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「……よし、いざ参ります」
「お願いね♪」
早く早くと心待ちにする柚希の背に、俺は日焼け止めのオイルを手に乗せて塗っていく。俺は基本的にこういった物を使うことはないので手探りなのだが、普通に塗っていけばいいんだよな?
「……ひゃんっ!」
「ど、どうした?」
「ちょっと冷たくてビックリしたの。大丈夫だよ」
……このやり取りと全く同じことが俺の好きなラブコメの漫画であったなぁってそんなことはどうでもいいんだ。背中、首の後ろ、足、比較的俺が触れられるところは終わった……でも、柚希はまだだよって言ってお尻を指さす。
「……いやでも……?」
そこで霧島さんがいつの間に持って来ていたのか段ボールを積み立てて壁を作ってくれていた。
「これで大丈夫です。三城様、思う存分塗ってあげてください」
最後にグッと親指を立ててサムズアップ……霧島さんって物静かな感じがしたけど意外とユーモア溢れる人なのかもしれない。取り合えず、壁が出来たのならあまり恥ずかしくはない……か? 周りも結構喧騒が合ってうるさいし……よし!
「それじゃあ塗ります」
「うん……ひぅ!?」
無心になれ、無心になるんだ和人。今はただ、柚希のお尻に日焼け止めを塗ることだけを考えるんだ……ってそれだけを考えると変に想像してしまう! 股の間の際どい所まで塗り終え、俺は一仕事終えた職人のように大きく息を吐いた。
「よしこれで――」
「まだだよ」
「え?」
起き上がった柚希は胸を隠すように俺に体の前側を向けた。まさか、そこもしろというのではなかろうか。柚希に視線を向けると、彼女は可愛らしく最高の笑顔を俺に見せて頷くのだった。
「……お願い」
「はい」
たぶん俺も柚希も少し暑さでおかしくなっているのかもしれない。今俺の顔に集まっているこのとてつもない暑さ、これは果たして海に居るからこその暑さなのかそれとも別の何かがあるのか……俺はそんなことを考えながら、改めて柚希の体に日焼け止めを塗って行くのだった。
しばらくして、霧島さんが作った段ボールの壁から出た俺たちは暑い日差しの中に立つ。
「えへへ、完璧だったね!」
「……そうだね」
色々と頑張ったよ本当に。言ってしまえば理性との戦い、柚希の反応の全てがまるで一撃必殺技のような威力で俺の理性の壁を取っ払おうとしてくるくらいだ。
「谷間もバッチリだし……凄く気持ちよかったよ♪」
柚希さん、とりあえず水に入っていいでしょうか。頭を冷やしたいです。
俺以外にもみんなそれぞれ男子は女子に日焼け止めを塗っていたみたいだけど、隠されていたのは俺たちだけだったらしい。
さて、そんなこんなでみんなの準備が整ったのでようやく海に繰り出すことが出来る。人の多さに柚希が連れて行かれないように、しっかりと彼女の手を握って先導していく。
膝下くらいまで水が来た段階で、柚希が両手で水を掬い俺の顔にかけてきた。
「それ!!」
「つめた!?」
やったなと、俺も柚希に仕返しをするように水をかける。冷たいと楽しそうに口にした柚希はそのまま俺に飛びつくようにジャンプし、その勢いに耐え切れず俺と柚希は二人とも水の中に倒れ込んだ。
「あはは、あ~楽しいなぁ」
「そうだな」
友達と街中のプールには良く遊びに行っていたけど、よくよく考えれば海ってあまり来たことがない。だからこそ楽しいってのもあるし、傍に柚希が居てくれるのもそれに拍車をかけているんだと思う。
柚希と一緒に手を繋ぎながら海の冷たさに癒しを感じる。すると、俺たちの視線の先にどこから持ってきたのかボートに乗ってプカプカと浮いている洋介と乃愛ちゃんが居た。
「……はっは~ん♪」
獲物発見、そんな感じで悪い笑みを浮かべた柚希はそのまま近づいていった。ある程度近くなったところで潜り完全に姿を消し、そのまま二人の真下に行き……そしてボートをひっくり返すようにした。
「ちょっ!?」
「お姉ちゃん!?」
二人とも気づいた時には遅し、バシャンと音を立てて海の中に落ちた。まあいきなりあんなことをされたとはいえ精々胸くらいの深さだ。溺れたりする心配はないだろうけど……あ、洋介が鼻を抑えてる。
「ば、馬鹿野郎鼻に入ったじゃねえか!」
「えぇ~、ラブな気配を感じたからちょっかいを出したかったんだよねぇ」
「何だよそれ……」
「……ラブな気配……いいねそれお姉ちゃんナイスな響きだよ!」
乃愛ちゃんは嬉しそうに洋介に飛びついていた。こうしてみると体格の良い洋介に小さい乃愛ちゃんが必死に引っ付いているような感じだけど、ずっと見ていられるくらい微笑ましい光景だな。
砂浜では朝比奈さんが砂で城を作っているのを蓮が見守り、空と青葉さんは飲み物を片手にパラソルの下でゆっくりしていた。
「みんな各々のんびりしてんだな」
それぞれの個性というか、どういう風に過ごしているのかが明確に分かれるって印象を受けた。しかも当然のようにそれぞれ二人組のペアはやっぱりお互いを憎からず想っているコンビで……そう砂浜を見ていた俺に後ろから柚希が抱き着いて来た。
「ねえカズ、ビーチバレーしない?」
「お、いいね」
俺と柚希、洋介と乃愛ちゃんペアでコートを借りてビーチバレーだ。洋介と乃愛ちゃんも運動神経が良く、俺は付いていけないと思ったが……うん、俺の分もカバーするほどの柚希の運動神経だった。
「カズ! はい!」
「おう!」
柚希が上げてくれたトスを華麗に決める! なんてことはやっぱり出来なくて、力強くボールを打ってもネットに当たってしまう。
「ドンマイドンマイ、その調子で楽しんでこ!」
「あぁ!」
点差が開くことはなく、どちらかが取れば反対側が取るということが続き、このままでは終わらないので次の点を取った方が勝ちということになった。乃愛ちゃんがトスを上げて洋介が力強く打ってきたが、柚希がそれを難なく受け止めた。俺はそれに応えるように再びトスを上げ、最後の一発は柚希に託す。
「洋介!」
「なんだ!?」
「しねええええええええええええっ!?!?!?」
高くジャンプをすることで、水着に守られている胸が大きく揺れるも、柚希はそんな雄叫びを上げて強烈な一発を放った。それは洋介の顔に突き刺さり、そのまま洋介はコートに崩れ落ちた。
「……流石お姉ちゃん。昔を思い出すね」
「やった! アタシたちの勝ちだよカズ!!」
「お、おぉ……」
俺に抱き着いてぴょんぴょんと飛び跳ねる柚希……なるほど、ああいった柚希もみんなは知ってるんだね。また一つ俺は柚希のことを知ることが出来た。
さて、それから喉が渇いたので俺と柚希は海の家にジュースを買いに向かう。その間にもやはり高校生にしては完成された美貌、そして大人顔負けのスタイルは注目を集めてしまう。
ジュースを買うのに順番を待っている間に、柚希に声を掛ける男が居た。
「可愛いね君、俺たちと過ごさない?」
典型的なナンパだ。しかし柚希は全く取り合わず、返事をするどころか振り向きすらしない。まるで存在そのものを認識してないような感じだ。俺が柚希の肩を抱くようにすると男たちは舌打ちをしたが、それでもなお柚希に声を掛け続ける。そんな彼らに対し、柚希が取った行動は俺すらも目を丸くしてしまった。
「カズ、ちょっとこっち見てくれる?」
「え?」
そう言った瞬間、柚希は俺の唇を塞いだ。軽くキスするだけと思いきや、少しだけ舌を入れて僅かながらの情熱的なキスを演出する。突然のことにビックリした俺だったが、柚希は自分と俺の唾液が混ざった舌で唇を舐め、男たちに振り返って答えるのだった。
「何か用ですか?」
その声にはたっぷりと威圧する何かが込められており、男たちは何でもないとそそくさと去って行った。おそらく、柚希の無表情が怖かったのもあるけど、それよりも目の前でキスをした俺たちに呆気に取られたようにも見えた。
「全くもう、無粋だよねああいうの。ほらカズ、早くジュース買って岩陰に行こうよ。良い場所知ってるんだぁ」
「そうなんだ」
空たちと何度か来ているからこそ、隠れスポットを知っているのかもしれない。ジュースを買って喉を渇きを潤しながら、俺は柚希に連れられるようにあまりに人の目がない岩陰へと訪れた。そして――
「カズぅ! カズぅ!!」
チュッチュと音を立てて俺の唇を啄むように柚希はキスしてきた。
「ごめんね? オイルを塗ってもらっている時から結構火照ってたの。それでさっきのキスでもう……」
「柚希……っ!」
俺は柚希の可愛い姿に耐え切れなくなり、彼女を力いっぱい抱きしめるようにしてキスを再開した。胸を隠す水着の布を押し上げるように固くなる感触を感じながら触れると、柚希はコクンと頷いて紐を解いた。
「ここは人が来ないと思うから……ねえお願い、しよ?」
もう待てないと、瞳を濡らす柚希に俺は応えるのだった。
【あとがき】
なるべくしてこうなった、後悔はしていません。
コロナワクチン二回目終わりました。
取り合えず夜から明日にかけて様子見ですが……何もないといいなぁ。もし熱が出たら書く気力が出るか分からなかったので、少し早く投稿させていただきました。
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