15.それぞれの目的

「それで……なんでティリスとエインがいるんだ?」

「目的地が一緒だから?」

 当たり前のように微笑んだティリスにガクは首を傾げ。隣にいたエインもニコニコしている。

「騎士団長なんだよね?」

「ええ。その仕事よ?」

「俺たちと一緒にトーテに行くのが?」

「ええ」

 ティリスは楽しそうに微笑んでいるばかりで確信的な理由を話す様子はない。みかねて結衣菜が口を開いた。

「もー、ちゃんと説明してあげなよティリス〜」

「ふふ、なんだかふざけたくなって。実はトーテじゃなくて近くにある砦の方に用があるの。直接確認したいことがあってね。それで結衣菜たちに合流したってわけ」

「なるほどな。でもいいのか? 城開けて」

「それがね、私が行かなきゃいけないことなのよ。砦付近でジェダンの不穏な動きがあったらしくて」

「剣聖であるティリスさんが行けばジェダンの方々の動きを抑制できるんじゃないかって、そういうわけなんです」

「へー。騎士団長だけじゃなくて剣聖……て言うかそっちも仕事あるの大変だな」

「私も状況を見ておきたいし。城には信頼できる仲間たちがいるから大丈夫。私がいなくても外敵からの襲撃はどうにかしてくれるわ。あれから周辺警備も強くしてるし」

「あー……あれはどっちかというと俺たちが連れて帰っちゃったみたいなところあるしな。まさか門番に話を通してる時に襲われるなんて思ってなかったよ。つけられてる様子も無かったのに。それでエインはティリスと?」

「ああ、僕は別件なんです。トーテ付近で闇の魔物の討伐依頼が出ていて、騎士団で討伐隊を用意しているんですけど少し時間がかかるので、先遣隊として先に出たんですよ」

「というのは言い訳で、あんなことがあったばっかりだからユイナたちのことがしんぱ……」

「それはティリスさんでしょう!」

 茶化すティリスにエインは笑みで返した。不穏な空気が立ち込める世界でも笑って過ごす彼らは眩しい。そんな彼らに、後ろを歩いていた風が口を挟んだ。

「そういえば。あたし聞き忘れてたんだけど、薔薇の魔女ってなんなの? ディクライットには他にも魔法が得意な人ってたくさんいるよね、でも魔女って呼ばれてるのは聞いたことない」

「あー、そうですよね。薔薇の魔女はかつて僕らアウステイゲン騎士団に協力的だった魔法使いです。予知夢が見れるんですって」

「予知夢!? そんなの見える人がアシッド村を襲わせたんだったら、勝ち目なくない?」

「そうね、でもいつでも見れるというわけではないみたい。元は騎士団やディクライットに危機が訪れると知らせてくれたりしていて、私の知り合いにも彼女ととても懇意にしていた人がいたわ。薔薇の魔女っていうのは、彼女が連絡してくる時には必ず薔薇が一輪添えられているからなのよ」

「でもある時を境にぱったり連絡がこなくなったんですよ。ちょうど九年ほど前ですかね。それから彼女が何をしてたかは騎士団では把握できてません」

「また九年か……何も関係ないのかもしれないけど、なんだか不吉だなぁ」

 ガクは少し不安そうにしたが、エインは続ける。

「でも何年か前。ティリスさんは城下町でばったり会ったことがあるんだそうで」

「ええ、でもなんだか変なことを言ってた。あとは……」

「変なこと?」

「銀髪の種族を見なかったかって聞かれたわ。ガクのことだろうけど居場所がわかるわけでもないから、何も言わなかったけれど。銀髪の種族を見つけなければ大変なことになる。そう言っていたわ」

「なんだそりゃ……俺を見つけたところで何もできないんだけど」

「もしかしたらガクさんがアシッド村に住んでいたのを知って……」

 エインが小さく漏らした言葉にガクの表情が深く曇る。自分の失言に気づいたエインは焦ったように続けた。

「あ、いや、今のは違うと思います、気にしないでください! アンさんは薔薇の魔女は前にもアシッドにきていたと言っていました。だからきっと違う理由があるんですよ」

「でも、警戒するに越したことはないわ。ガクはただでさえ目立つんだもの」

「うーん。なんかよくわかんないけど、結局、薔薇の魔女は悪い人ってこと?」

「アシッドを襲わせたのが本当に薔薇の魔女ならそういうことになるでしょう。それに……」

 エインはどこか遠くを見つめる。風はそれを不思議そうに覗き込み、彼女の顔で視界がいっぱいになった彼は首を振る。

「とにかく、薔薇の魔女を見つけたら僕……いや、騎士団に報告してください! 僕たちがなんとかしま……え」

 元気よくそう言ったエインの横を凄まじい勢いの氷の礫が飛んでいった。素早く彼の腕を引いたティリスが剣を抜く。

氷妖精アイジフィーよ! 炎を使って!」

 付近には五体ほどが集まっていて、そのどれもが楽しそうに氷の塊を飛ばしている。その中の一体が風の髪の毛を引っ張る。

「ちょっと! 見た目は可愛いのに可愛くない! これ王子が言ってた雪玉ぶつけてくるやつ!?」

「それは雪の悪魔シュニートイフェル! 風どいて!」

「どけっていわれても! 悠!?」

 悠は持っていた杖を握りしめて集中する。その姿を見た風が焦ったように暴れて悠に向かって魔物を投げ飛ばした。

「エーフビィ・メラフ! ってわぁぁ! バカ風!」

 目の前に飛んできた魔物に向かって悠の生み出した炎が燃え上がり、魔物はひらりとかわすと遠くへ逃げていく。

「バカは悠でしょ! あたしごと燃やす気だったでしょ!」

「ちゃんとどいてって言ったじゃん!」

「奇跡的にどけれただけだし!」

 ギャイギャイと双子が喧嘩をしているうちに他の面々は魔物を退散させたようだった。

「冬になるとよく出てくるのよ。遊びたいだけみたいなのだけど」

「可愛いけど氷の塊って普通に死んじゃいますからね〜。炎の魔法見るといなくなっちゃうのはたしかに雪の悪魔シュニートイフェルとおんなじです」

 エインの言葉で風はえっへんと鼻を鳴らす。そんな彼女をみて悠は大きなため息をついたのだった。

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