6.三つ子の手がかり

 その後、少年の母が奥から出てくると彼を救ったお礼だと言って部屋の中に通してくれた。合わせて七人も入ると少し狭いその民家の中で、ロイは口を開いた。

「それで……星屑の髪を持つ種族の生き残りと、翼を持つもの達がパリスレンドラー族を探していた理由は?」

「翼を持つもの?」

 風の頭の上に疑問符が浮かんだのをみて、見た目よりも大人びた喋り方をするロイは目を細める。

「変遷の時を見に来たんじゃないのか。じゃあなんだ、事故か?」

「どういうこと? 翼を持つものって何?」

「あなた達のことだ。違う世界に移動する、<空渡り>の力を持つ人々。その世界の変わりゆくさまを後世に伝えていく定めを持っている」

「えー! なにそれ、なんかカッコ良くない!? あたしにもそんな力があるってこと!?」

 喜ぶ風にロイは冷めた目を送り、片割れのいつもの様子を見た悠が口を開く。

「僕らがそういう力を持つ人たちなのはわかった。でも前に結衣菜ちゃんがここに来た時も世界が危機に瀕していたんだって。だから何かあるんじゃないかって。世界のバランスを取る君たちの種族に、話を聞きたいんだ」

「なるほど、そういうことか。クワィアンチャーの彼もか?」

「ああ。俺は九年前、世界のバランスをとるために時を犠牲にした。それで戻ってきたばかりなんだけど、どうも精霊達の様子が普通じゃないんだ。それで何かあったのかと、パリスレンドラー族の君たちを探していたんだよ」

「そうか……」

 ロイは少し目を伏せると口を閉ざした。結衣菜が心配そうに口を開ける。

「ところで、ロイ。あなたの兄弟は? パリスレンドラーの片割れの……」

 今のところ結衣菜達はこの家で他の子供を見かけていない。出かけているのだろうか。ロイの瞳が揺れ、やがて顔を上げた。

「単刀直入に言おう。俺ら三つ子のあと二人、ルイとレイはここにはいない。二人は攫われたんだ」

 その瞬間、ロイの母親が泣き崩れた。支えたチッタを見て、ロイは話を続ける。

「俺らはもうすぐ九歳になる齢。その誕生の儀式──パリスレンドラー族とこの世界にとって大切な儀式だ──をするため、ジェダン領のアジェンダという街に向かっていた。でも、国境付近、シュピーリエ砦のあたりで、事件が起きた」

「事件?」

「ああ、急に襲われたんだ。耳と尻尾を生やした猫みたいなやつだ。それと、ものすごく長い黒髪の女も一緒にいた」

「バッシュと薔薇の魔女⁉︎ またあいつらか……」

「あの二人を知っているのか!」

 ロイが緊迫した顔で机に乗り出し、ガクは驚いた顔で固まる。凍りついた周りを見渡してロイは咳払いをして椅子に座った。

「……とにかく、今俺の妹レイと弟ルイは一緒にいない。俺だけ運良く逃げ出せたからここまで戻ってきたんだ。それであともう少しってところで、あなたたちに助けられた」

「なるほどな……」

「だから今世界のバランスは崩れかけている。俺は早く二人と再会してアジェンダの街まで行き、儀式を済まさないといけない」

「君一人で行こうっていうのか? 危なすぎやしないか?」

「……」

 ガクの言葉にロイは俯く。

「ね、ねぇ。あたしよくわかんないんだけど、その世界のバランスってのが壊れると具体的にはどうなっちゃうの?」

「……バランスが崩れた世界はそのうち機能を停止し、ゆっくりと壊れていく」

「壊れると……この世界はなくなっちゃうってこと?」

「そう。……この世界の全ての命は失われる。初まりの精霊が作った全てが。僕らパリスレンドラー族は常に行動を共にして、その代によって光と闇、炎と水と風のいずれかで世界のバランスをとっている。俺は水を司る御子。レイは炎、ルイは風を司っている」

「……そんなの絶対ダメ」

 顔を上げた風の顔は真剣だった。

「バッシュたちが何をしたかったのは知らないけど。この世界のみんなが死んじゃうなんて、そんなのは絶対に、絶対に止めなきゃ」

「風、そんなこと言ってもなんの手がかりも」

「いや、手がかりならある。襲われた時、男達はシュピーリエ砦の話をしていた。だからきっと」

「じゃあ砦に行くしかないな!」

 立ち上がったのはチッタだった。その太陽のような笑顔に、みんな釣られて頷いたのだった。


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