158
「ちょっと乃愛、アンタそんなにケーキ食べて大丈夫?」
「大丈夫だよ。どれだけ食べても太らないし!」
「……こいつめ」
蓮と雅さんの出来事から数日が経過し、ついに柚希の誕生日がやってきた。
学校が終わった後、俺はすぐに柚希の家に向かい乃愛ちゃんと一緒に色んな準備を始めた。柚希も手伝いたそうだったが、今日は柚希の誕生日だからこそ部屋で待ってもらった。
そうして準備がある程度整い、藍華さんと康生さんも帰ってきてついに誕生日パーティが始まったというわけだ。
既に俺以外のみんなはプレゼントを渡し終えた。俺の分は後で柚希の部屋で、そう柚希が希望したのでまだ渡していない。
「こうして柚希の彼氏も一緒に誕生日を祝えるのは良いことだ。今日はありがとう和人君」
「いえいえ、彼氏として当然ですよ」
彼氏として当然……か。
こうしてこんな言葉を言える日が来るなんて本当に去年くらいは思いもしなかったな。俺の言葉に康生さんは笑みを浮かべ、俺は康生さんのコップにビールがなくなっているのに気づいて注いだ。
「どうぞ」
「ありがとう」
流石に俺は酒を飲めないけどこうして注ぐくらいは出来る。
「幸せを噛みしめながらのビールは美味いな。なあ和人君、お酒を飲めるようになったら是非一緒に飲もう」
「いいですね。凄く楽しみです」
素朴な疑問なんだがビールって美味しいんだろうか。まあそれも後三年して二十歳になったら分かることだな。その時は俺だけじゃなく、柚希も混じって一緒にお酒を飲もう。きっと、きっと楽しいと思う。
「はい和人君。もう一切れどうぞ」
「あ、ありがとうございます!」
藍華さんが最後の一切れを皿に乗せて持って来てくれた。
「柚希も今日で十七歳かぁ……ねえあなた、あの子は本当に立派になったわね」
「そうだなぁ……今ではこうして和人君と素敵な彼を見つけた。毎日幸せそうにしているあの子を見ると……っ」
「あらあら、ほらハンカチよ」
……はは、ちょっと見ないでおこうか。
藍華さんにハンカチを渡されて涙を拭う康生さんから視線を外し、俺はイチゴの乗ったショートケーキを食べる。美味しいクリームの味が口の中に広がり、乃愛ちゃんが美味しいと言って手が止まらない気持ちが良く分かる。
「カ~ズ!」
「おっと……」
ケーキを食べていた俺の背に柚希が抱き着いて来た。
肩に頭を乗せる形、首に顔を近づけているのでとてもくすぐったかった。けれどそれでも離れてほしいと思わないのは相手が柚希だから。大好きな子だからこそ、もっと傍に居てほしいと思うからだ。
「ズルいから私も抱き着くもんね」
「きゃっ!? ちょっと首に顔を近づけないで!」
「むふふ♪ くすぐったい~?」
「くすぐったいから……ふわっ!?」
……この二人分の重さもまた、幸せの重さってな。
それから柚希と乃愛ちゃんが涙を拭く康生さんを揶揄い、流石にやり過ぎだと藍華さんが怒って二人が土下座をし、そんなみんなを見て笑う俺が居た。
「あ~楽しかったなぁ!」
「お疲れ様」
その後、片付けも終えて柚希の部屋に向かった。
時刻は九時くらいで明日も学校だが、今日はこっちに泊まるつもりだ。そのための荷物も持ってきているし準備は万端である。
さて、そこでアレを鞄から取り出した。
「柚希」
「っ……うん」
「お誕生日おめでとう」
「ありがと♪」
笑顔で俺のプレゼントを受け取ってくれた。
瞳をキラキラとさせ、ワクワクを隠し切れない様子で柚希は袋からテディベアのぬいぐるみを取り出した。
「うわぁ……可愛い!」
「……ほっ」
手にしたぬいぐるみを胸に抱え、嬉しそうにしているのを見て俺はホッとした。ぬいぐるみが抱えている箱にも気づいた柚希はそれを開けた。
「アロマキャンドルかな? これもいいの?」
「あぁ。それも柚希へのプレゼントだ」
「えへへ、ありがとう本当に♪」
……って柚希の瞳から一粒の涙が零れ落ちた。
俺はつい立ち上がって彼女の傍に近寄り、ハンカチを目元に当てて涙を拭った。
「ごめんね? 嬉しさに感動しちゃってつい涙が出ちゃった」
感動とはいえ涙を流したことはビックリしたけど、そこまで嬉しいと思ってくれるのなら本当に嬉しいことだ。
更に、俺が柚希の為に用意したプレゼントはもう一つあった。
「柚希、実はこれもプレゼントなんだ」
「え?」
俺が取り出したのは小さな箱だ。
実は元々これは買う予定にはなかった。ただ蓮と雅さんのあの騒動があってそれもありだなと思って急遽買ったのだ。
柚希の前に差し出し、パカッと音を立てて箱を開けた。
「……あ」
目を丸くした柚希は箱の中身と俺とを交互に見つめた。
「値段は凄く安いモノだけど、凄く綺麗だったのを選んだんだ。あはは、流石に高校生のクセしてマセ過ぎだろって感じだけど……柚希にプレゼントしたかった」
それは銀色に輝くリングだった。
さっきも言ったように全然高くはないモノ、それでも俺は柚希にプレゼントしたかったんだ。
「……っ……もちろん、薬指だよね?」
「っ……そうだと嬉しいかな」
「うん!」
俺はリングを親指と人差し指で掴み、柚希の薬指に通した。
これはもちろん結婚指輪ではない。ただのアクセサリーの類だ……でも、未来がそうであってほしいと願いを込めた代物でもある。
「ちょっと重たいかなとは思ったんだよね。どう?」
「……重すぎるよ。あたしじゃないとこれは受け止められないってば♪」
ドンと音を立てるように柚希が俺の胸に飛び込んできた。
震わせる体に俺は柚希がとても喜んでくれていることを感じ、これを用意して良かったなとそう思えた。
しばらく柚希が落ち着くまで待ったのだが、結局落ち着いたように見えても頬は緩みっぱなしでずっとリングを見つめていた。
「……はっ!? ヤバいよカズ! あたし、幸せが天元突破しそう!」
「そんなに?」
「うんうん! 宇宙も飛びぬけそうだよ!」
本当にそこまで喜んでもらえて何よりだよ。
流石に明日に備えるということで二人でベッドに横になった。俺の胸元に顔を寄せている柚希がこんなことを口にした。
「ねえカズ、実はね……あたしカズと付き合った時から考えてたことがあったの」
「考えたこと?」
「うん。もしも……もしもカズとあたしがずっとエッチをしなかったらね? カズとの初めてがあたしにとって最高のプレゼントだよって言うつもりだったの」
「……そうなんだ」
「うん。あたし、本当にエッチな女の子」
綺麗な歯を見せるように柚希は笑った。
でも確かにそんなことを言われたら絶対拒否できないよな。ま、そうなる前に柚希と済ませた結果になるんだけど。
「あたしたち、二人で幸せになろうね?」
「あぁ」
「どちらかだけが幸せじゃダメ。どっちも幸せにならないと、それはお互いにとっての幸せじゃないから」
「そうだな……そのために頑張って行かないとだ」
「うん!」
幸せの明確な基準は分からない。
けれど、間違いなく今の俺たちはお互いに幸せなんじゃないか? それだけは自信を持って言えるんだ。少なくとも俺はそう言える。何故かって?
「柚希、好きだよ」
「あたしもだよ!!」
この子を好きだと言える今を生きているから。
それだけは絶対に間違いじゃない。
そう、俺は断言できるのだ。
【あとがき】
2022年最初からイチャイチャを弾頭に込めて発射!!
みんなの心に着弾しろおおおおおおお!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます