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「者共歌えええええええ!!」
「うるさいっての!」
蓮の大声に柚希がパンと頭を叩いて抗議した。蓮はそこそこ痛かったのか隣に座っていた雅さんに泣きつき、よしよしと頭を撫でられていた。
「今のは本当にうるさかったよ蓮君」
「雅!?」
……うん、正直マジでうるさかった。
蓮を一発で静かにさせた我が愛する彼女、柚希は一仕事終えた様子で俺の隣に再び座り腕を抱きしめてきた。
さて、本日は待ちに待ったクリスマスである。
外は結構雪が降っており正にホワイトクリスマスに相応しい雪化粧だった。そんな日の夜、外では多くのカップルたちが街に繰り出している中、俺たちはみんなで集まってカラオケに来ていた。
「空君は何を歌いますか?」
「う~ん、何を歌うか……」
「ほらよう君! 私たちも歌お!!」
「おうよ!!」
みんなということはつまり、八人が全員勢揃いしているというわけだ。
空と凛さんはいいとして、少し喧嘩してしまった蓮と雅さんに洋介と乃愛ちゃんもとても仲良くしている様子が見える。
「カズったらおじいちゃんみたいな目してるよ?」
「……え?」
おじいちゃんみたいな目って俺はまだ十七歳なんだが……。
「なんかみんなを見つめる目が優しいっていうか」
「……あ~」
なんとなく納得してしまった。とはいえおじいちゃんではないけどな!
ニコニコと見つめて来る柚希から一旦視線を外し、俺はテーブルの上に置かれている寿司に手を伸ばす。
「……うまっ」
「本当に? あたしも食べよっと」
本来ならどこか飲食店にでも向かう予定だったが、カラオケの方が色々とどんちゃん騒ぎ出来るということでここにやって来た。寿司だけでなく、他にも唐揚げやら何やらは全部俺たちが買ってきたものだ。
「それじゃあ一番行かせてもらうよ!!」
お、どうやら一番手は乃愛ちゃんのようだ。
乃愛ちゃんが選んだのは演歌で……演歌!? 俺以外のみんなは特に驚いた様子もなく歌いだした乃愛ちゃんの歌を聴いていた。
「……なあ柚希」
「どうしたの?」
「乃愛ちゃんって演歌歌うんだ?」
「あぁそっか。カズは初めてだもんね。そうだよ、といっても好きとかそんなんじゃなくて単純に知ってるからって理由だけど」
「なるほど」
確かに乃愛ちゃんが選んだのは演歌だが俺も知っている曲だ。というかテレビを見ている人なら絶対に聴いたことがあるであろう有名な曲だった。
「和人、醤油取ってくれ」
「おう」
……っておい洋介、お前食ってばかりじゃなくて乃愛ちゃんの歌を……いや、こんな場だし楽しく過ごせればいいか。あんまりそういうことを指摘するのも野暮ってもんかもしれんし。
「はいカズ、マグロをどうぞ♪」
「お、ありがと」
パクリ……もぐもぐ、うん美味しい。
……こうやって柚希に餌付けされるのも良き良き……っておい、俺は何を考えてんだ。まあクリスマスってこともあるしみんなと遊んでいるからこそ俺もテンションが上がっているんだろう。
「もっといる?」
「欲しい」
「……可愛い……もっとあげちゃう♪」
寿司に付けた醤油が落ちないようにと、ちゃんとお皿ごと俺に近づけて柚希が食べさせてくれた。
「なんか和人が幼児退行してる」
「ふふ、私たちもやりますか?」
「自分で食べる方が楽……いや、食べさせてくれ凛」
「空君熱ありますか?」
「……俺が言うのもなんだけど、気を利かせたらこれだよなお前は!」
「ごめんなさい。分かってますよぉ♪」
バカップルかよ、そう小さく呟いておいた。
口の中にあった寿司がなくなると、今度は卵が乗った寿司を柚希が差し出してくる。俺はそれを口を開けて受け入れた。
「……はぁ♪ なんかこれっていいなぁ」
「そう? それじゃあ柚希もどうぞ」
「うん♪」
自分で食べれば遥かに楽なのに何やってんだろ。
俺もマグロを一つ手に取って柚希に差し出した。パクリと可愛く口を開けて食べた柚希は美味しいと満足そうな笑みを浮かべ、次に俺の手に僅かに付いた醤油に目を向けた。
ティッシュで拭こうとした俺だったが、口の中を空にした柚希が俺の手を取りそのまま指にパクリと吸い付く。ちゅうちゅうと吸い付くように俺の指を口に含んだ柚希は舌も使って醤油を舐め取った。
「……えへへ♪」
「……エッチすぎんか」
「だってカズの彼女だもん♪」
俺の彼女はエッチなのかよ! ……まあ確かに柚希のことを考えれば確かにエッチかもしれない、いいやエッチだ。
「お前ら、流石にそういうのは二人っきりでやれよ」
「そうだよ柚希ちゃん! 私だって我慢してるんだからね!」
「あはは、ごめんごめん♪」
俺も柚希に続くように悪いと言っておいた。
というか、蓮にそう言われるのもあまり納得いかない気がするんだが……まあ今ので柚希も自重したのか舐めるようなことはしなくなった。代わりにボディタッチがもっと増えたけど。
「それじゃあ次は誰が歌う?」
「俺が行くぜ!!」
乃愛ちゃんの次は蓮が歌うみたいだ。
さて、そんな風にしてみんなでクリスマスの夜を楽しんだ。解散する時はそれぞれカップルで別れ、俺は当然柚希を連れて彼女の家に向かった。
「……雪って冷たいけど幻想的で好き」
「そうだな。本当に綺麗だ」
街頭の下を通れば雪が宝石のように輝いている。
冬だからこそ雪ってのは当然の光景で積もっていればそれはそれで何か楽しみが見出せることもある。ま、母さんは車を運転するから雪は大嫌いって言ってたが。
雪が降る中を二人で歩き、柚希の家にようやく着いた。
何やら用意するものがあるとかで柚希は部屋に向かってしまい、俺はそれまでリビングで時間を過ごすことになった。
「柚希ったら何を用意してるのかしらね」
「……ちょっと想像出来ないですが」
家が近づいてからソワソワしてたけど、ちょっとだけ俺もワクワクしていた。
藍華さんと康生さんと話をしているとメッセージが柚希から届いた。どうやら準備が出来たらしいので今から部屋に来てほしいとのことだ。
「それじゃあ行ってきますね」
「あぁ、いっておいで」
「いってらっしゃい」
二人に声を掛けて俺は柚希の部屋に向かった。
目を閉じて中に入ってほしいと言われていたので、俺は扉を開けてから目を閉じてそのまま中に入った。
「いいよ、目を開けて」
「おう……」
柚希に許可をもらい俺は目を開けた。
するとそこに居たのは――。
「じゃ~ん! どうかな?」
可愛らしいサンタ服に身を包んだ天使だった。
【あとがき】
許せサスケ、次回は少しエッチ……かもしれない。
そりゃこんなカップルの聖夜がそのまま終わるわけもなく……うふふ。
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