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「和人~!」
「は~い!」
空と蓮、乃愛ちゃんと仲良くテレビゲームをしていると母さんに呼ばれた。やっと来たかと、ソワソワする乃愛ちゃんに苦笑して俺は玄関に向かった。すると、そこに居たのは洋介だった。
実を言うと、今日あった用事が早めに終わったので暇が出来たとのこと。それでうちに来ればと誘ったわけだ。
「迷わなかったか?」
「分かりやすく教わったからなぁ。あ、お邪魔します!」
「いらっしゃい。ゆっくりしていってちょうだい」
「はい!」
そのまま洋介を連れて部屋に戻ると、乃愛ちゃんの姿が消えていた。
「あれ?」
「どうした?」
ちなみに、この場に乃愛ちゃんが居ることを洋介は知らない。それもあるが一体乃愛ちゃんはどこに行ったんだ……そう思っていると、ベッドの上が膨らんでいることに気づいた。あぁなるほどそういうことか。
「洋介、とりあえずそこに座ってくれ。菓子とジュースあるから」
「サンキュー!」
俺が指さした場所、すなわちベッドの近くだ。空と蓮が親指を立てる中、何も知らずに洋介は腰を下ろす。そうして、小さな少女の襲撃が行われた。
「ようくん!!」
「え? ぐっほおおおおお!?」
ベッドから出てきた乃愛ちゃんが洋介に抱き着いた。思いっきり体が曲がっているけど……まあ洋介は丈夫だし平気だろう。嬉しそうに抱き着いた乃愛ちゃんと、そんな乃愛ちゃんに背中から抱き着かれたままで状況を把握出来ていない洋介に俺たちは説明した。
「そうだったのか。おい乃愛、和人とお母さんに迷惑掛けてないだろうな?」
「ひっどいなぁようくんは。私はそんなことしないもん。ねえお兄さん?」
「まあな」
「それならいいんだが……ってこのクッキー美味い」
「雪菜さん……お兄さんのお母さんが作ったんだよそれ」
「マジで!? 天才じゃねえか!」
喜んでくれ母さん、かなりの大絶賛のようだぞ。
「なんつうか、和人の家にこうやって集まるのは新鮮だな」
「俺と洋介は初めてだしな。というか空も水臭くね? もう少し早く俺たちを和人に引き合わせてくれても良かったじゃんよ」
当時では確かにここまで親しくなるのは考えられなかったけど、こうして友人になれたのだからそうじゃない期間が勿体なかったなとは思う。でも……俺の家は雅さんの家みたいに大きくないから窮屈だな……。
そんなことを思っていても、目の前でみんなが楽しそうに話しているのを見ると俺も嬉しくなってくる。本当に今年は色んな意味で賑やかでいい思い出がたくさん出来そうだよ。
「じゃあようくんも交えてゲームだ!」
「俺は見学するぜ。和人パス」
「おう」
まあちょうど四人までしか出来ないからな。
それから俺と空、乃愛ちゃんに洋介で対戦ゲームをやるのだが……男たちの力は情けなく、全員が乃愛ちゃんに膝を突く結果になった。勝者の権利だと乃愛ちゃんはずっとさっきの俺にしていたみたいに洋介の股の間に腰を下ろしているのだが、洋介には全く意識した様子はない。
「……本当にこいつは手が掛かりそうだな」
「今更だろ。けど、洋介は洋介で乃愛のことは意識してると思うけどな」
「ふ~ん?」
あぁでも、確かに表情が嬉しそうには見えるかもしれない。空や蓮に比べて鈍感だし恋愛に興味はなさそうだが、やっぱり乃愛ちゃんのことは真剣に考えているのだろうことは理解できる。
「空が凛と付き合ったんだ。あの二人もその内すぐにくっ付くさ」
「俺を引き合いに出すな……って言いたいけど何も言えねえ」
ガクッと肩を落とした空に俺は苦笑した。
しばらくゲームで遊び、みんなが疲れた段階で一旦休憩に入った。菓子が無くなったと思ったら追加で母さんがまたクッキーを持ってきて洋介が歓喜していた。パクパクと食べ進める洋介、そんな洋介に菓子より私に構えとゲシゲシ蹴りを入れている乃愛ちゃんの姿に癒されているとスマホが震えた。
誰かと思って手に取ると柚希からだった。
「もしもし?」
『やっほーカズ、寂しくて電話しちゃった♪』
「はは、そうか。俺もそうだったから同じだな」
『実はそう思ったんだよ! えへへ、アタシたちはやっぱり繋がってるねぇ!』
電話の向こうからガヤガヤした声が聞こえるのでまだ外に居るんだろう。今何をしているのか聞くと、凛さんと雅さんと一緒に服を見て回っているらしい。カラオケにも行ってボウリングにも行ったとかで、友人との時間を盛大に楽しんでいるとのことだ。
「うちはいつになく騒がしいよ。みんな来てるから」
『みんな?』
「空と蓮が来てて、洋介が合流してさ。それで乃愛ちゃんも来てる」
『乃愛も!?』
「寂しかったんだと。だからおいでって言ったんだ」
流石に俺にとってもはや乃愛ちゃんはただの他人ではないし、あんな風に寂しいって言われてしまっては放っておくことは出来なかった。洋介が加わってから更に楽しそうにしてくれているけど、その笑顔が見れているだけでも良かったと言える。
っと、そこで電話先で少し騒がしくなった。ガサゴソとした音が聞こえ、柚希とは違う別の声が聞こえた。
『こんにちは和人君。話は聞かせてもらったよ』
「雅さん?」
『私たちも今から和人君のお家にお邪魔しても良いですか?』
『雅!?』
柚希の驚愕したような声と、おそらくだけど凛さんが苦笑しているんだろうなと思わせる雰囲気を感じた。
『もちろん和人君とお母さまがご迷惑でなければですが』
「……………」
相変わらずじゃれている乃愛ちゃんと洋介、そんな二人を見て菓子を食べている空と蓮……まあ別にいいか。ここまで騒がしいなら今更だし、母さんも俺の友人に会えて嬉しそうにするだろうし。ということで大丈夫だと答えておいた。
『いきなりごめんねカズ……でも、ちょっと嬉しい。今から会えると思うと』
「そうだな。早くおいで」
『うん!』
そこで電話が切れた。
「誰からだったんだ?」
「柚希」
「なんて?」
「……あ~、何してるのって」
「ふ~ん」
これはある意味サプライズにはなりそうだな。
時間にして数十分待っていると、再び俺は母さんに呼ばれた。玄関に向かうと柚希が最初に俺に気づき、凛さんと雅さんは母さんと楽しそうに話をしていた。
「今日は賑やかねぇ。後でコップとか持って上がるから」
「お構いなくお母さま」
「そんなこと言わないの。待っててね?」
「あはは、それじゃあお願いします」
リビングに姿を消した母さんを見送ると、柚希が胸に飛び込んできた。少し汗を掻いているようだが気になるほどじゃない。
「あぁカズだぁ」
「ふふ、こんにちは和人君」
「今日はありがとね和人君」
「いやいやこちらこそだ。どうぞ上がってくれ」
三人を連れて部屋に戻る。だが、ドアノブに手を当てたところで中から声が聞こえた。
『懐かしい話と言えばなんだが、まだ凛が小学生の時に雅の家で漏らしたこと覚えてるなぁ。あの時、かなり凛泣いてたよな』
『あぁあったあった。あれ? でもあれ柚希もじゃなかったっけ? ほら、寝る前にホラー映画見てから動けなくなったじゃん』
『あははは! 思い出した思い出した! そんなこともあったねぇ、あの時のお姉ちゃんすっごく可愛かったんだよね』
『お前らやめとけよ。和人なら黙っててくれるだろうけど、これを本人に聞かれでもしたら人生終わるぞ』
『鬼は居ない、なら聞かれることはねえんだよ』
『そりゃそうだけどさ』
……おかしいな、背後から冷気が漂ってくるんだが。
そっと肩に手を置かれ、俺は後ろに引っ張られた。俺を引っ張ったのは雅さんで凄く楽しそうに笑顔を浮かべている。
「ほら和人君、離れていようね」
「お、おう……」
扉から離れた俺と入れ替わるように、異様な空気を醸し出す柚希と凛さんが扉を開けて中に入った。その瞬間、まるで時が止まったかのように静かになり、次いで悲鳴が響き渡るのだった。
「げええええええええっ!? でたあああああああ!?」
「お姉ちゃんの亡霊!? 南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏!」
「やめろ凛! そんなことしちゃいけない!!」
「おい柚希に凛! 落ち着け――ぐはっ!?」
「洋介ええええええええええええ!!」
「……覚悟いい?」
「抹殺します」
……これはしばらく中には入れそうにないな。
とまあこんな大事件が起こることにはなったが、柚希に凛さんも俺の家ということを考慮してか何も傷つけることはなく、中に居た人たちを始末する程度に終わらせてくれるのだった。
「ちなみに、凛ちゃんはうん――」
「ふん!」
「……(バタンッ!)」
俺はリアルで初めて、人間の瞬間移動的なモノを見たかもしれない。
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