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「行ってきます!」
「いってらっしゃい」
新学期初めての朝、やっぱり休みの方がいいと思わなくもないがこうして学校に行くのも仕事である。仕事である、そう言ったが今となっては学校に行くのも楽しいんだけどな。
久しぶりの登校ではあるが、贅沢なことに彼女に会うのは久しぶりではない。
学校に向かう際にいつもする待ち合わせ場所、そこに彼女は既に居た。
「あ、おはようカズ!」
「おはよう柚希」
待ち合わせ場所で落ち合い、彼女の笑顔に迎えられて学校への道が始まる。
思えばこの夏休み、柚希と一緒に居た日はかなり多かった。みんなで海に出掛けた以外ではお互いに家に行ったり来たり、二人でデートも多くしたし……父さんへも挨拶をしてもらった。
そんな風に色んなことを柚希と過ごして、この夏休みは本当に楽しかった。
「えへへ、制服姿のカズを見るのは久しぶりだね」
「それを言うなら俺もだな」
制服姿の柚希を見るのも久しぶりだった。
短いスカートから見える綺麗な足もそうだが……やっぱり、そのカッターシャツに守られている大きな膨らみに目が行ってしまうのも仕方ない。朝から何考えてんだと目線を逸らしても、見られていたことが嬉しそうに柚希が笑みを浮かべた。
「久しぶりの制服姿にカズの視線を独占♪」
「……いつみても本当に可愛いです」
「ありがと♪ ……むぅ」
ただ、ありがとうと口にした柚希が抱き着いてこようとしたのだが、すぐに踏み止まって不満そうに口を尖らす。
「夏じゃなかったら思いっきり抱き着けるのに! 外だし暑いもんね、学校まで我慢するよアタシは!」
「つまり教室に着いたら抱き着くと?」
「うん♪」
それを聞いて周りに見られて恥ずかしいなと思うよりも、冷房が効いてると良いなって思う辺り俺も本当に柚希との生活に慣れてきたなって感じがするよ。でも、それにしても暑いなぁ。
「暑いね」
「あぁ……これ体育祭大丈夫なのかな」
あまりに暑いと体調面を考慮してプログラムの削減であったりありそうだが、どうせなら一年に一回のイベントだし盛り上がるべきものはみんなでワイワイやりたいところではある。
「今日種目何に出るか決めるんだよね。カズは何に出たいとかあるの?」
「う~ん……」
そのように体育祭が近いということもあって、クラスで話し合い何の種目に出るのかも決める。色の分け方は一年から三年まで共通であり組によって分けられる。ということは俺と柚希、空たちも同じ色ということになるわけだ。後輩や先輩たちとも一緒に肩を並べることになるので、まあ普段話をしない人との絡みもありそうだ。
「出たい種目か……」
何に出たいか、そう言われてすぐに出てくるものはない。個人的にリレーとか足の速さを競うのは苦手なので遠慮したいが……選ばれたら仕方ないし、一応これに出てほしいと言われたら断らないつもりではある。
どうやら柚希もそのスタンスらしく、詰める部分はクラスの決定に従うとのこと。去年もやったことではあるけど、基本的にこういった決め事はトントン拍子で決まっていく。みんなが協力的というのもあるけれど、一番はやっぱり体育祭みたいな舞台で目立ちたい人が多いんだろうな。
「色んな目があるから目立ちたいって気持ちは分かるよ。好きな人にアピールとかも考えてるんじゃない?」
「それもありそうだなぁ」
体育祭の後には学園祭もすぐに控えている。出し物も決めないといけないし、二学期は本当に忙しくなりそうだ。
一カ月振りとも言える通学路を柚希と共に歩きながら学校へと向かう。学校が近づくと生徒の数も増え、懐かしい顔があちらこちらに見られた。相変わらず柚希の美貌は目を集めるらしくジロジロとは行かないまでも視線を向けられていた。
「それでね? 昨日乃愛とそれを話してて――」
しかし、柚希はそんな目を気に留めることはなくずっと俺との話に夢中になっていた。あまりに俺の方を見過ぎて躓きそうになったほど、その時は瞬時に手を出して支えたけどもう少し気を付けてほしいが……ま、楽しそうに話をする彼女に何かあれば俺が守ればいい、なんてことを俺はずっと考えていた。
「おはよう」
「おっは~!」
久しぶりに教室、何も変わらないはずなのに妙に懐かしさを感じるから不思議なものである。中に入った瞬間、大分前から冷房が効いていたのか結構涼しかった。ということはつまり、彼女の襲撃がほぼ確定したというわけで。
「カ~ズ!」
「おっと」
荷物を置いた柚希が背中から抱き着いて来た。椅子に座っていたので俺としても満足に動けないのだが、背中から体重を掛けるように抱き着いて来た彼女は嬉しそうに俺に身を寄せてくる。クセになったと柚希は言っていたのだが、俺の首筋に顔を近づけてスリスリと当ててきた。俺としてはくすぐったいのだけれど、すぐ近くに柚希の存在を感じられるのでされるがままだ。
「おはよう柚希」
「おはよう……って新学期早々ラブラブじゃん」
「おはよう二人とも。ふふ~ん、アタシとカズはいつもラブラブだもん!」
俺はあまり話したことがない柚希の友人だが、二人は柚希の言葉に涼しいはずが暑くなるわと笑っていた。この二人、柚希のように少しギャルっぽい見た目の人が相川さんで、前髪ぱっつんの小柄な女子が前田さんという名前だ。
「ねえねえ三城君、夏休みはどんな風に柚希と過ごしたの?」
そう相川さんに聞かれると、前田さんも興味があるのか視線を向けてきた。
相変わらず幸せそうな雰囲気を隠すことなく、俺に引っ付いている柚希だが……俺はクスッと笑って柚希の頬に手を当てた。
「本当に楽しい夏休みだったよ。デートもたくさんしたしプールにも行ったし、本当に楽しかったよ」
「へぇ」
「……まあ柚希を見てれば分かるけど」
「カズと一緒に居て楽しくないわけないでしょ? それに、ちゃんと恋人らしいことだってたくさんしたもんね♪」
「おぉ……」
「……っ」
前田さんが顔を真っ赤にして俯いた。相川さんは興味があるのか更に聞いてこようとしたものの、彼氏が登校してきたのを見てそちらに向かった。それから少し前田さんも交えて会話し、空と凛さんが登校してきたのを見て前田さんは席に戻った。
「おはよう二人とも」
「おはようございます柚希、和人君」
おはよう、そう声を掛けてくれた二人は席に座った。
そう言えばクラスの連中はおそらくまだ二人が付き合いだしたことを知らない。隠すつもりもないようだし、今日にでもそれは知られるかもしれないがどんな反応をされるのか個人的には楽しみだ。
「空君空君」
「なんだ?」
「……好きです」
「……俺もだよ」
なんか目の前でいきなりイチャイチャしだしたんだけど。
二人して顔を赤くしながら話をしているだけで体が触れたりはしていない、けれどもこの甘酸っぱさは見ている側としては微笑ましくなると同時に、この二人がなぁって感慨深い気持ちにもなる。
今の呟きは俺たち以外には聞こえておらず、当然誰にも見られてはいない。
そんな中、柚希がこんなことを口にするのだった。
「アンタたち、来て早々何イチャイチャしてんのよ」
その一言に、ほぼ同時に空と凛さんが俺たちを見た。
そして――。
「お前が言うなよ」
「柚希が言わないでください」
あまりにカウンターの効いた一撃だった。
でも、空はともかく凛さんがこうやって好きって伝えるだけで照れているのは新鮮な気がするよ。以前に詰め寄られて空をどのように堕とせばいいか、なんてことを聞かれた記憶が……確かあったよなそんなことが。
「教室でその無駄な脂肪を押し付けてイチャイチャしてるくせに!」
「無駄な脂肪!? ふ~んだ! カズはアタシのおっぱい好きだもん! 大好きって言ってくれるもん!!」
「そうですかそうですか! 空君も私のおっぱい好きって言ってくれますし!? 何なら俺が揉んで大きくしてやるって言うくらいですし!?」
「そこまで言ってねえよ!?」
「二人ともシャラップ!!」
うん、思わず止めに入った俺なのであった。
でも空さん……そこまで言ってないってことはどこまで言ったんだろうね。俺気になります。
【あとがき】
というわけでこれから新章みたいな感じになるのかな。
取り敢えず始めということで糖分は控えめにさせていただきました。
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