第2話 女冒険者、その名はソフィア

「それではこちらが今回持ち込まれた薬草の査定額になります。よろしいですか?」


「ああ、問題ない。」


「ではお収め下さい。」


 冒険者組合の受付であるナタリーから薬草の代金を受け取る。一度の金額としては微々たるものだが、塵も積もればなんとやら。下っ端冒険者はこうした仕事を細々とこなし生きていくのである。


「あっ、キースさん。」


 代金を受け取りその場を後にしようとしたところ、後から声をかけられる。


「ん? どうした、なっ__タリーさん。」


「この後なんですけど、少々お時間空いていますか?」


 何時もであれば朝の薬草卸を終えたらまた別の仕事に取り掛かるのだが、今日はどうやら違うらしい。


「そうだな、別に先約があるわけでもないし、とりあえず話を聞くよ。」


「ありがとうございます。ではこちらに」


 受付から席を立ったナタリーに連れられ、組合の中へと進んでいく。そして部屋の一角に用意されている席へとたどり着く。


「とりあえず座ってください。」


 特に断る理由もないのでナタリーに促され席につく。


「それで、話って?」


「実はキースさんに折り入ってご相談したいことが。」


「相談?」


「はい。実はある冒険者から組合に相談を持ちかけられまして。」


 そういうとナタリーは目線をある場所へと向ける。ここから少し離れた一席、そこに一人の女性が俯くように席についていた。


「……へぇ、赤髪か、珍しいな。」


 席に座っていた女性は、この辺では珍しい深い赤色の髪をしていた。赤髪という人種がまったくいないと言うわけではないが、少なくともキースが拠点としている支部にはそういった人物はいないと記憶している。


「この支部にはあんな子いなかったと思うけど、他所から来た子か?」


「先日この町に来たばかりだと言っていました。」


「やっぱり。で、あの子がどうしたの?」


「はい、実は相談とはあの女性のことなんです。」


 ナタリーは視線をキースへと向け直すと、その相談事というのを説明しはじめる。


「彼女はソフィアさんと言いまして、先日隣町からこっちに移って来たみたいです。とは言っても隣町出身という訳ではなく、各地を転々としているみたいなんでです。組合証を確認したところ、冒険者登録したのは東の街アイデンのようです。」


「アイデン!? それはまた随分遠くから来たもんだ。」


 ナタリーの話を聞いて思わず驚いてしまう。それも仕方がないことだ。アイデンと言えばここからかなり離れたところに位置する都市であり、首都のさらに東に位置する。今キース達がいるこの町イデアランはアイデンからみてはるか西、国内でも辺境と言われる場所である。両都市の距離はどう少なく見ても馬車での移動で一ヶ月以上は必要だろう。そんな遠くの地から来たなど驚かずにはいられない。


 そんなことを考えながらある事が頭をよぎり、思わず彼女の方を見てしまう。よもやよからぬ事情があるのでは……と。


「組合証を確認しましたが、何らかの犯罪から逃れるために各地を転々としている___というわけではないようです。安心して下さい。」


 こちらの考えを察知してか、ナタリーが彼女の素性を説明してくれた。


「そうか。いやはや先走ってしまったみたいだな。彼女には悪いことをしたな。」


 憶測で判断しそうになったことに若干罪悪感を覚える。うがった考えで人のそれを判断するなど恥ずべきことである。


「それで、彼女の相談とは?」


 気持ちを切り替え、話を戻すことにする。


「相談と言いますか、依頼といいますか。彼女まだこの町に来たばかりで周辺のことをだよくわかっていないので、色々と教えて欲しいみたいなんです。」


「色々?」


「はい。彼女は薬剤の心得があるようで、それで様々な薬品を作り、それを卸して生計を立てているようです。また自身で使用する以外の薬草も採取して、それを売り金銭を得て、生活の足しにしているみたいです。なので、まだ不慣れな土地での行動となりますので、その手助けとして色々教えてあげてほしいと思いまして。」


「なるほど。それで俺に彼女の様子をみてほしいと。」


「はい。古参冒険者で薬草採取を今も行っている人なんてキースさんぐらいしかいませんから。」


 にっこり笑顔でそう語るナタリー。なかなかにしたたかである。

 確かに冒険者は経験を積んである程度の地位になると薬草採取などの依頼はまず受けないだろう。それらの仕事はまだ経験の浅い若手が行う事が多い。また冒険者以外では山師や狩人などが自身で必要とする分の薬草などを採取する事もあるが、それらが組合に卸されることはない。


 この支部で古参でなおかつ今も現役で薬草などを集めている物好きなどキース以外いないだろう。だからこそナタリーはキースにあの女性のことを相談してきたのだ。不慣れな若手ではなく頼れる古株の経験者として。


「それは彼女からの依頼なのか?」


「いえ、あくまでご相談です。だって女性が不慣れな土地で困っているのに、それを見て見ぬ振りするなんて__ねぇ?」


「___ったく、本当いい性格してるよなっちゃん……。今度一杯奢ってくれよな。」


「えへへ。 ありがとうございます。」


「さてと。では早速そのソフィアさんとやらとお話ししますか。」


 席を立ちソフィアなる女性の元へ近寄ろうとする。すると、後から声をかけられる。


「あ、キースさん。」


「ん?」


「なっちゃんって呼んだから今度査定額減らしますね。」


「んなぁ!? そりゃないよなっちゃん!!」


「べーーっだもんねっ。」


 チョロっと舌を出し悪態をついてくる。からかいながら意地の悪い笑みを浮かべる様子に思わず天を仰ぎたくなる。


 本当い性格してる娘である。


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