうよ?」
「この程度で傷つくようじゃそんな歳まで冒険者なんてやってられないでしょ。繊細とは正反対の人間じゃないですか。普通ならとっくに現役引退しますって。本当いい根性してますよキースさん。」
「……おじさん泣いていい?」
二人のやり取りを目の前にしてソフィアは余計混乱した様子をみせている。
恐らくソフィアは組合に話を通した時、相談にのってくれるのはまだ経験の浅い若手かもしくはそれに近い存在の者が来ると想像していたのだろう。それはそうだ。薬草採取やそれに関連する事の相談だ。熟練の冒険者などが話を受けるとは思わないだろう。そんな中姿を表したのは、どう見て三十は超えているであろう厳ついナリをした強面の冒険者である。体中に古傷を思わせる跡が幾つも見て取れ、その厳つい顔には頬を斜めに大きな傷跡が今もくっきりと残っている。どう見ても熟達した古豪冒険者だ。混乱するのも致し方ない。
精神的ダメージを受けたキースだが、いつまでもへこんでいる場合でもないので、気を取り直してソフィアへと向き直る。
「んん、えっと、まぁ。この受付の子が言ったように、ただ歳食ってるってだけで大した冒険者でもないから気を使わなくてもいいよ。実際この年になって未だにD級なんて地位にいるしな。」
自虐でもなんでもなく現実としてそうなのだから、そうとしか説明のしようもない。キースは卑屈になるでもなあっけらかんとした感じでそう言ってのける。
「あ、でも頼りにならないんじゃないかっていう心配なら、しなくて平気だからな。伊達にこの歳まで薬草採取に取り組んでいたわけじゃないからな。そこら辺は頼ってくれていいぞ。」
「あ…えっと……」
「キースさんの言った通りですよ。この歳まで薬草採取などを長年行ってきた経験は伊達ではありません。この支部でも指折りです。ですのでソフィアさんのお手伝いが出来ると思います。それに、人となりは組合が保証しますので、安心して下さい。」
キースの言葉を補助するようにナタリーが説明していく。ナタリーが言ったことは本当で、この支部ではキース以上に薬草採取に慣れた人物は存在していないのだ。そしてそれは薬草採取だけに限ったことではなく、下っ端が請け負うであろう多くの雑多な仕事をキースは得意としているのだ。今回のソフィアの相談にこれ以上の適任者はいないだろう。
「勿論強制するつもりはありません。ソフィアさんが嫌だと言うのであれば他の人に打診してみるつもりです。」
困り顔のソフィアにナタリーはそう伝える。確かにキースはこの依頼に最適な人物ではあるが、それはあくまで冒険者としてそうであるだけ。人の相性の良し悪しとはまた別である。ソフィアがキースの事を気に入らないのであれば無理に押し付けることは憚れる。
「あ、いえ。 別に嫌というわけでは……ないです……。」
ソフィアは伏し目がちに、机の上で所在なさげにしていた手を合わせながら、自身の考えを口にする。
「あの、その……。私本当にこの町に来たばかりで、勝手がわからないから……。多分色々とご迷惑かけてしまうと思いますし……。なのでその…、経験豊富な冒険者の方のお手を煩わせるのは失礼かと……。」
遠慮がちに、申し訳無さそうにそう答えるソフィアの手を、ナタリーがそっと自身の手で包む。
「ソフィアさん。そんな風に考えなくても大丈夫ですよ。冒険者を助けるのも組合員の仕事の一つです。それに人は誰しもが一人で生きている訳じゃありません。みんな助け合って生きているんです。だからソフィアさんも、私達を頼っていいんですよ。」
笑顔でそう語るナタリー。たしかに彼女の言う通りである。一人で何でもこなせる人間など一部の優れた人種だけだ。多くの人は互いに支え合いながら生きている。
「ナタリーの言う通りだ。だから頼ってくれていいんだよ。それにもし迷惑をかけてしまったとしても、その分お返しをすればいい。そして他に困っている人がいたら、その時は君が助ける側になればいい。な? 簡単だろう?」
ソフィアを元気づける為に言った言葉ではあるが、キースはこの考えに偽りはないと思っている。キース自身、長年下っ端冒険者としてうだつの上がらない冒険者生活をしてきて、自分の不甲斐なさを誰よりも自覚している。はっきりいって無能なのだ。実力及ばず色んな人に迷惑をかけてしまった事も一度や二度ではない。そんな時決まって助けてくれたのが周りの人達である。だからこそキースは万年底辺冒険者ながらも少しでも周りの役に立てるように、様々なことをしてきた。
そして、今回のように不慣れな冒険者の手助けをするようなことも何度となくこなしてきている。
「まぁ、相性の良し悪しもあるだろうし、無理に続ける必要もない。だから一度お試し程度に手を借りてみないか?」
ソフィアは目線を右に左へと向けた後、少しの間下を見つめていたが、しばらくするとおどおどしながらも視線を上へと向けて来た。
「……はい。ご迷惑をおかけしてしまうかとは思いますが、よろしくお願いします。」
そういってゆっくりと頭を下げてお願いをしてきた。その様子をナタリーとキースは微笑みながら見つめるのであった。
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