159

「昨日はお姉ちゃんとエッチしなかったの?」

「ぶふっ!?」


 柚希の誕生日翌日、俺は乃愛ちゃんからの言葉に思わず飲み物を吹きそうになってしまった。軽く咳をする俺を見て乃愛ちゃんがニヤニヤと笑っており、よくも不意打ちをしてくれたなと俺は乃愛ちゃんを見つめた。


「ごめんごめんって。でもちょっと意外だったんだよね。昨日はお姉ちゃんの誕生日で燃え上がってもおかしくないのに……これでも心の準備はしてたんだよ。うちって壁が薄いから」

「記念日だから取り敢えずエッチとはならないだけだよ」


 柚希の家では基本的に特定の場合を除いてそういうことはしないと思う。さっき言われたように壁が薄いし、ご家族が勢ぞろいってなると流石に……ね?

 今俺と乃愛ちゃんは藍華さんや康生さんから離れてるとはいえ、咽た俺が気になったのか二人が見つめていた。


「ま~た乃愛が困らせることを言ったのかしら?」

「またって何よ!」

「乃愛、何をしたんだ?」

「お父さんまで酷い!!」


 酷いとは言っても弄りってのは分かっているのか乃愛ちゃんは笑っていた。

 俺は改めてコップに注がれているジュースを喉に通す。寝起きということもあって柚希はシャワーを浴びに浴室に行っておりここには居ない。傍に柚希が居ないから乃愛ちゃんもこういったことを聞いてきたんだろう。


「そういう乃愛ちゃんは洋介とはどうなんだ?」

「……あうぅ」


 ちょっとセクハラかもしれないが揶揄うつもりならある程度反撃されることは覚えておくといいぞ乃愛ちゃんや。


「お兄さんが最近手厳しい……」

「偶には反撃もするからな」


 そう言って乃愛ちゃんの頭を撫でた。

 不満そうにはしていても、撫でる手を受け入れるように目を細めている姿はやっぱり柚希を彷彿とさせる仕草だ。こういうところはやっぱり姉妹で似ている、改めてそう思えた。


「お待たせ~。ふぅスッキリしたぁ!」


 シャワーを浴び終え、パジャマから私服に着替えた柚希がリビングに入ってきた。髪も含め全てセットが完了しており、彼女はソファに座る俺を見つけていの一番に抱き着いてきた。


「寒いからこうしないとねぇ。えへへ、カズが温かいよぉ♪」

「……………」


 うん。

 今日も俺の彼女は最高に可愛い。


「今日も俺の彼女は最高に可愛いって顔してるよお兄さん」

「っ!?」


 完全に考えていたことを見透かされてしまい俺はまた咽てしまった。


「もう乃愛ったら♪ カズのことを分かってきたわね♪」

「……えっと、柚希も?」


 そう問いかけると柚希は頷いた。


「当然だよ。あたしがカズのことで分からないことなんてないもん!」

「……だよなぁ。もう柚希には全部筒抜けだぜ」


 まるで心臓を拳銃で撃たれたかのように、俺は柚希に抱き着くように体を寄せた。柚希は俺が体を向けた瞬間に受け入れ態勢に入り、そのつもりではなかったがちょうどその胸元に顔が吸い寄せられた。


「よしよし、今日もカズは可愛いね。もっと甘えてね? 今日は休日だからずっとこうしていられるから」

「ずっとはあれだけど……少し甘えよう」

「うん♪」


 ええい、乃愛ちゃんも居るし藍華さんも康生さんも居るけど知ったことか。俺はしばらく柚希に甘えることにする!!


「いいわねぇ。あなたも昔はこうだったじゃない」

「藍華」

「ああやって俺は藍華に甘える! そういって胸に飛び込んてきたもの。覚えてるわよあなたの可愛いところは全部」

「……藍華」

「今からする? ほらあなた、何歳になっても私たちは愛し合う夫婦なのだから遠慮はいらないわよ?」

「……………」


 ……何だろう、物凄く気になるやり取りが背後で行われている気がする。

 藍華さんが康生さんのことをそれはそれは愛していることは知っているけど、あの康生さんはそれに応えるのか? どうなんだ!?


「……おぉ、パパがママに甘えてる」

「カズぅ。すきぃ♪ 大好きすぎて毎日幸せだよぉ♪」


 柚希に嬉しいことを言われながら、乃愛ちゃんの言葉に俺も見たいという欲求に駆られてしまう。しかし柚希にガッシリと抱きしめられているので動くことも出来ず、彼女の抱擁を抜け出すとそれはそれで悲しい顔をされそうなので俺は結局藍華さんと康生さんのやり取りは見れなかった。


 それから改めて柚希の部屋に向かい二人っきりになった。

 休日だしいくら寒いとは言ってもどこかに出掛けようか案は出たのだが、結局今日はこのまま二人で時間を潰すことに。


「クリスマスはどうしようかな?」

「う~ん、どうしようかなぁ」


 恋人になって初めてのクリスマス、当然一緒に過ごすことは決定している。ただどのように過ごそうか、それがいまだに決まっていないのだ。自由気ままに、二人で居られることが幸せなのでそのままゆっくりするのもいいのだが……どうしよう。


「ねえカズ、私的には外での時間は少しでいいかなって思うの。もちろん外で二人イチャイチャしたい気持ちはあるけど、雪菜さんも一緒に過ごしたいかな」

「……そっか」


 それで決定かなと俺と柚希は頷いた。

 クリスマスの夜は基本的に今までは母さんと過ごしていた。彼女が居なかったからこそ寂しい奴だなと思われていたかもしれないが、母さんと一緒に小さなショートケーキを食べる時間は楽しかった。母さんも楽しみにしていてくれたし、それを考えれば柚希の言葉は本当に嬉しかったのだ。


「俺はさ」

「うん」

「乃愛ちゃんを含めて藍華さんや康生さんが大好きだ」

「うん」


 柚希だけじゃない、柚希のご家族のことは本当に大好きだと思っている。彼女の家族というのもあるけど、単純に今まで接してきて素敵な人たちだと分かっているからだ。


「そして、柚希が母さんのことを大切にしてくれることも凄く嬉しいんだ。本当にありがとうな柚希」


 そう伝えると柚希はううんと首を振った。


「お礼なんていらないよ。雪菜さんはあたしにとっても大好きな人だし、昔のカズのお話で盛り上がったり出来るからね!」

「……あまり恥ずかしいことは聞かないでもらえると」

「えぇどうしようかなぁ?」


 挑発するように柚希は舌をペロッと出した。

 そんな挑発する仕草でも柚希がやれば可愛いの言葉しか出てこないので嫌な気持ちには本当にならない。というか、どんな話をされたとしても母さんと柚希が仲良く話している姿はずっと見ていられるんだよな。


「感謝」

「え?」

「柚希に出会えたことに感謝、ほんとそれだけだわ」

「ふふ、いきなりどうしたの?」


 隣に座った柚希が人差し指でツンツンと突いてくる。やり返す意味ではないが柚希の肩を抱いて引き寄せ、そのまま思う存分柚希の感触を楽しんでいた……そんな時だったのだ。


「……うん?」

「どうしたの?」


 クローゼットが微妙に開いてて何か目立つ赤い色が見えて――。


「……はっ!? まだダメだよカズ! あれはサプライズなんだから!!」

「わ、分かった!」


 絶対にダメ、食い気味に言われたので俺は頷くしかない。

 でも……サプライズって聞いてしまったし一体あの赤色が齎すサプライズとは何なのかちょっと気になってきたぞ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る