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「学生時代の同級生!?」

「学生時代の同級生!?」


 俺と柚希、ほぼ同じことを同時に口にするのだった。

 一体何に対しての言葉なのか、それは昼休みになったのでそれぞれの家族の元に向かった時のことだ。変わらず母さんと藍華さんに康生さんは傍に居た。それで気になっていたやけに親しくなっている理由を聞いたらなんと、学生時代の同級生だと言うではないか。


「本当にビックリしたわ。あの時のカップルがまさか柚希ちゃんの両親だなんて」

「それは私もよ。あまり話したことはなかったけれど、雪菜さんが学生時代にクラスで一番モテていたのは覚えているもの」

「そうだな。何人もの男子が告白しては玉砕していた」

「あらやだ、そんなのは昔の話じゃないの」


 へ、へぇ……。

 和やかな空気の所すまないが、俺と柚希は処理しきれない情報に唖然とするしかない。とはいえ、仲良くなっていること自体はいいことなのであまり気にしても仕方ないか。


「私もビックリしたんだよ? まさかって」

「そりゃそうでしょうね」


 どうやら乃愛ちゃんも驚いていたみたいだ。

 取り敢えず驚きに固まるのはこの辺にして早速お弁当を食べよう。今ここに居るのは我が三城一家と月島一家で、他の空たちのご家族とは別の場所に居る。あまり大人数で場所を取るのもどうかなと思ったかららしい。


「それにしてもカズ、早苗さんに鼻の下伸ばしてなかった?」

「いやそんなことは……あったか?」


 みんなのご家族に紹介された時、実年齢よりも遥かに若々しく見えた早苗さんに抱き着かれたのだ。いつも雅さんと遊んでくれてありがとうという言葉と同時の抱擁だったが、突然のことで本当にビックリした。

 他のみんなは笑っていたが、柚希は早苗さんを引き離そうと必死で、そんな柚希を見て早苗さんも楽しそうにして……うん凄く大変だった。


「そんな風に見えただけだし? あまり気にしてないし?」

「めっちゃ気にしてるじゃんお姉ちゃん」


 まあ別に怒ってないようで良かったよ。

 シートを敷いたその上で俺たちはお弁当を囲んだ。母さんが作ったもの、藍華さんが作ったものが並んでおり何とも贅沢な昼食だ。


「和人君、是非うちのも食べてね?」

「柚希ちゃんに乃愛ちゃんもうちのを食べてちょうだい」


 その言葉に頷いた俺たちはすぐに箸を伸ばすのだった。

 俺たちが食べている間も大人組は懐かしい話に花を咲かせ、本当に楽しそうに会話をしていた。まるで学生時に戻ったのではないかと言わんばかりの様子、心なしか母さんがいつもより若く見えてくる。


「雪菜さん楽しそうだね」

「藍華さんに康生さんもな」


 柚希とそんな感じに笑い合うと、あっと何かに気づいた柚希が手を伸ばしてくる。俺の口元にどうやらご飯粒が付いていたようだ。えへへと笑みを浮かべる柚希に恥ずかしくなったものの、ありがとうと礼を言うと柚希はうんと頷きそのまま手に取った米粒を口の中に運んだ。


「……なるほど、こうするんだね」


 そんな柚希の姿に乃愛ちゃんがまるで勉強になるとでも言いたげにうんうんと頷いていた。


「雪菜さん、こんな風に楽しそうにしている柚希を見ると感動するよ」

「本当にね。昔は男の子が嫌いだなんて言ってたのにそれがこうやって……」

「ふふ、それは私もだわ。和人が笑顔で居てくれる、それだけが嬉しいもの」


 お互いに家族に温かい目を向けられてしまい照れに照れてしまった。結局、俺と柚希は恥ずかしがりながらも作ってもらったお弁当を食べるのだった。


「よし、私はよう君の所行ってこよっと」


 洋介の元に走っていった乃愛ちゃんを見送り、俺と柚希は少し二人になりたいなと思って屋上に向かった。流石に体育祭の日なので屋上に来ている人は居らず、すぐに俺と柚希だけの貸し切りとなった。


「あ~あ、もう半分終わっちゃったね」

「だなぁ。でも楽しいよやっぱりこういうイベントは」

「うん。そうだね」


 相変わらずの暑い真夏の日差しは嫌になるが、これもまた夏の醍醐味だ。首にかけているタオルで汗を拭き取る。


「なあ柚希、本当にこの暑さで学ラン着るの?」

「うん。あぁそっか。汗で汚くなっちゃうよね。一応クリーニングに出して返そうとは思っているけど」

「ああいやそれは別にいいんだ。暑さで万が一倒れたりしたら大変だと思ってさ」


 学ランは長袖だし生地も厚い、だからちょっと不安になった。


「数分だけだから大丈夫だよ。それに、あたしみんなの前で彼氏の学ランを着て見せつけたいもん」

「……そっか」

「うん♪」


 ニッコリと笑みを浮かべた柚希を見て俺は頬を掻いた。

 本当に柚希は小さな仕草、言動、行動一つで俺を幸せにしてくれる。絶対に狙ってないことは分かっているのに、彼女が俺に伝えてくれる言葉の全てが本当に心地良いんだ。


「なんかカズが幸せそうな顔してる」

「幸せだよ。柚希が傍に居るからなぁ!!」


 ちょっとテンションが上がったので大きな声を出してしまった。下の方はまだ露店などが出ていて喧騒は止んでおらず騒がしい。だから今の俺の声を聞きとれた人は居らず、仮に聞こえたとしても何だろうかと思うくらいだろう。

 大声を出した俺を見た柚希はそれなら私もと言って隣に立ち、大きく息を吸い込んで大声を上げた。


「あたしもカズが傍に居るから幸せだよおおおおおお!! 愛してる!!」

「……今のは響いたなぁ」


 男の声と違い女の声は良く響く。今の柚希の声はもしかしたら色んな人に聞かれたかもしれない。ま、だからといって今更か。隣に立つ柚希の頬に手を当てると、汗が冷えたのかひんやりとしていた。しばらくなでなでしていると、ボソッと柚希がこんなことを呟いた。


「これが家なら間違いなく愛し合う前なのに、学校だと人目があるからダメだね」

「……あ~、ですね」

「でも海岸でシたから今更?」


 流石に学校はエッチな漫画の世界だけにしておこうか。


「それじゃあカズ、まだ時間はあるけど戻ろっか」

「そうだな……でもその前に」


 俺は柚希の頬に再び手を置き顔を近づけた。

 少し触れるだけのキスだったが、柚希は本当に嬉しそうに笑顔を浮かべた。


「不意打ちだよもう! でも、嬉しいし幸せな不意打ち!」

「はは、そう言ってくれると嬉しいよ」

「つまり私も不意打ちだああああああ!」

「っ!?」


 両手で頬を抑えられ、次は柚希にキスをされた。さっきよりも長いキス、俺も瞳を閉じて今この瞬間楽しもうとしていた時だった――屋上のドアが開いた。


「……あ」


 背中を向けているので誰が来たのかは分からない。ただ柚希は気付いてないのか顔を離してはくれなかった。結局、後ろから現れた誰かが扉を閉めて戻っていくまで俺と柚希はキスをし続けていた。




【あとがき】


結構書く気力が戻ってきました。頑張ります。

ちなみになんですが、もしも人気投票みたいな機能があったら一位は誰になるんだろうか。やっぱり柚希なのかなぁ。

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