5.出会い

 その日はよく晴れていた。

 トーテの中心あたりにある広場、人通りが多いその周りに店を構える人々も多く、昼下がりの今は賑やかだ。

「ねー! これすっごい美味しい!」

 風はふわふわの生地に肉と野菜が挟まれた食べ物を頬張ってニコニコしている。フライッシュウィッチと呼ばれるそれを隣からつまみ食いしようとした悠に、風は咄嗟に手を上に上げて反応する。

「少しぐらい良いじゃん」

「だーめ! 食べたいなら自分で買ってきなよ!」

 文句を言う悠と相変わらずの風。ぎこちなかった双子にいつもの光景が戻ってきたことに結衣菜は安堵の微笑みを見せる。

「がぅ!」

「ちょっとヴィティア!」

 ヴィティアと呼ばれた猫の魔物も悠と同じように風が手に持ったフライッシュウィッチを狙っている。猫のようにヴィティアを威嚇した風を見て悠が爆笑している。

 魔宝石の洞窟と双子の事件が落ち着いてからと言うもの、ティリスとエイン、そしてディランの三人は慌ただしくトーテの街を離れた。闇の魔物の状況を確認し、その足でティリスの目的であったシュピーリエ砦に向かうのだと言う。結衣菜達はパリスレンドラー族の噂を探しつつ、トーテで彼らの帰りを待っている。結衣菜たちの身の振り方はそれで得られた情報でまた変わるだろう。

「それにしても、広い街だよね〜! ディクライットの城下町はもっと大きいんだよね。結局全然見れてないから戻ったら色々見てみたいな〜」

「観光じゃないんだから。でも確かに広いよね、こんなに聞き込みに時間かかるなんて」

「な。今日ももう少し回ろう。フウがそれ食べたら向かうぞ」

「えっじゃあ僕も買ってくる!」

 ガクの言葉に悠は駆け出して店主の男に話しかける。

「おじさん、これ一つ!」

「はいよ、十二シガニーね」

「はーい。これでお願いします」

 この世界のシガニーという通貨を使うのももう慣れたものだ。違う通貨を使っている地域もあるらしいが、ディクライットを中心としたこの付近の国では大方通用する。

「ちょっとまってね。お兄ちゃんさっきのお嬢ちゃんと兄妹?」

「はい、双子なんです」

「そうかい、よく似てるねぇ。ヘルツシュさんとこの三つ子とは大違いだ」

「へっ三つ子?」

「はいお待ち! 熱いから気をつけなよ!」

 悠が首を傾げるより早く湯気の立ったフライシュウィッチが彼の手に押しつけられる。それ以上話を続けることもせず熱々のそれを頬張りながらこちらに歩き始めた頃、赤髪の青年が勢いよく駆けてきた。

「おい! わかったぞ!」

「チッタさん! わかったって、何が?」

「パリスレンドラー族の家だよ! 行くぞ!」

 来てはまたすぐ動き出すチッタに、一同は置いていかれないように走り出す。焦ってフライッシュウィッチを口に詰め込んだ悠が咽せた声が聞こえた。




「えーっと、ここだ」

 チッタが指差したのは小さな民家だ。なんの変哲もないそこは目立たない。この三日間探し続けていた結衣菜達が簡単に見つけられなかったのも当たり前だ。

「本当にこんな普通のお家が?」

「ほんとだって。御子の話を近所のおばさんから聞いたんだ」

「ま、入ってみるしかないか! すみませー」

 風がノックしようとしたまさにその時、元の世界の自動扉かのように扉が開く。外に出ようとしていたのは青い髪の少年だった。

「あれ? 君……」

「あの時のお兄さんとお姉さん?」

 まだ幼い顔立ち。どうやら少年を知っているらしい双子は顔を見合わせた。

「……命を救ってくださってありがとうございました。俺はパリスレンドラー族のロイ。世界のバランスをとるものだ」

 少年の左右で色が違う瞳の中には炎のような模様が揺らめいていた。

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