157
「よ、悪いな」
「いや、全然いいよ」
夜、夕飯を済ませてから俺は蓮と落ち合うことにした。
雅さんと喧嘩をしたらしいが、正直それだけ聞いても特に大したこととは思わなかったのだ。ただ、蓮の様子がいつもと違ったのでやっぱり気になった。
「さみぃな」
「んだな。ほれ、温かいやつ」
「サンクス」
蓮から温かい飲み物を受け取った。
お互いにベンチに座り、早速何があったのかを聞くことにしよう。
「それで? 何をしたんだよ」
「……それが」
そうして蓮に話を聞いた。
なんでも雅さんが大切にしていた指に嵌めるリングがなくなったらしい。それは中学の頃に蓮がプレゼントしたもので、まるで結婚指輪のように大事にしていたとのことだ。
「それで無くしたって言われてさ。俺としてはそうかってだけなんだけど、雅からしたら違ったらしくてずっと探してたんだ今日」
「うん」
「それでどこを探しても見つからなかったからまた同じやつを買ってやるって言ったんだよ。だけどあれじゃないとダメだって……ずっとそのやり取りをしてちょっとイラってなってさ」
「キツイ言い方をしたってわけか?」
「あぁ……あんな傷だらけのものはもういいだろって。ほんとバカだよな、雅にとって大事にしていたモノをそう言っちまった」
なるほど、確かに言われた側からすれば傷ついてしまうかもな。
それも大好きな蓮からの贈り物、そこまで探すってことはそれだけ大事にしていたってことだろうし。蓮の気持ちも分からないでもないけど、もう少し雅さんのことを考えるべきだったか。
「……でもしつこくされたら確かに」
俺にはそういった経験がないので何とも言えないが、その場面を想像すると確かに少し面倒かもしれない。ま、その相手が柚希だとしたら俺も必死に探すだろうけど。
「それで大嫌いって言われて家を追い出された……ったく、久しぶりに言われたな」
「前もあったのか?」
「あぁ。結構あったかな。その度に仲直りするのが当たり前だったけど、あそこまで雅が怒ったのは初めてかもしれない」
そこまでなのか。
蓮はクスッと笑みを浮かべ、明るい口調で言葉を続けた。
「悪いな。わざわざ呼び出しちまってさ」
「良いって別に。誰かに聞いてもらわないと不安だったんだろ? その相手が俺ってのは光栄ってもんだ」
「はは、そうか。ありがとな和人」
だから良いって。
俺は笑いながら肩をトンと押した。だけど問題はこれからだな……さて、どうやって仲直りというか話をさせるかだけど。ぶっちゃけそこまで心配はやっぱりしてないんだよな。だって蓮と雅さんだし、すぐにケロッとしてイチャイチャしてそうだもんな。
「取り敢えず話してみるに越したことはないか」
「かもな。何なら付き添うけど?」
「さんきゅー、今日は遅いし後日頼むかも」
「お安い御用だ」
そんなやり取りを最後に蓮と別れた。
やっぱりここまで来てもそこまでの心配はしてないけど、蓮の力には極力なるつもりだ。やっぱり喧嘩するよりも笑顔で居てもらいたいしなあの二人には。
「ただいま~」
「おかえり。何があったの?」
「蓮と会ってた。内容は……ちょっと言えないけど」
「そう、頑張ってね和人」
俺が頑張っても仕方ないんだけどな。
それから部屋に戻ってしばらくすると、再び電話が掛かってきた。蓮の可能性もあるけど柚希かな? そう思ってスマホを覗き込むと……まさかだった。
「……雅さん?」
まさかの雅さんから電話が掛かってきたのだった。
……よし、俺はごくりと唾を吞んで電話に出た。
「……もしもし?」
『もしもし和人君。いきなりごめんね』
「いやいいよ。えっと……どうしたの?」
そう聞くと、雅さんは話してくれた。
蓮と喧嘩をしてしまったこと、ついキツイ言い方をしてしまって家から追い出したことを教えてくれた。蓮から聞いていたことをほぼそのままだけど、この様子だと雅さんもかなり反省しているみたいだ。
しかし、なんで俺なんだろうか。
そう思ったけどほぼ蓮と同じことを言われてしまった。他の面子なら謝ればいいじゃないかとそれだけ言われると思い、客観的に意見を言ってくれるであろう俺に話を聞いてもらいたかったと。
「俺もみんなと同じ意見ではあるけどなぁ……はよ仲直りしろって」
『あはは、そうだよね。それが一番だけど……蓮君に大嫌いなんて言っちゃって。それで私も同じこと言われたらと思うと凄く怖くて』
……なるほどな。
でも、俺としてはやっぱり蓮と雅さんだなと苦笑した。俺はさっきまでのこと、蓮から相談されたことを伝えた。
『そう……だったんだ。もう私ってほんとに馬鹿だよ……馬鹿馬鹿!!』
結局お互いに考えていたことは同じだったわけだ。
これならいつでも話をすればすぐに仲直りできるだろう。クリスマスを前に大問題が転がり込んできたかと思ったけど、特に何もなく解決しそうで何よりだ。
『……リングね。あったんだ』
「そうなのか? 良かったじゃん」
『……私の部屋ちょっと散らかってるんだけど』
あ……。
『普通に部屋に……ありました』
……それは雅さん、アンタが悪いよ。
「謝ろうか」
『……うん。そうだね』
一気に体から力が抜けた気がした。
でもこれもあの二人っぽいって感じがする。何はともあれ、全然大丈夫そうってことでいいよな。
ちなみにこの出来事は後日みんなに共有され、柚希と凛さんに呆れられることになり、ちゃんと掃除が出来るようにと矯正されることが決定した。
「そもそもアンタの部屋汚すぎるのよ!」
「そうですよ。汚部屋ですよ汚部屋!」
「そこまで言わなくてもいいでしょう!?」
「文句あんの!?」
「文句あるんですか!?」
「……ないです」
……柚希と凛さんが団結すると怖いんだね、今更だけどそう思った。
今回のこの出来事はこんな形で幕を下ろすことになったけど、一番これから大変なのは雅さんの方だったな。
【あとがき】
古いモノでも新しいモノを買えばいいってのは確かにありますが、結構こだわりを持っている人も居るので言葉は選びましょう……結構大変なことにリアルでもなることがあります(笑)
っと、取り敢えずはこの辺で。
みなさんよいお年を!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます