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「……女性へのプレゼントって何が良いんだ?」


 俺は今、人生で一番悩んでいるかもしれない。

 今口にしたように、俺は一人柚希へのプレゼントについて頭を悩ませている。


「……う~ん」


 一番良いのはどんなプレゼントが欲しいか聞くことだけど、せっかくのプレゼントなのに本人に聞いてはサプライズも何もない。柚希がマフラーを内緒で作ったマフラーをくれたように、俺も何とか一人で考えてプレゼントをしたいところだ。


「……う~ん」


 腕を組んで色んなものを見ながら考える。

 今日は柚希とは一緒ではなく、こうやって少し考えたいことがあったので一人で街に繰り出していた。十二月になったことでクリスマスの時期、それもあってプレゼントを探すのに適していると思ったのだ。


「……あれは」


 そんな中、俺が見つけたのはテディベアのぬいぐるみだった。

 薄いピンク色を基調とした毛並み、そして着ている可愛らしい服もピンク色で女の子が抱くと可愛く見えるんだろうなと思う。


 柚希にこんな可愛すぎるものが……いいな、凄く良い。


「うんうん。中々良いんじゃないか?」


 可愛いと綺麗が同居している美貌の柚希だが、どちらかといえば綺麗という意見が多いだろう。そんな彼女がこういった可愛いぬいぐるみを胸に抱く姿……俺はそれを想像して速攻で買うことにした。


 柚希の部屋にも少なからずにぬいぐるみは置いてあったし、決して嫌ではないと思うのだ。


「それにしても、こういう時に女性経験の無さが出てきたな」


 今更それを言っても仕方ないだろうと苦笑し、俺はぬいぐるみを手にレジまで向かった。その途中で小さなアロマキャンドルも買い、大きさが程よかったのでぬいぐるみに持たせるようにしてみた。


「おぉ……いいなこれ」


 ぬいぐるみが両手でキャンドルの箱を抱きしめているような姿だ。男の俺から見ても可愛いと思うし、これで柚希への誕生日プレゼントは決定だ。

 プレゼント用の包装をしてもらい、袋を手に俺は帰路に着く。そんな時だった、聞き覚えのある声が聞こえたのは。


「あれ、お兄さん?」

「え?」


 振り向いた先に居たのは乃愛ちゃんだった。

 他にも何人か同い年くらい女の子がおり、おそらく乃愛ちゃんの同級生だろう。


「誰なの?」

「お姉ちゃんの彼氏さん! 私の大好きなお兄さんなんだ!」

「へぇ……この人が例の」


 例のって……乃愛ちゃんは俺のことをなんて伝えているのか気になる。

 友人たちに声を掛けて乃愛ちゃんが駆け寄ってきた。そのまま彼女たちは背中を向けて歩いて行ったので、ここで別れることにしたみたいだ。


「いいの?」

「うん。お兄さんと一緒に帰ろうかなって」


 そういうことなら一緒に帰ろうか。

 乃愛ちゃんと並んで歩いていると、当然俺の持っている紙袋が気になったみたいだった。


「それ、お姉ちゃんへのプレゼント?」

「あぁ」

「何を買ったの?」

「……言わないとダメか?」

「あはは、冗談だよ。お姉ちゃんに最初に見せてあげて」


 これで見せてくれと駄々を捏ねられたら困っていた。

 乃愛ちゃんの言葉には賛成で、俺もこれを最初に見せるのは柚希だと決めていた。


「お兄さんはお姉ちゃんが初めての彼女なんだよね?」

「そうだけど?」

「それなら、結構プレゼント悩んだんじゃない?」

「……悩んだ」

「だよねぇ。何となく想像出来るし」


 そんなに分かりやすいかな。

 まあ隠すことでもないし、結構悩んだのは間違いなかった。乃愛ちゃんはクスッと笑いながらも、こう言葉を続けた。


「凄く迷うけど、それはお姉ちゃんのことを想ってのこと。必死に悩んで、お姉ちゃんを喜ばせたいっていうお兄さんの姿が簡単に想像出来た」

「そんなにか」

「うん。お兄さんがお姉ちゃんのことをどれだけ好きか知ってるし、未来の妹としてもすぐ分かることだよね♪」


 乃愛ちゃんの言葉に俺は小さく笑うのだった。

 そんな風に乃愛ちゃんと楽しく歩いていると、ふと気になったことがあった。


「あ、そう言えば乃愛ちゃん」

「なに?」

「柚希から……何か聞いたか?」

「何か?」


 首を傾げる乃愛ちゃんに俺は気を付けて言葉を選んでいく。


「クリスマスとかに……あれは止めた方がいいとか、そういうこと」

「どういうこと?」

「……………」


 これは柚希何も伝えてないな。

 あのチョコ塗りたくり事件は確かに俺と柚希は燃え上がったけど、流石に付き合ったばかりの乃愛ちゃんと洋介にはちょっときついかもしれない。その意味も込めて柚希が止めさせると言っていたんだが……言わないでいた方がいいのかこれは。


「クリスマス……ふふ、ねえお兄さん」

「な、なに?」

「私、頑張るからね!」

「……あぁ」


 まあきっと大丈夫だろううん!

 どうなるか分からないがどっちに転んだにしろ、乃愛ちゃんと洋介にとって良い形に落ち着くことを祈ることにしよう。途中まで歩き乃愛ちゃんと別れ、俺は自宅へと戻った。


「……?」


 そして、自宅にちょうど着いた時に蓮から電話が掛かって来ていた。

 蓮からこの時間帯に電話が掛かってくることは珍しいので、どうしたのかと思い俺は電話に出た。


「もしもし?」

『……もしもし、こんな時間に悪いな』

「いや、まだ夕方だし全然いいさ。どうしたんだ?」

『あ、あぁ……その……だな』


 妙に歯切れが悪いな。何かあったのか?


『空も洋介もあれだからさ……和人に電話しちまった』

「……どうした?」

『……喧嘩した』


 喧嘩?


『雅と喧嘩してさ……電話にも出てくれねえし、メッセージも見てくれない』

「何かしたのか?」


 蓮と雅さんが喧嘩……か。

 ちょうど最近喧嘩はするけどそこまでで、すぐに仲直りするって話をしたけど蓮の声音はかなり深刻そうだ。

 まあでも、蓮と雅さんのことだし後日にはケロッとしてイチャついてそうだけど話は聞くことにしよう。


 柚希の誕生日とクリスマスを前に、俺の前に問題が転がってくるのだった。


 

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