合計150話突破記念のお話
それはもしかしたらの記憶、これから数年後にあるかもしれない世界のお話だ。
「……すぅ……すぅ」
一人の男の子が静かに眠っていた。
まだ小さな彼は小学生くらいだろうか、あどけない愛らしさを隠しきれない寝顔は大変可愛らしく、それこそ女の子にも見えてしまいそうだ。
そんな男の子が眠っているこの部屋に一人の女性が入ってきた。
「全くもう、まだ寝てるんだからこの子は」
女性は困った顔をしながらも、少しだけ男の子の顔を眺めてクスッと笑みを浮かべた。手を伸ばして男の子の肩に手を置き、優しく揺らすのだった。
「ほら起きなさい。約束していた時間よ?」
「……うあ?」
薄っすらと目を開けた男の子はゆっくりとした動作で起き上がった。ただまだ完全に目が覚めていないのか辺りを見回している。
「ほら
「うわっ!?」
耳元でそれなりに大きな声を出され、和希と呼ばれた男の子は飛びあがった。
この男の子の名前は三城和希という子だ。父親譲りの優し気な目元と雰囲気を持っており、母親譲りの優れた容姿を併せ持った子だ。
「……なんだよ母さん。もう少し優しく起こしてくれてもいいだろ」
「明日は約束があるから何がなんでも起こせって言ったのは和希じゃない。何か文句あるのかしら?」
「なんにもございません!」
いつもは優しく美しい和希の母、だが彼女は怒ると本当に怖い。何やら昔は幼馴染相手にプロレス技を掛けて泣かしていたという武勇伝があるとか……そんなこともあって和希は母のことを大好きだが決して逆らうようなことはしない。
「朝食は既に出来てるわ。パパも待ってるから早く降りてくるのよ?」
「は~い」
元気に返事をした和希はまずトイレに向かった。
しっかりと手を洗ってリビングに向かうと、母の作ってくれた美味しそうな朝食が和希を出迎えた。そして、もっとも尊敬する大好きな父も待っていた。
「おはよう和希」
「おはよう父さん」
父と母、和希が揃ったことでようやく朝の朝食の時間だ。
小学校は休みなので和希の予定は友人たちと遊ぶことになっている。いつもゲームばかりして夜更かししてしまい、朝に起きれないから母に起こすよう頼んだのである。
イチゴジャムの塗られたトーストを食べ、目玉焼きとウインナーも交互に口に運んでいく。普通のどの家庭とも変わらない朝食だが、母の作ってくれるものはどれも美味しく和希は本当に大好きだった。
「いつも和希は美味しそうに食べてくれるから嬉しいわね」
「だってマジで美味いんだもん。母さんのご飯は世界一!」
「えぇ分かってるわよ♪」
「あはは」
「ふふ♪」
息子に世界一と言われ大変機嫌が良い母の様子に和希だけでなく、父も微笑ましそうに見つめていた。そんな父の様子に気づいた母はそちらに目を向けた。
「あなたはどうなの?」
「もちろん世界一さ。昔からずっとそう言ってるだろ?」
「……好き」
強い母の姿から一変、今の一言だけで十年分くらいは若返ったような雰囲気を醸し出した母にまだ小学生の和希は苦笑した。強くも美しい自慢の母だが、結婚した父とはいつまで経っても新婚さん気分なのである。
このことに関しては母の妹である叔母もそうだし、母の幼馴染であり父の友人でもある人たちもいつも揶揄いのネタにしているほどだ。
「ねえあなた、今日はゆっくり出来るのよね?」
「ちゃんと休みだよ。和希が空の家に行くなら……俺たちはデートでもするか?」
「行きましょう!!」
ガシっと父の手を握った母は完全にデート気分だった。
この惚気に当てられるのは気恥ずかしいものの、自分の両親が幸せそうにしているのは悪い気分ではない……むしろ、ずっとこのまま続いてほしいとさえ思える。
まだ出掛けてないのにラブラブな空気を醸し出した二人、和希は急いで朝食を食べ終えて部屋に向かった。着替えを済ませて荷物も纏め、急いで玄関まで駆け下りた。
靴紐を結んでいる時に母が見送りにやってきた。
「栞ちゃんによろしくね? それと空と凛だからいっぱい迷惑を掛けなさい」
「それはいいの?」
「いいのよ。いつもあたしを揶揄うんだから!」
その復讐を息子に託すとはこれ如何に……。
まあでも、迷惑は掛けないまでも和希の幼馴染が全員集合するようなものだ。騒がしくするなというのが無理な話だ。
「行ってきます!」
「行ってらっしゃい」
母に見送られ和希は家を出た。
家を出てからある程度歩くとすぐに目的の場所に着く。ピンポンとインターホンを鳴らすとすぐに美しい女性が現れた。
「あら、いらっしゃい和希君」
「お邪魔しますおばさん!」
おばさんというには全く見えないほどに若々しい姿、母と同じくらいに絶世の美女と言っても差し支えないが彼女はクスッと笑うだけだ。
「おばさん……そうですよね。私ももうそうなんですよねぇ」
ガッカリした風ではなくどこか感慨深そうだ。
どうぞ入ってと招かれ、目指す先は幼馴染の部屋だ。
「おっす栞! 来たぞ!」
バンと音を立ててドアを開けると、一人の女の子が漫画を読んでいた。サラサラとした黒髪に将来が約束されたような美貌、この子もまた母親の血をこれでもかと受け継いでいた。……ただ、部屋がかなり汚い。
「あ、和希いらっしゃい」
「……お前部屋汚くねえか?」
これが女の子の部屋なのか、そう思わせるほどに汚い。これから後三人も幼馴染が来るのにこれは酷いなと和樹は呆れた目を彼女に向ける。
この子は栞と言って、和希の四人居る幼馴染のうちの一人である。
「……だってめんどくさいんだもん」
「めんどくさいんだもん……じゃねえよ!」
部屋に入った和希は早速部屋の片づけを始めた。
栞は特に何も思わないのか、片づけをする和希を眺めるだけだ。和樹がこうしてここに来ると部屋の汚さに呆れ、掃除をするのも様式美だった。
「……ったく、なんでこんなに散らかすんだよお前は」
「……雅おばさんは部屋が汚いことは悪くないって言ってた」
「悪いって決まってんだろ!!」
てかあの人の言葉を参考にするな、そう和希の目は物語っていた。
流石に友人にだけ掃除をさせるのは気が引けるのか、栞も一緒に和希と一緒に部屋の掃除を始める。僅か数十分で部屋は綺麗になったが、結構やっつけ感があるので押し入れの中を見たりすると不幸になるかもしれない。
「お前は本当に俺が居ないとダメだなぁ」
「……うん。そうだね」
「お、おう?」
顔を赤くした栞に和希は首を傾げた。
「……だから和希、私と結婚しよう」
「いきなり何を言ってるの?」
和希の様子にむぅっと頬を膨らませた栞の姿。こうやって直球に好意を示し気付かれずに一蹴される姿が誰かを彷彿とさせるが、今はいいかと栞は再び漫画を読み始めた。
「今日空おじさんは?」
「寝てるよ」
「……いつも通りだな」
栞の父は子供の頃からぐうたらしていたとも聞くのでいつも通りだなと和樹は思った。彼女の両親について質問をするということはつまり、同じ質問が返されるのも当然だった。
「和人おじさんと柚希おばさんは?」
「デートだって」
「……いつも通りだね」
和希も予想していた答えが返ってきた。
そんな風に二人で過ごしていると残りの幼馴染もやってきて騒がしい時間になる。もしかしたらあり得るかもしれない世界のお話、未来はやっぱり幸せで溢れているのだった。誰もが欠けていない世界、笑顔の溢れた世界がそこにはあった。
【あとがき】
改めてここまで長く続いたことに驚いております。
本当に感謝しております。
本編もここまで繋がっていければいいなと思っています。
これからもやれやれ系主人公のお話をよろしくお願いします!
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