4.疑念の色
「なるほど、ユイナさんができそうなお仕事ですか……」
「私ももう大人だし、ティリスに甘えっぱなしっていうのも嫌なの。だから何か私にできることないかと思って」
「うーん。すぐにはおもいつかないですが、ティリスさんにも相談しておきます。フウさんとユウさんは大丈夫そうですか?」
この世界に来たばかりの双子を心配そうに気遣うエインに結衣菜は微笑んだ。
「今のところ。部屋でぐっすり眠ってる。おなかがすいたともいわずに」
「そうですか、よかった。何か僕にできることがあったら遠慮なくいってくださいね!」
「ありがとう。あ、それなら気が向いたらでいいから二人の話し相手になってくれないかな? 外が危ないなら退屈しちゃうだろうし」
「任せてください! あ、僕はもうそろそろ行きますね。ちょっと頼まれごとがあるので」
「うん……あ、最後に一つだけ聞いてもいい?」
「ええ。なんですか?」
「あの、チッタを……見てないかな。赤い髪でよく笑う、オオカミに変身できる人なんだけど……」
「前に来た時ユイナさんと一緒にいた方ですよね! 今は彼、魔物退治を中心に活躍するトレジャーハンターとして有名なんですよ。でも最近はジェダンとの国境も閉鎖されてるし、ディクライットあたりで見たってのは聞かないなあ」
「え、そうなんだ……ジェダンって国、前も大変そうだったけどそんなことになってるんだ」
「ええ、なんだか内部が荒れているらしく、亡命者も多くて。ティリスさんそれで忙しいんです。あ、チッタさんがいるかもしれないですが、間違ってもジェダンには行こうと思わない方がいいですよ。ここなんかよりよっぽど治安が悪いと聞いてます」
「そっか、いろいろ大変だね……。ここなら会えると思ったんだけど。やっぱり昼間のは気のせいか」
「昼間?」
「あ、いや、城下町でチッタみたいな人影を見た気がしたんだ。でも多分気のせい。それじゃあおやすみ。いろいろと本当にありがとう」
ユイナが手を上げるとエインはにこっと笑って手を振り返していなくなる。
「ふう……ひとまずは。今後はどうしようかな。悠と風を旅に連れて歩くのも危ないし……」
歩きながら考えに耽る彼女を廊下の先で見ているものがあった。
「お前、ただの客人じゃないだろ。初めて見た時も変な服を着ていたし。本当は何者だ?」
徐に近づいてきたのは昼間二回も鉢合わせた王子だ。近くに立つと意外と背が大きいその人は緑色の目を細めて結衣菜をのぞき込む。
「アルバート王子……」
月明かりが城の廊下に差し込み、王子の顔が照らされ、整ったその顔は疑念の色に染まっていた。不意に出自を詰められるなど予想もしてなかったことで、結衣菜は背筋に冷たいものが走るのを感じた。風のこともあった。この王子が自分達を快く思っていないことは明らかだった。
「あ、あの……わた、し」
「殿下、どうされましたか?」
口ごもる結衣菜の横に並んだのは背が低い結衣菜よりもさらに背が低い女性で、彼女は王子に一歩近寄ると口を寄せた。
「殿下がまた勉強の時間になっても戻ってこないと大臣がご立腹です。早く戻ったほうが身のためですよ」
「くそ、勉強なんか……」
「殿下」
腰に手を当てて怒ったような仕草をする彼女を見て王子は諦めたのか小さく舌打ちをすると来た道を戻っていった。
「あ、ありがとう。助かったよ」
「あなた、団長の客人でしょ? なんで王子に絡まれてたのか知らないけど、隠し事があるときは後ろめたそうにしないほうがいいわ。ばれないから」
そう言って舌をちろっと出した彼女は明るく続ける。明るい金髪が窓から差し込む月明かりで煌めいて綺麗だ。
「私はレリエ。騎士団では魔導部隊長の任についているの。あなたは?」
「レリエ、さん……私は結衣菜っていいます」
「やだ、レリエでいいわ。しばらく城にいるんでしょう? よろしくね、ユイナ」
レリエと名乗った彼女は手を差し出し、結衣菜の手を取って笑った。
つられて笑い返した結衣菜に彼女は手を振っていなくなる。
肌寒さを感じて結衣菜は元の部屋への道をゆっくりと戻っていく。
外はもう雪で白銀に染まりつつあった──。
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