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「……ふわああああああああああああっっ!?!?!?」


 夜、お風呂であたしは近所迷惑にならない程度に叫び声をあげた。

 カズとの愛の営みを終えてお風呂を借り、シャワーを浴びていると頭が冷静になったのだ。そうなると思い出すのがさっきまでのこと、正直タガが外れていたことは否めない。


「あたしはカズの誕生日に何をしてんのよおおおおおおお!!」


 シャワーを浴びながら思わずその場に蹲った。

 カズと初めての誕生日お祝いということでテンションが爆上げされており、そのテンションのまま私をたべてのシチュエーションを決行、その時点で既におかしかったのに……おかしかったのにぃ!!


「あ、あんなことまで……うがああああああああっ!!」


 胸にチョコをふんだんに塗って食べてはまだいい……いや良くはないかもしれないけど、そんな風に舐められて完全にスイッチが入ってしまった。


『あたし、自分が思ったよりも変態かも……ねえカズ、あたしにお仕置きして。この変態って……いっぱいいっぱい躾けして?』


 なああああああにをやってるんだあたしは!!

 いや、確かにそんな願望がないわけじゃなかったしカズとのときめく濃厚な絡みが出来たことは幸せだった。それはもう素晴らしい時間だったのは言うまでもない、でも流石に変態が過ぎるでしょおおおおおお!!


「……はぁ……はぁ」


 ……違う、これはあたしが悪いんじゃなくてチョコが悪いんだ。

 あいつのせいでちょっとおかしくなっただけなんだ。いつもならやることやっても普通だし? アレを強く抓られるのがちょっと好きとかはあるけどそれくらいだしおかしくないもんね!!


「……出よ」


 いつまでもこうしてても仕方ない。

 あたしはお風呂から出てカズの待つ部屋に戻った。扉を開けて中に入るとカズは当然着替えを終えており、ベッドに横になってスマホを弄っていた。


「あ、おかえり柚希」

「……カズぅ!!」


 ぴょんと飛んでカズの元へジャンプした。

 あんなに恥ずかしかったのに、あんなにちょっと後悔したのに、カズが笑いかけてくれるだけでどうでもよくなってしまう。


「ちゃんと流せた? 大分チョコでベトベトだったけど」

「……ばか」


 ……恥ずかしくてカズの胸に顔を埋めた。

 スマホを置いて頭を撫でてくれる。その優しい手つきからカズの優しさが伝わってくるようで……ふふ、以前カズはあたしに撫でられるのが好きって言ったけどそれはあたしも同じだよ。

 でも……。


「さっきのは黒歴史確定だよぉ!」

「そうかな? 色々と可愛かったけど?」

「……なんか今日のカズ意地悪♪」


 あれ、なんで意地悪って言ったのに私の声は弾んでいるんだろう。意地悪って言われたカズは一瞬目を丸くしたけど、すぐにクスッと笑った。


「柚希が可愛すぎるのがいけないんだ。なんだかちょっとイジメたい気分」

「……うあっ!」


 え、何今の……何今の!?

 ヤバい、あたしの中の雌がめっちゃ喜んでるんだけど!? もっとイジメてほしいとかそんなこと思っちゃってる!? マズいマズい、なんか変な扉の向こう側からノックしてくるんだけど!?


「なんてな。冗談だよ」

「……ばかぁ」


 このばかは一体どっちに向けてのばかなんだろう……。

 取り敢えず、あたしは少しでも落ち着くためにカズに抱き着いたままだ。カズは何も言わずにあたしの頭を撫でながら背中も擦ってくれる。全身であたしを包んでくれていることに幸せが溢れてくる。


「柚希」

「なあに?」

「ありがとうな」

「……えへへ、うん♪」


 こちらこそ、だよ。

 大好きなカズの誕生日をお祝いすることが出来た。それはあたしにとって本当に嬉しいことだったんだ。となると、これはあたしの誕生日の時もたくさんの愛を期待しちゃうなぁ!


「ねえカズ、来月はあたしの誕生日だね」

「そうだな。色々と用意しないとだ」

「あまり高い物とかはダメだよ?」

「分かってる。でもちょっとは見栄を張りたいかも」

「……あたしはただ、おめでとうって言ってくれるだけで嬉しいけど♪」


 でも、そうなるとカズは何をプレゼントしてくれるんだろうか。

 本当に楽しみ……なんでも嬉しいけどね。あ、でもさっきあたしをイジメたい気分とか言ってたし、今度はあたしがその立場になってもいいよねぇ?


「あたしと同じことしてもいいよ?」

「同じこと?」


 カズの腕の中から抜け出し、あたしはカズの腰に跨るような姿勢になった。カズの両腕を押さえつけ、まるでこれからあなたを襲いますと言わんばかりの構図だ。


「あたしみたいに体にチョコを塗って食べてくれでもいいんだよ?」

「……げぇ!」

「あはははははははっ!!」


 ちょっと想像してしまったのか気持ち悪そうな顔をカズはしていた。確かに男子からしたらそういうことになるかもしれないけど、あたしからすれば全然いいんだけどねぇ。たっぷりじっくり味わって食べてあげるぅ♪


「チョコバナナとか?」

「この話は終わりだ柚希!」

「いっつも食べてるからお腹いっぱいだろって?」

「柚希さああああああん!!」

「……あぁ♪ イジメられるのもいいけどイジメるのもこれはこれで♪」


 まあでも、ありのままのあたしたちが一番最高だよね。


「でもねカズ」

「うん?」


 あたしはこれは絶対伝えたかった。

 とても大切なこと、絶対に続けたいことだから。


「これから先、お互いがおじいちゃんとおばあちゃんになってもお祝いしよ? ずっとずっと一緒だからね? だからお願い……居なくならないでね」

「……あぁ、分かってる。その代わり、柚希もだからな? 勝手にどこかに居なくならないでくれよ?」

「うん……分かってるよ♪」


 これは誓いみたいなものだ。

 あたしは絶対にカズの傍から居なくならない。そしてカズもあたしの傍から居なくならない。これは呪い? 呪縛? 全然違う、あたしたちを繋ぐ約束だ。


「……これ、乃愛にはやめるように言っとかないと」

「え?」

「あのさ……あの私を食べて作戦なんだけど、割と本気で乃愛も洋介にしようとしてるんだよね。時期的にはクリスマスが一番近いからその時かな」

「……あ~」


 まさかあたしもあそこまで乃愛が本気にするとは思わなかったから……洋介の場合体が汚れるぞってだけで乃愛の覚悟を粉々に砕きそうだし。うん、絶対にやめさせよう! 普段に比べてテンションが馬鹿になるから歯止めが利かなくなるよって絶対に教えないと。


「でも正直、あんなエッチな柚希も好きなんだけど」

「……本当に?」


 そ、それじゃあクリスマスの夜にまた私を食べて作戦しちゃおっかなぁ?

 ってダメダメ! 流されるな柚希、あたしはもうしないんだから!


「柚希を食べたい」

「……しょうがないにゃぁ♪」


 ごめん、無理だった。

 あたしの決心のなんて儚い事……ま、分かってたけどね。

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