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「……カズぅ……カズぅ!!」
昨日の今日、というのもあったのか柚希の求めは激しかった。よくよく考えれてみれば外でするのって流石にマズい、お互いにそうは思ったのだ。けれど、若気の至りとも言うべきか俺たちは止まらなかった。
夏の暑さということもあって、お互いに夢中になりながらも気を付けながら愛を育み終えた。目の前で潤んだ瞳と紅潮した頬、疲れたように荒く息をする柚希の姿は当然のことだけど色っぽかった。
「はぁ…はぁ……えへへ、気持ちよかったね?」
俺はその問いに頷いた。
さて、いくら暑さに気を付けているとはいってもそこそこに汗を掻く。これは帰ったら即シャワーだな……。
「……あれ?」
「どうしたの?」
何かに気づいた柚希が声を上げた。どうしたのかと視線を向けると、彼女は何の変哲もない砂の上を見ていた。昔から流行りの探偵アニメに出てくる主人公のように膝を突き、顎に手を当てながらだ。
「はっは~ん……誰かなぁ一体」
「?」
ボソッと呟いた柚希に手を引かれ、俺たちはそのまま別荘に戻った。色々と察してくれた渡辺さんに風呂の用意は出来ていると言われ、そのまま俺たちは二人で浴室に向かった。
「体洗ってあげる♪ その代わり、その後はアタシもお願いね?」
……少しだけ、時間が掛かったのは仕方なかったんだ。
掻いた汗をしっかりと流し、生まれ変わった気分でみんなの元に戻る。リビングに向かうと涼しい冷房の風が俺たちを出迎え、まさに地獄から天国へ来たかのようだ。
「お、二人で出て行ったけどなんだ? あれか?」
「もう蓮君! そう言うことは聞かないの!」
やっぱり色々と察せられてるみたいだ。柚希は蓮と雅さんを見て違うかと呟き、奥の方で休んでいる洋介と乃愛ちゃんに目を向けるも……違うと呟いた。
「柚希?」
「あぁうん、なんでもないよ。もう誰かは分かったようなものだし」
そう言って柚希が視線を向けたのは空と凛さんだ。空はボーっとしているが、凛さんだけは違った。俺と柚希を見て彼女は一瞬で顔を真っ赤にしそっぽを向く。そんな凛さんを見て柚希がニヤリと笑った。
「み~つ~け~た♪」
「っ!?」
近づく柚希に肩を震わせる凛さん、そのまま柚希は凛さんに抱き着いた。
「ねぇ凛、どうして顔を赤くしてるのかにゃぁ?」
「あ、暑いからですよ!」
「ふ~んそっかそっか。でもでも、なんでそんな恥ずかしそうにしてるの?」
……何となく、俺は聞かない方が良さそうだな。
凛さんに絡む柚希は何というか、楽しそうなのもそうだが絶対に逃がさないという意思すら感じさせる。顔を背けようとする凛さんの顎に手を当てて、ゆっくりと振り向かせる動作は何というか……柚希がイケメンに見えてくる。
俺はそんな二人から視線を外し、ソファに座っている空の隣に腰を下ろす。
「どうしたんだ? ボーっとして」
「……あぁ、いや……なんでもない」
何でもなくはないだろう、唇を触っては何かを思い出すように目を閉じる空の様子に俺は自然と凛さんに視線を吸い寄せられた。
「……その……柚希があんな顔をするんだなって驚きましたよ」
「誰でもあんな風になると思うけど。愛されてるなら尚更ね」
「私も……あんな風になるんでしょうか」
「むしろ凛みたいな真面目タイプはドハマりしたりとか?」
「しません!!」
どう考えても普通の会話じゃなかったので俺は二人から視線を外した。
「つっかれたぁ!」
「……お前のどこにそんな元気があるんだよ」
しばらくすると、洋介と乃愛ちゃんも帰って来た。まだまだ遊び足りないと言わんばかりの乃愛ちゃんに、もう勘弁してくれといった表情の洋介だ。二人はタオルで簡単に汗を拭き、冷房の風が直に届く場所で涼み出した。
「みなさんちょうど揃ってますね。焼きそばが出来ていますのでどうぞ」
っと、そんなところでちょうど昼になったらしい。
渡辺さんと霧島さんの二人が作ってくれた焼きそばを食べながら、俺たちは昼どうするかを話し合う。とはいっても海に行く人はビーチに行くより、傍の他の客が来ない海に行くようだ。俺と空の二人は揃って昼は寝るという選択に。
「少し寝たら俺もそっちに行くよ」
「俺もだ……ふわぁ~」
隣に居た空はまるでブレーカーが落ちるかのようにすぐに眠ってしまった。凛さんは寂しそうにしながらも雅さんと共に行き、柚希も一緒に付いていくと思ったのだが彼女は俺の傍に腰を下ろした。
「アタシもお昼寝する~! 昼前に運動したから疲れてるっぽいねぇ」
そうだな、俺と柚希は色んな意味で疲れる運動をしたようなものだ。
既に僅かにいびきをかきながら眠る空の横で、俺は柚希に寄りかかられるように眠りに就くのだった。
それからある程度の時間が経ち、三人の中で一番最初に目を覚ましたのは柚希だ。
「……あぁ、そっか寝てたんだ」
目元を擦りながら和人に寄りかかって眠ったのを思い出す。ここに残ったのはもちろん単純に昼寝するのにちょうどいいい時間だったのもあるが、何より和人の傍に居たかったのが大きかった。
「気持ちよさそうに寝ちゃって」
隣を見れば、まるで兄弟のように眠る和人と空の姿だ。顔は全く似ていなくて雰囲気も違うのに、何故か柚希にはそう見えてしまった。
二人の姿にクスクスと笑い、柚希は凛とした話を思い出す。
昼前に和人と愛し合った後、僅かに残っていた足跡は凛と空のものだった。空は気付かなかったようだが、凛はバッチリと見ていたことが分かった。凛の反応を見て柚希は揶揄うような行動に出たが、実を言えば死ぬほど恥ずかしかった。だからこそああでもしないと恥ずかしさにやられそうだったのだ。
「……喉乾いたなぁ」
喉の渇きを感じ、柚希はジュースを飲むためにキッチンに向かう。すると外に行った面子に同行した渡辺さんとは別に、霧島さんが夜の準備をしていた。
「おや、柚希様どうしました?」
「飲み物をもらおうかなと」
そう言うとすぐにジュースをコップに淹れてくれた。お礼を言って喉に通すとカルピスの甘い味が広がる。小さなコップではあったが、一気に飲んでぷはぁと良い飲みっぷりを披露した柚希に霧島は笑みを浮かべた。
「まだ空様と三城様は寝ているようですね」
「そうですね。ぐっすりですよ」
あれはそう簡単には起きそうにないなと柚希は苦笑した。和人と空……正確には和人の寝顔を見て口元を緩めた柚希を見て、霧島は感慨深そうに口を開いた。
「本当に柚希様は変わられましたよね。人は恋をすれば変わると言いますが、あの柚希様がこれほどに可愛らしくなられたのですから」
「も、もう霧島さんも昔のことを言うのはやめてくださいってば!」
礼儀正しいお手伝いさん、渡辺と同様に霧島も柚希にとっては長い付き合いだ。昔のやんちゃな頃から可愛くなりたいと思い始めた中学生時代、そして高校生になってからの男子に素っ気ない柚希を知っている。そんな柚希が今は一人の男の子に夢中な姿をこれでもかと見せている。それは本当に微笑ましい光景であり、ずっと柚希を知っているからこそ霧島にとっては嬉しい光景だった。
「ある意味、三城様も大変ではないですか? 柚希様、結構際限なく甘えておられません?」
「それは……その……甘えています」
図星だったのか柚希は素直に認めた。
「カズを前にすると甘えたくなるっていうか、本当の自分を抑えられない感じなんですよね。アタシ自身のことなのに、どれだけカズのことが好きなんだって言いたくなるくらいですもん」
恋する乙女の様に、輝くような笑顔に霧島は見惚れてしまった。恋は人を変えると言うが、それはここまで美しい笑顔を浮かべさせるなんて……そう霧島は思い、恋愛って良いモノだなと羨む。
「柚希様を見ていると、私も恋愛がしてみたいなと思いますね」
「霧島さん凄く綺麗ですし相手なんてすぐに出来ると思いますけど」
柚希が見る霧島はキッチリとした渡辺と違い少し軽そうな印象を受ける見た目、どっちかというと柚希に通じる部分がある。既に三十歳を超えた霧島だが、特に何もしていないにも関わらず二十代前半くらいにしか見えない若々しさだ。
「そうでしょうか? 高校を卒業してから大して恋愛をしていない女など興味は持たれないと思いますが」
「そんなことないですよ! その……同じ女の私が言ってもあまり実感は感じないと思いますけど、霧島さんは凄く良い人です。私が男なら放っておかないですって!」
「あら、そうですか?」
柚希の必死な様子に霧島は嬉しそうに笑みを浮かべた。
霧島としては高校生の段階で処女は捨てていたし、異性との付き合いもそれなりではあった。けれどもう長らく恋愛はしていないので男性の求める女像というものがイマイチ把握できない。こんな枯れたような女を果たして相手してくれる男性が居るのかどうか、雅の両親からはよく紹介されるもののどれもしっくり来ない。
「私ももう三十一ですから……いいえ、まだ三十一といったところですか」
「まだ若いですよ! 霧島さんもまだまだ乙女です!」
自分より遥かに若い柚希がそれを言うのか、っと霧島は苦笑した。正直に言うと結婚、ひいては自分の子供を腕に抱きたいという気持ちはある。
「そうですね……私も色々と頑張ってみましょうか」
恋に突っ走る柚希を見て影響を受けたわけではない、けれど少しだけまた恋愛をしてみようかなと霧島は人知れず考えるのだった。
「あ、凄い良い顔で笑いましたよ今」
「本当ですか?」
「はい! その辺の男なんてイチコロです!」
「ということは三城様もですか? 私、三城様のような真っ直ぐで女の子を大切にする人には興味があります」
「だ、ダメですよ絶対! カズは絶対に渡しませんから!!」
ガルルルルと、涙目で威嚇する柚希に霧島は冗談ですよとすぐに訂正した。
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