6.銀髪の種族
人々の歓声の中、一人崩れ落ちる者があった。
それを支えたクィードは人込みに巻き込まれないように路地裏へと移動する。
ガクの瞳はまだ赤いままだ。彼が息を整えるのを見てから、クィードは声をかける。
「兄ちゃん、おい、大丈夫か? さっきのあれ……」
と、聞き覚えのある声が響いた。
「ガクさん! よかった!」
綿菓子のような髪を少し乱しながら駆け込んできた彼女は少し息が上がっていた。
「よかった! 探してたんだよ!」
「すみません、酒場に戻ろうとしたらさっきの騒ぎに巻き込まれてしまって、そしたらガクさんが、あの……」
さっきの戦いのことを言っているのであろう彼女に、ガクはなんて答えたものかと思案する、と、もう一人そこに駆け込んでくるものがあった。
正確には屋根から飛び降りてきたアリスはガクの顔を見るなり口を開く。
「ちょっとあんた! さっきの何よ! あんなに強いなら先に言いなさいよね!」
「あ、いや、あれは……」
たじろぐガクに助け船を出したのはクィードだった。
「あれは精霊の力ってやつだろ?」
「精霊? 何言ってんのそんなのいるわけないじゃない!」
聞き覚えのないものに不信感を抱くアリスとディナに、クィードは続けた。
「その国が滅びたのは三十年も前だからな。そこの種族の話は今じゃほとんど聞かないさ。だが、かつてここよりずっと北にシェーンルグドっていう国があったんだ。そこはクワィアンチャーっていう銀髪の種族だけが暮らしている国でな。精霊と会話ができたそうだ。彼らは精霊の力なんてものも使えて、すごく強かったらしい。だからこそ自分たち以外の種族のことを下に見ていて、その強大な力で次々と周辺諸国を滅ぼしていった。それを危機と感じた周辺諸国が連合軍を組み、逆に滅ぼされてしまったんだ。このジェダン国は手を出される前だったから連合国軍には参加しなかったがな。こいつの髪の色を見た時はまさかだとは思ったが、本当にあんな力が使えるんだな……」
他人の口から語られた自分の祖国の話はどこか遠い異国の物語のように聞こえたが、ガクは頷き、そして小さく呟いた。
「デジル、雪を降らせてくれるかい」
青年の語りかけには応える声があった、しかしそれは他の三人には聞こえない。
ほんのひと時、青年の長い睫毛の下の瞳が深紅に染まり、瞬く間にどこからか暗い雲が現れた。
そこからはらりと舞い降りたのは紛れもなく白い雪で、砂漠に囲まれたこの国では滅多にお目にかかれないものだ。
「雪なんてとても久しぶりに見ました! すごいですね〜」
「嘘でしょ……天気を変えるなんてあり得ない」
喜ぶ一方と訝しむ一方。この反応はクワィアンチャー族への偏見がない者たちの素直な反応だ。
二人の反応を見てガクは少し安堵する。
「俺は……シェーンルグドが滅びたのは俺が生まれるより少し前のことです。だからその国のことはほとんど何も知らない。でも、精霊さんたちと会話をすることはできるし、その力を借りることはできます。さっきは力を借りた精霊がやりすぎてしまいましたが……俺のせいでほかの人に怪我がなくてよかった」
少し辛そうに微笑む彼にアリスは口をつぐみ、ディナは心配そうに彼に寄り添う。
「ということでだ、しばらくこいつはうちで引き取ることにする。いいな!」
「はあ⁉ うちって私も住んでるんだけど! いやよ、そこら辺の宿屋にでも置いてきなさいよ!」
「そんなとこに置いてきたらあぶねえだろ。お前、助けてもらったの忘れたのか?」
「っ……! もういいわよ勝手にすれば! あんたがどこかの国のなんか精霊? とかいうのと喋れるとかなんとか知らないけど、さっさと出て行ってもらわないと困るんだからね!」
そういい捨ててアリスはどこかに行ってしまった。
「アリスはああ見えてほんとはすっごく優しいんですよ〜。あ、私も行くところないので一緒に行ってもいいですか?」
「おう、アリスが魔法銃の弾が切れちまったって騒いでたから、込めてやってくれ。街を出た理由も詳しく聞きたいしな。さ、行くぞ兄ちゃん!」
まだ了承の言葉を一言も発していないうちに勝手に話を進める三人にうんざりしながらも流れに任せることにしたガクは、彼らにおいていかれないようについていったのだった。
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