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「じゃ~ん」

「おぉ……」


 昼休みはもう少しで終わるという頃、昼一発目のプログラムが応援合戦ということで柚希が早速俺の制服を着て目の前に現れた。

 夏休みでも見ていたが、やっぱりこんな姿の柚希も可愛い。ってマズいな、可愛い以外の感想が出てこない。


「可愛いなぁ」

「ふふ、ありがと♪」


 その場で一回転した柚希、うん可愛い。

 俺たち二人のやり取りを空たちが苦笑しながら見つめていたが、他の女性陣もそれぞれ制服を借りていた。凛さんは空に、雅さんは蓮に、もしかしたらだけど来年乃愛ちゃんが入学してきた時、この場に洋介の制服を借りた乃愛ちゃんが加わるんだろうなぁと思う。


「よし、それじゃあ行こうか!」

「はい!」

「がんばろっか」」


 俺たちの色の出し物としては女性陣がメインとして前に立つ。

 太鼓の音に合わせて振付を披露し、自分たちの色を鼓舞するように大きな声を張り上げた。


『ファイトー!! 赤組!! ファイ!!』


 今年の出し物としてはかなりシンプルだ。今までは応援合戦の前に寸劇をやったり色々とあったが、そこまで時間を掛けなくてもいいかという全体的な意見を考慮してこんな簡単な物になったのだ。


「自分の彼女も居るから贔屓っぽく聞こえるかもしれないけどさ。本当にあの三人は美人だよなぁ」


 隣に立った蓮がそう口にした。

 柚希は言わずもがな、凛さんと雅さんも相当なレベルの美少女だ。ってこういうことは今まで何回も考えたことがあるし今更だ。あの三人に対して多くの目が集まっているのは理解している。


「和人、あんま難しい顔すんなよ」

「そんな顔してたか?」

「あぁ。柚希が色んな人に見られるのが気に入らないって顔だな」

「気に入らないまでは行かないと思うんだけど」

「でも似たようなもんだろ?」


 俺は控えめではあったが頷いた。

 なんつうか、男の独占欲ってみっともないって思うんだよ。柚希が好きとはいえそこまで独占欲を見せるのも……な。そう伝えると蓮は笑いながらこう言葉を続けた。


「別に良くね? 自分の彼女なんだし独占したいって思うのは普通だろ。まあそういうのが鬱陶しくてめんどくさく思う女も居るとは思うけど、柚希はむしろお前に束縛されたいって思うような女だし?」

「……えっと」


 以前に柚希からそんな風に伝えられたことがある気がした。


「人の好意の上限が百とすればあいつの場合は二百くらい簡単に超えてる。それくらいお前のことが好きなんだよ。だから精々独占して縛り付けてやれ。……いや、お前がそう思ってることが既にアイツの魅力に縛り付けられているのかもな?」


 柚希の魅力に縛り付けられているなんて今更だ。

 見た目だけじゃないありとあらゆる面で柚希は魅力的なんだ。空にも言ったけど柚希みたいな子に今までのような好意を寄せられて惹かれない奴なんて絶対に居ないと断言できる。


「ほら、お姫様が帰って来たぞ?」

「おう」


 数十分の出し物を終えて柚希たちは戻ってきた。

 時間としてはすぐだったのにやっぱりこの暑さだから汗が流れていた。


「ただいま」

「おかえり」


 柚希に飲み物を渡し、預かっていたタオルも渡した。

 額から首に流れる汗を拭き取った柚希だが中々制服を脱ごうとしない。


「柚希? 脱がないんですか?」

「もしかしてその下はブラだけとか?」

「ば、馬鹿を言うんじゃないの!」


 雅さんの一言に柚希が顔を真っ赤にして否定した。

 悪戯が成功した子供の様にクスクスと笑った雅さんだけど、瞬時に背後に回った柚希がチョークスリーパーをお見舞いしていた。


「ゆ、柚希ちゃん流石にきついって! 死ぬ! 死ぬううううううう!!」


 流石に相手が雅さんということもあって柚希もすぐに離れたが、ぜぇはぁと息を吐く雅さんの様子から相当効いていたことが分かる。凛さんが言わんこっちゃないと呆れたように目を向けていた。


「柚希を揶揄うならそれ相応の仕返しは覚悟しないとですよ雅」

「……ぐぬぬ。こうなったら私もプロレス技を習わないと」

「あら、いつでも練習相手になってあげるわよ?」

「あ……あはは……遠慮します」


 やっぱりやめますと蓮の胸に飛び込んだ雅さんだった。

 さて、どうして柚希が制服を脱ごうとしないのか気になっていると少し照れくさそうに教えてくれた。


「……暑いのは分かってるんだけど、なんかこう……カズに抱きしめられている気がして悪くないって言うか……えへへ、ごめんねすぐ脱ぐよ」


 ……はぁ。

 これは溜息を吐いてしまう可愛さと言うか愛おしさだよな。柚希は脱いだ制服を綺麗に畳んで俺に返した。最初はクリーニングに出してから返すって言ってくれたけどそこまでする必要はないからと俺が断ったんだ。


「ふぅ、涼しい!」


 制服を脱ぎ終え、首の辺りから風を中に服の中に送り込むようにパタパタと胸元を仰ぐ。すると当然その豊かな胸を包む黒のブラと、大きいからこそ生まれた分かりやすい谷間が見えてしまった。

 俺は反射的に周りを見て今の柚希を見た人が居ないか確かめたが、みんな友人たちとの会話に夢中でこっちを見てはいなかった。


「大丈夫だよ。カズしか見てないと思ったからやったの。あんな無防備な姿、カズにしか見せないよ」

「……そっか」

「うん。カズが見てたのは否定しないんだね?」

「……あ」


 バッチリ見てしまったから否定するわけにもいかない。

 クスッと楽しそうに笑った柚希はこう言葉を続けた。


「今更これくらいで恥ずかしいとかないでしょ。今まで何度も揉んだりしたじゃん」

「……だな」

「ふふ、でもそうやって照れるところはやっぱり可愛い!」


 そう言ってトントンと隣を叩いた柚希に頷き腰を下ろした。

 肩にコトンと頭を置いた柚希はパタパタとうちわを仰ぐ。影だから風も吹いて程よい涼しさだけど、やっぱり気を抜くとすぐに暑いって思ってしまう。


「ねえカズ」

「なんだ?」

「今日終わったらさ。泊まりに行っても良い?」

「え? 随分急だな」

「ごめんね? 行きたくなったの。もし良かったらお邪魔したい」


 本当に急なお誘いだけど俺がそれを断ることはなかった。

 たぶんだけど母さん飲みに出かけると思うんだよな。藍華さんと康生さんと一緒にさ。何となくだけどそんな気がする。


「いいよ。終わったら柚希の家まで向かってそこから一緒に行こうか」

「うん!」


 明日が日曜だからこそ出来る約束だ。

 さて、そんなこんなで応援合戦が終わった後は女子の騎馬戦になる。柚希たちは全員参加することになっているのでみんな入場門を向かった。


「今年は伝説が生まれるか?」

「去年は凄かったよなぁ」

「あれは坂崎が悪いんじゃないか?」


 あぁ飛び蹴りしたってやつか。

 いや流石にないとは思うけどその時の映像が残っていれば見たい気持ちもある。入場門からグラウンドの端と端に分かれた女子たち。左側が柚希たち赤色、右側がまず戦うあの坂崎さんが居る青組だ。


「やっぱり大将は柚希なんだ」

「そりゃそうだろ。あいつが大将じゃなかったら誰がやるんだよ」


 ごめん柚希、俺素直に納得してしまった。

 凛さんと雅さん、そしてもう一人後輩の女の子の上になるように柚希が上がった。


 そして、開始の合図を知らせる笛が鳴るのだった。

 合図がされた瞬間、二つの色が中心に集まるようにぶつかる。なるほど、女子の戦争とはよく言ったものだ。ここまで声が聞こえるし、何より激しい。


「おぉ柚希たち凄いな」


 空の言葉通り、柚希たちは次から次へと大将のハチマキを奪っていく。まるで工事現場で岩を退けるブルドーザーのように柚希たちが通った場所の生徒たちはみなハチマキを奪われていた。


「あ!」


 っと、そこで俺は声を出してしまった。

 柚希の背後から坂崎さんを大将にしたチームが迫っていたのだ。柚希たちは気付いておらず、坂崎さんの手が柚希の頭に伸ばされた。


 しかし、予想外……いや、ある意味予想できたことが起こるのだった。


「……あ」

「あ……」

「あ~……」

「あれは痛いぞ」


 何が起きたのか、それは伸びてきた手を柚希が体勢を低くしたことで躱したのだがその後が問題だった。体を伸ばしていた坂崎さんの顔が柚希の頭の上に来ていたわけで、それで狙ったのかどうか知らないが柚希がそのまま頭を上に上げたのだ。そうするとどうなるか、下から突き上げられるように坂崎さんの鼻っ柱に柚希の頭がぶつかることになる。

 あれはかなり痛いぞ……なんて思ってると、少し鼻を押さえていた坂崎さんが柚希に再び手を伸ばした。柚希も応戦するように腕を伸ばし、お互いにお互いの手を握って一進一退の攻防が展開される。


「坂崎さん鼻血出てるのに止めないのか」

「それだけ柚希に負けたくないんじゃないか?」


 その一生懸命さをもう少し別のことに使えばいいのにと、俺は以前坂崎さんにされたことを思い出しながら成り行きを見守るのだった。

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