100!!

 旅行……でいいのかなあれは。みんなと二泊した海へのお出かけから数日が経過し八月八日になった。そろそろお盆が迫っているということで、柚希を交えてのお墓参りも予定として立てている。

 母さんも是非挨拶をしてくれると嬉しいと言っていたし、柚希がどんな言葉を父さんに伝えるのかも気にはなるけど、俺もちゃんと柚希のことを伝えないといけない。


「もちろん今を楽しく生きていることもそうだし、母さんのこともこれから守っていくって伝えないとな」


 ……さてと、残りの伝えることは墓参りの時で良いだろう。


「よし、こんなもんだな」


 俺は綺麗になった自室を見て満足するように頷いた。実は今日俺は母さんと一緒に家の大掃除をしている。特にすることもなく母さんと一緒に過ごしていたのだが、ふと大掃除を先にやってしまおうということになった。

 急な思い付きではあったものの、一度始めると手が止まらなくなった。そうしてある程度の部屋を済ませ、俺の部屋も今終わったということだ。


「“二人”は終わったかな」


 部屋から出てリビングに向かうと、ちょうどこちらも終わったようだ。


「あ、カズ! お疲れ様」

「お疲れ柚希」


 声を掛けてきた柚希に手を上げて応えた。実を言うと、母さんと一緒に掃除を始めて少しして柚希が連絡してきたのだ。良かったらこれから会えないかなって、それで今掃除してるからと返事した結果、柚希がじゃあ手伝うと言って家に来たというわけだ。


「大分綺麗なったわね。柚希ちゃん助かったわ本当に」

「いえいえ、これくらい朝飯前ですよ♪」


 せっかく来てくれたのに掃除を手伝わせてしまったのは申し訳ないが、嬉しそうにやってくれるんだもんな。母さんと一緒に楽しく掃除をしている姿を見ているとこっちまで微笑ましい気持ちになってくる。


「それじゃあ休憩しましょうか。二人とも、アイスがあるから食べましょうか」

「やった!」


 母さんが冷凍庫からアイスを取り出しそれぞれ俺たちに渡した。そのまま掃除を一旦休みにして俺たちは揃ってアイスを食べ始める。


「う~ん美味しい! カズのはチョコかぁ、ちょっと欲しいなぁ」

「いいよ、ほら」

「あ~ん」


 自然と柚希の口へ運ぶようにすると、それを見ていた母さんがクスッと笑った。


「そういうのはもう本当に恥ずかしがったりしないのね。大人になったわねぇ和人」


 いやこれくらいで恥ずかしがる段階はもう過ぎてるってば母さん。とはいえ実の母親にどこまで進んでいるのかを話す気にもなれず……聞かれても話すことはないと思うけどさ。とはいえ、以前柚希が泊まりに来た時に色々察してたみたいだしもう手遅れな気もしてるけど。


 それからアイスを食べ終えた俺たちは再び掃除を再開し、ようやく終わる頃にはそれなりに汗を掻いていた。母さんがシャワーを浴びに行っている間、のんびり冷房の効いた部屋でテレビを見ているとふと柚希がこんなことを口にした。


「ねえカズ、今日が何の日か分かるかな?」

「……え?」


 その突然の問いに俺は柚希の顔を見た。

 今日が何の日、今日は八月八日だ。え? 何かあったのか? まさか柚希の誕生日……は違う。柚希の誕生日は十二月二十四日だし、逆に俺の誕生日は十一月なので違う……えっと。


「あはは、分かんない?」

「……ごめん」


 素直に謝ると柚希は大げさに手を振った。


「そこまで思い詰めなくていいって! アタシも今朝偶然それに気づいてさ、それでカズに会いたくなっただけだから」

「……偶然気づくってことは意識しないと気づかないってことか」

「もう少し頑張る?」

「うん」


 ここまで来ると答えに辿り着きたいもんだな。

 八月八日か……う~ん、必死に頭を回転させて考えてみるが全く答えは出ない。唸る俺の様子に苦笑した柚希はヒントを教えてくれた。


「アタシたちが付き合いだしたのはいつかな?」

「五月の連休初日だから五月一日だよな」


 その日に俺たちは付き合いだしたのだが……その日が何だ?

 五月一日……そして今日が八月八日……あ、もしかして。俺はそこでスマホを手に取ってカレンダーを表示した。


 今年の連休は五月の一日からだ……そしてひと月ずつ数を数えていく……するとようやく答えが分かった。今日八月八日は、 俺たちが付き合いだして百日目だ。


「俺たちが付き合いだして百日目……ってことかな?」

「正解!」


 そう言って柚希は嬉しそうに抱き着いてきた。なるほど、柚希が気づいたのはそれだったのか。でもそれなら百日目を記念してデートの一つでもしたかったけど、まさか掃除をさせてしまうとは……。


「あはは、そんな顔しないで? 言ったでしょ、アタシも気づいたのは今朝なんだから。それに! アタシにとってカズと過ごす日々はいつも特別みたいなものだから今更だよ♪」


 顔を上げた柚希にキスをされ、俺もそんな柚希に応えるようにキスを返す。もちろん母さんも居るし場所も場所なので触れるだけの軽いキスだ。


「そっかぁ、百日目か。こう考えると感慨深いな」


 三か月と少しを柚希と過ごしていることになる。世の中には倦怠期のようなものが三か月で来るとか聞いたことがあるけど、それは本当なのかと言いたくなるくらい俺は変わらず柚希に夢中だ。

 腕の中に笑ってくれる彼女が傍に居る日々、飽きるなんてとんでもない。ずっと一緒に居てくれ、そんな願いを込めるように俺は強く柚希を抱きしめた。


「汗掻いたから少し恥ずかしいけど……えへへ、アタシもギュッてしちゃうもん!」


 ただただこうしているだけで幸せだ。柔らかい生地のソファの上で、俺たちはお互いを抱きしめ合いながら時間を潰す。母さんが風呂から戻ってきても、俺たちは抱き合ったままだった。


「おかえり母さん」

「おかえりなさい雪菜さん」

「え、えぇ……本当に仲が良いわねあなたたち」


 一瞬目を丸くした母さんだったが、笑みを浮かべて向かいのソファに座った。流石に母さんが戻ってきたので離れようとしたが、柚希の俺を抱きしめる力がかなり強く離れる気配は全くない。

 柚希の体ごと持ち上げるように起き上がると、柚希はそのまま俺の胸元に顔を埋めて動かなくなった。


「見てるこっちが恥ずかしくなるけど、いいわねぇ若いって」

「……………」


 安心してくれ母さん、見られている俺も恥ずかしいから。

 抱き着いたままの柚希の頭を撫でながら、俺は改めてさっきのことを思い返す。俺と柚希が付き合ってから百日、遅かったのか早かったのか……たぶん体感的には早かったなって気がする。それだけ柚希との日々はたくさんのことがあったし、全てが文字通り得難い日々だった。


「……本当に俺は大好きなんだな君のことが」


 ピクッと肩を震わせた柚希が可愛くて、俺は母さんが居るのにも関わらず柚希の頭を撫でながら首筋に顔を埋めた。くすぐったそうに声を漏らした柚希だけど、嬉しそうにもっともっとと身を寄せてくる。

 パシャっとカメラの音が聞こえたと思ったら、母さんがスマホを構えて俺たちに向けていた。どうやら今の柚希とのやり取りを写真として撮ったらしい。


「ほらほら、もっと続けていいわよ♪ 普段仕事で疲れてるんだからもっと私に息子とその彼女のイチャイチャで癒しをちょうだいな!」


 それはそれでどうなんだ母さんや。

 結局、その後に柚希が教えてくれたことと同じことを母さんに伝えた。するとそれなら美味しい料理を作らないとという話になり、必然的に柚希のお泊りも決定するのだった。


「カズ」

「なに?」

「どうかこれからも、末永くよろしくお願いします♪」

「あぁ、俺の方こそお願いするよ。愛してる柚希」

「アタシも! 愛してるよ♪」





【あとがき】


というわけでして、厳密には100話ではないんですが数字は100ということでこんなお話になりました。実はリアルの日数と合わせるつもりで100話頑張って書いてたんですが、流石にそこは一致しませんでした(笑)

ズレた日数は三日くらいですか、ちょっと悔しい気もしますけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る