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「あれは……」
「どうしたの?」
放課後、これから柚希と帰ろうとしたところで俺は気になる組み合わせを見てしまった。俺が見つめる先に柚希も視線を向け、えっと驚いたように声を上げた。
「洋介と……後輩の女の子?」
「みたいだな」
洋介が後輩と思われる女の子と歩いていた。後輩の子とは言ってもあの図書室を良く利用している彼女ではない。洋介のことだから浮気は絶対ないだろうし……それでも気になってしまうな。
「行くよカズ」
「もちろん」
柚希に続くように俺は二人に付いていった。
二人が向かったのは空き教室で、放課後ということもありこの辺りは特に誰も寄り付くことはない。少し扉が開いていたのでその隙間から中の会話が聞こえてくる。
「今日はありがとうございます藤田先輩」
「いや、それで何の用だ?」
洋介は早速本題に入ったようだ。
後輩の子は大きく深呼吸をしていた。この段階で何となく、どんな話の内容かは想像出来た。
「藤田先輩、初めて見た時から気になっていました! もし良かったら私とお付き合いしてくれませんか!?」
「……おぉ!」
やっぱり告白だった。
というか柚希、一応乃愛ちゃんと洋介は付き合っているんだからそんな風にワクワクするのはやめてあげようぜ?
「柚希?」
「分かってるよ。大丈夫大丈夫、もしこれで洋介がクラッと来るようなら殺し……殺してるけど違うみたいだし」
言い直させてないですぜ柚希さん。
告白された洋介は目をポカンとしているようだ。よくよく考えれば、幼馴染の中でも洋介だけは相手がこの高校に居ない。乃愛ちゃんと付き合っていることは俺たちだけが知ってるようなものだし……あの子は絶対に知らないはずだ。
「藤田先輩……ダメ……ですか?」
女の子はもう泣きそうな声だった。
洋介はその声を聞いて我に返ったらしく、すぐに口を開いた。
「すまない、俺は君と付き合えない」
「っ……理由を聞いても良いですか?」
「彼女が居るんだよ。年下だけど、ずっと昔から一緒に居た大切な子が」
「そう……だったんですね」
それは誰ですか、なんてことを追及したりはしなかった。どうやら真っ直ぐに見つめて答えた洋介から嘘ではないと見抜いたらしい。
「……ハッキリ言ったね。全然迷うことなくあんな風に答えちゃって……あたしは洋介の成長が嬉しいよ」
「なんかお母さんみたいだな?」
「今までの洋介を知ってるならこんな感じになるよ? まあそれと、乃愛のことを本当に愛してくれていることが分かるから」
「……そっか」
「うん♪」
……柚希がそう言って笑顔を浮かべたその時、俺は俺で柚希の笑顔に相変わらず癒されていた。さて、そんな風に俺たちが入口に居るので当然二人が教室から出ようとすると見られてしまうのは当然だった。
俺と柚希はすぐに隣の教室に逃げ込み、何とか見つかることはなかった。
「うぅ……悪いことしてる気分だね。盗み聞きだし」
「だな。まあでも、俺と柚希で半分こだ。だからそんな顔をしないで」
「……分かった」
ま、俺たちだからこそあんな場面に立ち会えば気になるのは仕方ない。あの女の子には確かに悪い気はするけれど、このことは俺たちの胸の中に仕舞ったままにしておこう。
「ねえカズ」
「なんだ?」
「ここ……暗いね♪」
確かにあまり入らない場所だが……資料室みたいな場所だ。カーテンを閉め切っているので柚希が言ったようにかなり暗い。ニヤリと笑った柚希が顔を近づけ、チュッとキスをしてきた。
「えへへ、キスしちゃった♪」
「……もう柚希が可愛すぎる」
キスくらいもう数えきれないくらいしている。それでも柚希はいつも初めてしたように幸せそうな笑みを浮かべてくれるのだ。それは当然俺も同じようなもので、彼女とキスをすればするほど幸せな気持ちが胸に溢れてくる。
「このままイチャイチャしたいところだけど……寒いってここ」
「だね。よし、帰ろう!」
冬だし太陽の光が入らない教室ほど冷え込んでいる場所はないだろう。一応俺たちがそこから出た時には既に洋介たちの姿はなかった。既に荷物は手に持っていたのでそのまま下駄箱に向かう。
「今年のバレンタインは乃愛もかなり気合入れてるからさ。洋介ったらもっと乃愛のこと好きになるんじゃないかなぁ」
「そんなにか」
「うん。あまり暴走しないでくれると助かるけど……ま、無理そうだね」
まあ乃愛ちゃんのことだし洋介を困らせることは……ある意味やりそうだ。
でも、俺もやっぱり柚希っていう彼女を持つ身としてはどんなチョコをもらえるのか気にはなっている。
「カズも楽しみにしててね? 去年と同じくらい……ううん、もっと愛を込めて作るからさ♪」
「分かった。けど去年を思い出すな」
柚希からもらったチョコは帰ってからちゃんといただいたけど、本当に美味しかった。チョコの味というのはそこまで変化はないが、やはり柚希からもらったというのが大きかった。
「すげえ感謝しながら食べてたし」
「ありがと♪ でもその時からカズと良い関係になれてたら良かったのに」
「本当だよ。今ならこんなにも簡単に好きって伝えられるのに」
「うんうん。キスだって簡単に出来るもんね?」
そう言って柚希は目を閉じた。
俺は苦笑し、柚希の顔に近づいてキスをした。柔らかな唇は外の空気に触れてとても冷たいのは当然だが、キスをするだけで心がとんでもなく温かくなる。本当に魔法というか、不思議なよなキスって。
「ねえねえ、もう一回して?」
「おう」
「もう一回!」
「分かった」
帰り道、俺は幾度となく柚希にキスをねだられるのだった。
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