97
「ほらようくん、遊ぶよ!!」
「分かったから引っ張るなって!」
外に駆けていく二人を見ながら、俺は元気だなぁとしみじみ呟いた。今日もまだ別荘で過ごす予定になっているのだが、俺としてはどうやら昨日だけで遊び疲れてしまったらしい。
空と蓮、凛さんと雅さんがテレビゲームで遊んでいるのを横目で見ながら、ソファに座る俺の股の間に腰を下ろしている柚希に向かって謝った。
「悪いな柚希。さっきからこんなんで」
「ううん全然いいよ。むしろこれ、アタシとしては凄いご褒美なんだけど」
ソファに深く腰を沈めながら背中は背もたれに投げ出し、目の前に座る柚希を抱き枕のように抱えているわけだ。冷房が効いているので程よい温かさといい匂いに包まれて今まさに俺は幸せの絶頂にいるかのような気分だ。
「カズってこの体勢が好きだよね」
「……あ~かもしれない。なんかこう……俺自身リラックスしながら柚希に触れているからかなぁ」
リラックスしているということは心が落ち着いている証拠だ。それにこうして大好きな人を抱きしめている……これはもはや最強のコンボではなかろうか。
「本当ならアタシもカズの方に体を向けたいんだけど……絶対キスして止まらなくなりそうだもんね」
自分でバカップルなんてことを言うつもりはないが、少なくとも柚希と二人っきりだと止まらなくなるからなぁ。もちろん時と場合によるけど……でもさ、よくよく考えてみてほしい。
俺が柚希と知り合ってからもう大分経っているわけだ。その上でお互いに気持ちを通じ合わせて付き合うことになった。付き合う前から柚希が素敵な人ってのは良く分かっていたし、付き合いだしてからそれを更に思い知らされた。
「……ほんっとうに好きだなぁ」
故に、こんな素敵な人を前にして何もしない男が果たしているのだろうか……何度も言うが時と場合にはよるけど、二人っきりの状況で柚希に誘惑されたら我慢するのはほぼ無理だと思う確実に。
「……ふぅ」
「ひゃん!? も、もうカズ!」
耳に息を吹きかけたらくすぐったそうにするも嫌そうにはしなかった。体をモジモジさせながら、離れるどころか更に強く背中を押し当ててくる。どうやらもっと触ってほしいことの意思表示らしい。
「……まあ軽くな」
「うん」
……って待てよ、軽く触れるってどうすればいいんだ? そもそも軽く触れるってどういうことなんだ? チラッと後ろを振り向いた柚希の瞳には薄っすらと期待の色が見えた気がした。
二人ならまだしも空たちも居るからな……よし、普通にイチャイチャしよう。
俺も背もたれに思いっきり体を預け、柚希を思いっきり抱きしめる。そしてそのままサラサラの髪に触れながら頭を撫でた。
「指で掬っても流れるようにサラサラだし……本当に触り心地がいいよ」
「ふふ、泊った時に乾かすところとか見てたと思うけど……そこそこ長いから手入れは本当に大変なんだよねぇ」
確かに洗う時もそうだし乾かすのも結構時間を掛けていたか。でもそれだけ丁寧に手入れをするからこそ、こんなに綺麗でサラサラな感触を実現出来ているんだろう。
「髪の毛だけで満足できるの?」
「え?」
ニヤリと笑った柚希は俺の両手を掴み、そのまま自身の胸へと押し当てた。両の手に感じる大きく柔らかい感触……思わず少し指に力が入った。むぎゅっと柔肉に指が沈む感触が伝わり、それに続く様に柚希の体がピクっと震えた。
「柔らかい?」
「……うん」
「ふふ、カズはアタシの胸が大好きだもんね♪」
……嫌いな人間は居ないと思いますハイ。
やっぱり彼女の胸に触れるといやらしい気持ちにはなるのだが、この温かさと柔らかさに落ち着くのも確かだった。
「ぅん……はぁ……」
柚希が悩まし気な声を漏らしたところで、俺は手を離した。柚希は切なげにチラッと見てきたが、流石にこれ以上続けるとお互いにマズそうだ。
「……あ、そうだ!」
立ち上がった柚希はそのまま荷物が置いてある部屋に向かった。どうしたんだろうとその背中を眺めていた俺だったが、空たちの方が一段落したようなのでそっちに視線を向けた。
「あ~疲れたぜ」
「別荘に来てまでテレビゲームってのもな」
「外暑いもん」
「雅がそれを言うんですか……」
コントローラーを置いて寝転がろうとした空だったが、そっと伸びてきた凛さんの手に頭を掴まれ、そのまま膝枕をする形になった。
「こっちの方が柔らかくていいですよ空君」
「……おう」
空はともかく、凛さんは本当にもう慣れたみたいだな。あの関係性は付き合う前とあまり変わらないようにも思えてしまうが、空と凛さん二人の雰囲気は間違いなく今までと違う。
「蓮く~ん!!」
「おわっと」
そんな二人に当てられたからなのか、雅さんも蓮に思いっきり抱き着いた。俺の視線の先でカップル二人がイチャイチャし始めるという事態……いや、さっきまで柚希とイチャイチャしていた俺が何言ってんだって話だけど。
「お待たせカズ、ちょっと外に行かない?」
「うん? 分かった」
柚希に手を引かれて俺は立ち上がった。
すれ違う渡辺さんにどこに行くのか聞かれ、柚希が元気にこう答えた。
「カズと愛を深め合ってきます!」
そういうこと!? っと俺が驚くよりも先に、全てを察した渡辺さんが女神のような慈愛の笑みを浮かべて口を開く。
「分かりました。お昼までには戻って下さいね?」
「は~い!」
そのまま微笑ましく見つめてくる渡辺さんに小さく会釈をして、俺はそのまま柚希にとある場所に連れていかれた。といってもそこまで離れているわけではなく、周りの視線が届かない場所だった。
「えへへ、実は雅に教わってたの。ここなら人の目はないから安心してって」
「……そうなんだ」
あ、もしかして柚希が部屋に戻ったのって……俺のその予想が的中するかのように柚希はポケットからあるものを取り出した。
「これもひと夏の思い出ってね♪」
それを口に咥えた柚希はゆっくりと、服に手を掛けるのだった。
「空君」
「なんだ?」
「キスしませんか?」
「……どうした?」
残された別荘のリビングにて、凛の提案に空は割と真面目にそう返した。とはいっても凛の言いたいことが理解できないわけではない、恋人になった以上キスくらいはするのが普通だろうからだ。
「空君は嫌ですか?」
「そんなわけないだろ」
嫌なわけがない、ただ恥ずかしいだけだ。それに、今この場には蓮と雅も居るのである。
「私たちは気にしないからいいんだよ?」
絶対に見ないから、そう言って目元を手で隠すも指の間からはバッチリ覗いている雅の姿だ。そんな奴が居るのにするわけないだろ、そう思った空だが……こんな時に彼女の求めに応じるのも彼氏としてするべきなんじゃないか、そう思ったのだ。
「……凛、ちょっと外に行こうぜ」
「え? ……ふふ、はい!」
嬉しそうに立ち上がった凛を連れて空は外へと向かう。
「おや、外に向かわれるのですか?」
その時にあった霧島にすぐに戻ると伝えると、昼までには戻って来てくれと言われ微笑ましい視線を向けられた。気恥ずかしくなった空はそのまま凛の手を引き、過去にかくれんぼをした時に絶好の隠れ場として見つけた岩場に向かう。
「懐かしいですね。昔この先に空君が隠れてましたっけ」
「全然見つけらないんだもんなぁ。いい隠れ場だよここ」
そのまま歩いていくと、ふと凛が立ち止まった。
「どうしたんだ?」
「いえ……?」
首を傾げながら凛はふと空よりも前に出た。そのまま歩いていくその背中についていくように空も歩く。
「……っ! ……!?」
「なんだ?」
何かが聞こえる……そう思った矢先に、凛がバッとこちらに振り向いた。その異様なほどの速さに空は驚くが、凛は空の手を引いて来た道を歩いていく。
「おいどうしたんだ?」
「こ……ここはダメなので別の場所にしましょう!」
「??」
耳まで赤くなっているが一体……そこまで考えた空だったが結局分からずじまいだった。結局場所を変えて、触れるだけの優しいキスをしてお互いに満足して別荘へと戻る。
「空君、私たちも次の段階を目指しましょうね」
「次の段階?」
「それは当然――」
次に続く言葉に、空が顔を真っ赤にしたのは言うまでもなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます