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新年が開けて学校がまた始まった。
一月ということもあって雪も降ってしまっている。冬休みは外から眺める冬化粧に新鮮な気持ちにはなれていたけど、こうしてこの雪の中を歩いて学校まで行くのは正直憂鬱だ。
「……はぁ」
まあでも、そんなため息を吐いても学校に行くのが俺たちの仕事みたいなもんだ。
真っ白な景色の中、柚希の作ってくれたマフラーが本当に温かい。乃愛ちゃんの手袋も温かくて……何だろうな、二人分の温もりを感じているようだ。
「さてと、ちょっと早く来ちまったな」
いつも待ち合わせしている場所ではなく、今日は柚希の家まで来た。雪が降ってて何かあったら嫌だと思い、こうして彼女の家まで来ることを提案させてもらった。予定よりも早く着いたのはちょっと予想外だ。
「……寒いなぁ」
そりゃ冬だからな。
すぐに出た結論に俺は苦笑し、インターホンを鳴らして柚希が出てくるのを待つ。するとすぐに中から足音が聞こえてきて扉が開いた。開けたのは柚希ではなく乃愛ちゃんだった。
「あ、おはようお兄さん」
「おはよう乃愛ちゃん」
柚希が居るということは乃愛ちゃんもまだ居るよな。
それから少しだけ乃愛ちゃんと話をしていると、お姫様がようやく降りてきた。
「おっはようカズ~!」
「おっと」
飛び込んできた柚希を受け止めると、彼女は嬉しそうに胸元にグリグリと額を押し付けてきた。こうされるのも久しぶりな気がしてつい笑みが零れた。
「朝からお熱いことで」
「ふっふ~ん、あたしとカズだもんこれくらい当然よ!」
「……あ~あ、冬なのにちょっと暑く……はないね寒い」
そりゃそうでしょうよ。
柚希に腕を組まれ、俺たちは揃って家を出た。目の前に広がる白銀の世界、どうやらあまり嬉しいと思わないのは俺だけじゃなかったらしい。
「雪だなぁ……」
「雪だねぇ……」
寒いのも嫌だし滑るのも嫌だ。
デートをしている時に見る雪はまた違った感覚で見れたけど、やっぱり学校に向かう時になると憂鬱になるよなぁやっぱり。
「それじゃあ私はここで。じゃあねお姉ちゃんにお兄さん」
「あぁ。滑らないように気を付けろよ~」
「そうよ乃愛。怪我とかして心配を掛けないでよ?」
俺と柚希の言葉に、乃愛ちゃんは大丈夫と手を振って走っていった。この凍みた道の上を走るのは危ないと思うんだけどなぁ……ちょっと心配だったので乃愛ちゃんの背中が見えなくなるまで俺は見守っていた。
「ふふ、カズもお兄ちゃんって感じだね」
「……心配なんだよ」
「分かるよ凄く。あたしも凄く心配だもん」
普段のやり取りを見ているだけでわかるさ。柚希が乃愛ちゃんを大切にしていることなんていつも感じ取ることが出来る。
「よし、それじゃあ俺たちも行こうぜ」
「うん♪」
天気が空気を読んだのかどうか分からないが、少しだけ雲を裂くように日差しが出てきた。それもあって降る雪も少し少なくなってきた。
「あ、ちょうどいい感じだね」
「だな」
「あたしとカズのラブラブに当てられちゃったかぁ。冬も大したこと――」
柚希がそこまで言った瞬間、日差しが消え去り強い風が吹いた。まるで馬鹿にするなと言わんばかりの強い風に雪が舞う。
「……あはは、怒らせちゃったかな?」
「かもしれないなぁ」
俺と柚希は共に苦笑し今度こそ学校に向けて歩き出した。
しかし……確かに雪が降る中歩くのは面倒だ。それは毎年感じていたことで、空と二人で登下校をする時にも変わらず感じていた。だが、傍に居るのが柚希ってだけでここまで感じ方が変わるとは思わなかったな。
「どうしたの?」
「? あぁ……柚希が傍に居るとこの冬空の下も悪くないなって」
……ちょっと恥ずかしいセリフだったか。
チラッと柚希を見ると、何とも優しい微笑みを浮かべていらっしゃった。いつ見ても見惚れてしまいそうな綺麗な笑みだ。
「あたしも悪くないなって思う。ううん、カズと居る場所はどこだって幸せで溢れてるよ」
「……そっか」
「うん♪ というかさ、考えてもみてよ」
柚希はニコニコと俺を見つめながら言葉を続けた。
「大好きな彼氏と腕を組んで歩いてる。そんな彼があたしの作ったマフラーをしているのもあるし、妹が作った手袋もちゃんと使ってくれている……こんなにもあたしにとって嬉しいがたくさんあるんだよ? 幸せ以外の言葉が出てこないもん」
それはつまり、俺が恵まれすぎてるってことだ。
まあ、だからこそこの温もりを守りたいと思う。それこそ、こんな冬の寒さに負けないくらいに柚希をしっかりと……。
「ねえカズぅ」
「どうした?」
急に甘い声を出したけど……どうしたんだろうか。
柚希は周りをチラチラと見て人が居ないことを確認し、こんな提案をするのだった。
「やっぱりちょっと寒いからさ。温かくなろ?」
「……うん?」
寒い中、周りに人が居ないのを確認して温かくなろう……え、もしかして柚希さんまさかそんな――。
「ほら、チュッてしてよ。そうすればきっと温かくなるよ♪」
「……うん。しよっか」
……きっと寒さで少し頭がおかしくなったんだそういうことにしておこう。俺は柚希に応えるように触れるだけのキスをした。照れたようにえへへと笑った柚希の機嫌は最高潮、気付けばさっきのように日差しがまた入り込んでいた。
「やっぱり、冬の天気は……ううん、言わないでおこうかな。恋人が居なくて寂しく寒い季節を彩る冬さんだもん」
「さっきよりキツイこと言ってますがな柚希さん……」
これはまた冬の機嫌が……悪くはならなかった。
というかさっきよりも日差しが強くなってきた。どうやら本当に俺と柚希に影響されて? なんてことを考えてあり得ないかと笑う。
さて、お互いに新学期初めての学校だ。
二年生としての終わりまでもう少し、取り合えず直近の学期始めのテストを乗り越えることから始まることになりそうだ。
「柚希、テストの勉強とか一緒にどう?」
「全然良いよ? 早速今日の放課後からやる?」
「そうだな。よろしく頼む」
「うん♪」
勉強も特別好きな方ではない。
でも、柚希とテーブルを囲んで勉強をするのはとても好きだ。そんな形でも勉強を好きになれるってのは良いことだと思っている。本当に色んなことを柚希が絡むことでプラスの方向へと動いていく。
「改めて今年もよろしく柚希」
「うん! よろしくねカズ!」
こうして、俺たちの新学期が始まった。
【あとがき】
youtubeのボイスコミックになるのですが、自分がシナリオを書かせていただいた作品が投稿されました!
【大嫌いな美人ギャルのピンチを助けたらイチャイチャなキスをされた。甘々なギャルは陰キャの俺に抱き着いてきて…「めっちゃ好き」俺「えっ?」】
上記が題名となりますが、このやれやれ系を少し元にして書きました。あぁこのシーンじゃんって思われる方もいるかもしれませんね(笑)
よろしければそちらの方も見てくださると嬉しいです。
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