154
「カズ、あたしを食べて?」
目の前で胸元にチョコを塗った柚希が俺にそう言った。
あまりにも卑猥な姿、けれどもその姿から目が離せないことに俺もやはり男なのだと実感した。
さて、何がどうしてこうなったのか。
少しだけ時間を戻して説明することにしよう。
「カズ!」
「お兄さん!」
「和人!」
『お誕生日おめでとう!』
本日は俺の誕生日、その夜のことだ。
柚希、母さん、乃愛ちゃんに俺は祝ってもらっていた。今日は朝から学校でも空たちに祝ってもらうと同時に、歳を一つ取って十七歳になったんだなと実感した。
「ありがとう本当に。凄く嬉しいよ」
空たちとは学校でのやり取りで済ませたが、家に帰ると柚希たちにお祝いをしてもらうことはもはや必然だった。
「カズが年上かぁ……えへへ、それも素敵だね」
「十七歳……本当に大きくなったわねぇ!」
「むがっ!?」
感極まった母さんに抱きしめられ、その胸元に頭を抱き抱えられた。
微笑ましく見つめてくる柚希と乃愛ちゃんの前でこれは恥ずかしいのだが、母さんの様子を見るに離れてくれとも強く言えなかった。
「和人ぉ……これからも健やかに育ってね?」
「……あはは。もちろんだよ」
母さんにそこまで願われて心配させるようなことはしないさ。
それからしばらう母さんに抱きしめられていたが、満足したのか解放された。そう思ったら今度は柚希に抱きしめられることに。
「……あたしもこうしたいもん」
母さん以上の膨らみに顔が埋まってしまい当然喋ることは出来ない。けれどもやっぱり何度も思うが至高の柔らかさと良い香り、出来ることなら一生こうしていたいほどの気持ち良さがそこにはあった。
「お姉ちゃんお姉ちゃん、料理が冷めちゃうよ」
「……よし! 満足満足♪」
名残惜しくも柚希の胸から解放された。
乃愛ちゃんにニヤニヤとして見つめられたのは……まあ見透かされたんだろう。まあでも今更恥ずかしいなんてことはない。柚希の彼氏は俺だ、つまりその胸に顔を埋めてもおかしなことではないのだから。
「うんうん」
「どうしたの?」
一人頷く俺に柚希がどうしたのかと聞いてきた。
俺は特に意識することなくついこんなことを口走るのだった。
「いや、俺は柚希の彼氏でしょ?」
「うん」
「だからさっきみたいで柚希の胸に顔を埋めるのは何も変なことじゃないよなって」
「そうだよ? 揉んでも良いし吸っても良いんだから……っていつもしてるね♪」
あ、それは言わないでいただけると……。
「あらあら♪」
「……っ!」
楽しそうに笑う母さんはともかく、乃愛ちゃんは慣れたんじゃなかったのか? 俺と目が合うと恥ずかしそうに目を背けるあたり、咄嗟のことにはまだ対応出来ないらしい。
「乃愛ちゃんもまだまだだな」
「……むぅ」
頭を撫でるとぷくっと頬を膨らませた。
すると当然柚希も頬を膨らませて私も私もと頭を差し出してくる。両の手でそれぞれ二人の頭を撫で、ようやく俺たちは料理を口にするのだった。
特大サイズのチキンだったり、柚希が作ってくれた唐揚げなどをパクパクと食べていく。俺の隣で乃愛ちゃんも負けじと料理を食べ進め、アンタは食べ過ぎだと柚希にチョップを入れられていた。
「だって美味しいんだもん」
「今日の主役はカズなんだからアンタは少し遠慮しなさい!」
「いや、全然いいんじゃないか? 遠慮なく食べても」
「でしょ!? それじゃあ遠慮なくいただきます!!」
「……全くもう」
美味しい料理が並んでいるけど流石にこの量を食べきることは出来ない。大食いの乃愛ちゃんに相変わらず驚きつつ、料理を食べ進めていく。すると母さんが立ち上がったのを機に柚希と乃愛ちゃんも立ち上がった。
そして手に取って持ってきたのはプレゼントを入れた紙袋だった。
「……その、こんなに祝ってもらってプレゼントまでもらうのはちょっと申し訳ないって思っちゃうな」
「ふふ、それでももらってもらわないといけないわね。はい和人」
まず母さんにプレゼントを渡された。
結構重かったので何かと思い取り出すと、黒を基調とした温かそうなコートだった。これからの冬に備えての物だろうか、今年はこればかり着ることになるのかな。
「ありがとう母さん。柄も良いしたくさん使わせてもらうよ」
「えぇ。こういうの和人に似合うと思ったからね」
流石母さん、俺のことをよく分かっているみたいだ。
一旦コートを傍に置き、今度は柚希と乃愛ちゃんが俺の前に立った。
「はい、あたしからはこれ」
「私からもあるんだよ!」
「二人も……ありがと」
まずは乃愛ちゃんから紙袋を受け取った。
中から出てきたのは手編みの手袋だった。少し解れた場所が見えたけどそこまで気になるものではない。
「ちょっとミスっちゃったところもあるけど一生懸命作ったの」
「そうだったのか……乃愛ちゃん」
「わわっ!?」
俺は思わず乃愛ちゃんの体を抱きしめた。
驚いた様子だったがすぐに背中に腕を回して応えてくれた。
「ありがとう乃愛ちゃん。本当に嬉しいよ」
「あ……えへへ。やったね!」
本心からの言葉だ。確かにここがミスしたところかなと分かりはするのだ。けどそれ以上のこの手袋に込められた想いを受け取ったから……ちょっと涙が出そうなくらい嬉しい。
「次はあたしだよ。はいカズ」
「あぁ待ってました」
柚希から受け取った袋を開けて取り出したものはマフラーだった。
乃愛ちゃんの前例があるということはこれも柚希が編んだものだろう。赤色を基調としたそれなりの長さを持ったマフラー……これ、俺もそうだけど柚希も一緒に温まれそうだ。
「……ありがとうな柚希」
「ふふ……あ、カズったら泣いてるよ?」
「え!?」
その指摘通り、あまりの感動にどうやら涙が出ていたらしい。でもそれくらいみんなからのプレゼントに感動したってことだ。柚希のマフラー、乃愛ちゃんの手袋、そして母さんのコート……うん、大切に使わせてもらうよ。
「ほらカズ、胸を貸してあげようか?」
「うん」
「……良い子良い子」
もうね、ここまで自分が涙脆いとは思わなかった。
遠慮することなく先ほどのように柚希の胸に顔を埋め、俺は落ち着くまでずっとそうしてもらった。
そんな風に誕生日会とはいってもすぐに終わるモノだ。
料理をほぼ乃愛ちゃんが平らげ、その後にケーキもみんなで食べ終えた。明日は休みなので柚希はこっちに泊まることに、乃愛ちゃんは母さんが家まで連れて帰ることになるのだった。
「……えっと、柚希さん?」
「な、何かな?」
少し時間が経って自室に居る俺たちだが……何やら柚希がタッパーのようなものを隠すように持って来ていた。それに他にも何か荷物があるし……。
「ちょっとあっち向いててもらえる?」
「あ、あぁ……」
……なんだ? 何をしているんだろうか。
しばらく柚希とは反対方向を向いていると、もういいよと言われたので改めて柚希に視線を向ける。
すると、まだ向こう側を向いている柚希は上半身に服を着ておらず肌が丸見えだった。
「柚希!?」
暖房のおかげで寒くはないが、それでも風邪を引かない可能性はゼロじゃない。
早くを服を……そう思っていると柚希がサッとこちら側に体を向けるのだった。
「なっ!?」
真っ赤に染まった顔をこちらに向けた柚希……いや、そこは何も問題ではなくて問題はその胸元だった。
「その……カズ!」
「は、はい!」
その豊満な胸元を持ち上げるようにして俺に近づいた柚希はこんなことを口にするのだった。
「あたしを……あたしを食べて?」
胸の先端にチョコを塗った状態で彼女はそう言った。
……当然、その言葉に俺がパニックになるのも当然だったのだ。
これは聖夜というよりも性……こほん!
取り敢えず、俺はどうすればいい? 誰か答えを教えてくれ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます