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「……抜き足、差し足、忍び足」


 ゆっくり、ゆっくりと歩みを進めるように私はお姉ちゃんたちが寝ている部屋にやってきた。朝早くに目が覚めた私は適当にスマホを眺めていたのだが、やっぱり暇だったのでこっちの部屋に来たのである。


「……そっとね、そっと」


 ゆっくりと戸を開けると、やっぱり二人はまだ眠っていた。

 絶対に起こさないように細心の注意を払いながら二人の元へ。まず目に留まったのがお兄さんで、お兄さんはぐっすりと天井を向いて寝ている。お姉ちゃんがお兄さんの寝相はとても良いと言っていたけど、本当にその通りみたいだ。


「……それに比べてこっちは」


 お兄さんから目を離して私はお姉ちゃんに目を向けた。お兄さんに抱き着く形で眠っているけど、浴衣を縛るはずの帯は解けておりその胸元がちょっと見えている。普通の状態でも衿の部分から谷間が見えていたけどこれは流石にえっちぃ。


「……お姉ちゃんったらはしたないなぁ」


 足も丸見えだし、角度によってはパンツだって見えそうだ。

 でも……こんなにエッチな姿なのに本人は至って幸せそうに眠っている。


「えへへ……カズぅ♪」


 夢の中でもお兄さんとイチャイチャしているらしい。

 高校生にしては暴力的な肢体とは裏腹に、幼い子供のような可愛らしい寝顔には妹の私でさえドキッとしてしまう。まあお姉ちゃんが美人で可愛いのは当たり前だから今更ではあるんだけど。


「お兄さんも色々と大変だよねぇ」


 恋人同士だから我慢なんてする必要はないけど付き合う前でもお姉ちゃんはお兄さんにかなりアピールしていたし……その間我慢するのって本当に大変だったと思うのだ。


「……ツンツン」


 しゃがんでお姉ちゃんの頬を突く。

 するとくすぐったそうに身を捩った。ただでさえ浴衣がはだけていたのに、体を天井に向ける形になったことでおっぱいが片方丸見えだ。


「本当に綺麗な形してるよね。弾力も凄いし」


 指で押すとぽよんと音を立てて弾き返されるような弾力だ。

 このままお姉ちゃんに悪戯をしてもいいけど流石に起きてバレたら殺されそうなのでこの辺りでやめておく。乱れた浴衣を整えるように胸を収めたその直後、私はお姉ちゃんに引っ張られた。


「え?」

「カズぅ!!」


 ええええええええ!?

 思いっきり両腕で抱きしめられ、私は必死にもがくも抜け出せない。お姉ちゃんはその豊満な胸元に私の顔を抱きしめ、口が谷間に埋まってしまい上手く息が出来なくなってしまった。


「っ~~~~~~!!」


 まさかお姉ちゃん、どさくさに紛れて私を殺す気では!?

 お姉ちゃんの無意識の殺意に戦慄する私だが、お姉ちゃんは当然起きておらず夢の中でお兄さんとイチャイチャしているだけだ。どうにか顔の位置をズラして気道を確保、大きく息を吸ったところでお姉ちゃんが目を開けるのだった。


「……あれ? カズ?」

「……おはようお姉ちゃん」


 至近距離で向き合う私とお姉ちゃん、目をパチパチとさせたお姉ちゃんはビックリしたように目を大きく見開くのだった。


「カズが乃愛になっちゃった!? 悪夢よナイトメアだわ!!」

「何を言ってるのかなこの色ボケお姉ちゃんは!!」


 ペシンと頭を叩く。すると流石にお姉ちゃんも正気に戻った。


「乃愛……どうしてここに……ってああもう朝なのね」

「そうだよ。全くもう、夢の中までお兄さんとイチャイチャしちゃってさ」

「結婚した夢を見たんだもん仕方ないじゃん」


 ……そしてナチュラルに惚気るんだからこのお姉ちゃんは。

 まあでも、そんなお姉ちゃんだからこそ私も大好きなんだけどね。ってそんな風に妹として可愛いことを考えていた私と少しはだけた浴衣を交互に見てお姉ちゃんはギョッとした。


「乃愛……アンタあたしに何をしたの?」


 だから何もしてないってば!!

 割とマジで嫌そうな顔をされたことにショックを受けたけど、逆の立場なら確かに私も驚くし同じ顔になるんだろうなって感じだ。寝相が悪くて痴女みたいな恰好してたんだよって懇切丁寧に教えてあげた。


「痴女って言うな」

「いたい」


 ペシンと軽くお返しをされた。

 さてさて、結構騒がしくしたのにお兄さん全然起きないんだけど。全く身動ぎしないしとても深く寝入っているみたいだ。


「お兄さん凄く良く寝てるねぇ」

「そ、そうね……私ももう少し寝よっかなぁ」


 掛け布団を手にお兄さんの隣にお姉ちゃんは再び横になった。

 やけに慌てているように見えたけど私は首を傾げるだけだった。というか妹が来たのにまた寝るってどういうことなの? 私は構ってよと言わんばかりにお姉ちゃんの布団に潜りこんだ。


「……むぅ!」


 ……あれ……あぁそうか。

 もしかしたら私は……嫉妬してるのかな。


「ふふ、乃愛はいつまで経っても甘えん坊ね」

「……うるさいもん」


 嫉妬とはいってもそこまで強いモノじゃない、ただ私も少しお姉ちゃんを独占したいんだ。決してお兄さんにもう少しお姉ちゃんを貸してって言うわけじゃない、ちょっとだけ私もお姉ちゃんに……甘えたい。


「ねえお姉ちゃん……お姉ちゃんがお兄さんと結婚してさ。子供とか出来ても私はお姉ちゃんに会いに行ったりしてもいい? 遊びに行ってもいい?」

「何を言ってるのよ。そんなの良いに決まってるじゃない。アンタはあたしにとって大事な妹よ。どこまで行ってもそれは変わらない、愛してるわよ乃愛」

「あ……えへへ」


 あぁもう……本当に私はお姉ちゃんが大好きだ!

 お姉ちゃんに抱きしめられ、お姉ちゃんパワーを一身に浴びた私は今度はお兄さんに引っ付くように移動した。


「あ! アンタ何してんの!」

「お姉ちゃん分を補給したら今度はお兄さん分を補給するのだ!!」

「のだじゃないのよこのおバカ!」


 ええい離しなさいお姉ちゃんめ!

 私はこれからお兄さんを独占するんだ! お兄さんに引っ付きたい私、お兄さんから引き離したいお姉ちゃんとの間に戦いが勃発した。結局お姉ちゃんが根負けして今だけはお兄さんを譲ってくれたけど、すっごく恨みがましく見てくるお姉ちゃんに私は苦笑した。


「お姉ちゃん、良い女は常に余裕を持つんだよ」

「カズとのことに嫉妬することが良い女でなくなる条件ならあたしは良い女になるのはごめんよ」


 そんなかっこよく言わなくても……。

 それから少ししてお兄さんが目を覚ましたんだけど、やっぱりお兄さんは目を丸くして私たちを見た。


「……何してるの?」


 じゃれあう私たちを見てそう呟いたお兄さん、でもすぐに何があったか察したのか困ったように笑っていた。お兄さんを取り合ってこうなったんだよ! そう言って私はぴょんと飛ぶようにお兄さんに抱き着いた。


「おっと……乃愛ちゃんは甘えん坊だな」

「それお姉ちゃんにも言われた! でも……お兄さんならいいよ全然」

「なんでよ!」

「だからお尻抓らないでえええええええ!!!」


 お尻をギュッと抓られ悲鳴を上げた私をお姉ちゃんが更に追い詰めてくる。旅行の朝なのに私たちはいつも通り……でも、お姉ちゃんだいぶ丸くなったよね? なんでかって? だってこんなにお姉ちゃんを揶揄って意識があるもん私。





『や~いや~い! お姉ちゃんの馬鹿! アホ~!!』

『……良い度胸じゃない乃愛、覚悟は出来てるんでしょうね?』


 中学校の頃は……うん、これが暴君って感じだったもんね。

 家に帰ってから仕返しをされないか不安はあるけれど、私だってあれから成長してるんだから一方的に負けるわけがない! ……でもこの前は即落ち二コマだったし大丈夫だよね?


 ちょっと不安になった乃愛ちゃんでした。





【あとがき】


部屋の鍵とか掛けてるから入れないなって書いた後に思いました。

まあでも、この絡みを書くためには気づいてないフリをするしかなかった……。

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