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[まえがき]
あまりこういった機会がないので書かせていただきました。
まずは読んでくださっている皆さんにお礼を言わせてください。
この小説も既に60話を突破し、大分書いて来たんだなと実感しています。それは一重にみなさんからのコメントであったり評価を頂ける嬉しさあってのものだと思っています。
まだまだ書きたいことは多くあって、色んなイベントを書いていきたいのでこれからもどうかよろしくお願いします。
※※
少し時間は流れて土曜日になった。朝比奈さんと約束をしていたように、朝から俺は柚希と乃愛ちゃんに連れられて朝比奈さんの家にお邪魔した。
……その、何というか凄い大きな家だ。明らかにお金が掛かっているような外観もそうだし、和風な作りも雰囲気があって圧倒されてしまいそうだった。ご両親は残念ながら今日は居ないとのことで、挨拶をするのはまたの機会になりそうだ。
さて、そんな風に驚く俺が通されたのは朝比奈さんの自室……というわけではなく大きな広間だった。基本的に昔から幼馴染が集まるのはここらしく、この広い空間を使って楽しい時間を過ごしていたようだ。
「こうしてここに集まるのも久しぶりだな」
「あぁ、広々として眠たくなるぜ」
ぐでーっと伸びるように空と洋介が寝転がった。伸び伸びとした姿を見てじゃあ俺も……なんて思ったけど、流石に初めて来た場所でそんなことをするのは若干抵抗がある。
「全くもう……」
「よーくんにダイブ!!」
「ぐほっ!?」
困ったようにする青葉さんとは裏腹に、乃愛ちゃんは思いっきり洋介のお腹に飛び込むようにダイブした。苦しそうな声を上げた洋介、そんな洋介に引っ付いてご満悦のように笑顔になる乃愛ちゃんだ。
てかあれだな、こうして乃愛ちゃんと洋介の絡みを見るのは何気に初めてだ。なるほど、洋介が傍に居ると乃愛ちゃんはあんな感じになるのか。
「カズは初めてだよね? 乃愛のあんな姿を見るのは」
「うん。なんというか、凄く幸せそうに笑うんだな」
うちに泊まりに来た時も心からの笑顔は浮かべていたと思うけど、今の乃愛ちゃんの浮かべている笑顔は少し違う……良く分からないけど、俺と一緒に居る時の柚希を彷彿とさせる笑顔だ。
「……はは、やっぱり姉妹なんだよな」
「??」
「柚希みたいに可愛い笑顔をするんだなって思ったんだよ」
「も、もういきなりなんだから!」
ぴとっと引っ付いて、うりうりと頬を突いて来た。俺もお返しと言わんばかりに柚希の柔らかな頬を突く。そうして二人で笑い合っていると、少しだけ静かになっているのに俺は気づいた。どうしたのかと思って周りを見ると、どうやらみんなが俺たちのことを見ていた。
「……何よみんなして」
「いや……そんな風にラブラブなんだなって思ってさ」
そう返した蓮に乃愛ちゃんを除く全員が頷いた。
「……えっと」
「あはは……」
いや、二人っきりだと柚希の可愛さはこんなものじゃないぞと言いたい気持ちは抑えた。
「二人っきりだともっと凄いんだから。ねえ? お姉ちゃんにお兄さん」
隣で力強く柚希が頷いた。
そんな風に話をしていると、障子が開いてお手伝いさんが入ってきた。お盆に乗せられているのは飲み物とお菓子だ。長テーブルの上にそれを置きぺこりと頭を下げて出て行った。
「お手伝いさんとか初めて見たわ俺」
「まあ雅の家は大きいからそれこそ掃除とかも大変だからね。後二人くらい居るんじゃなかったかな」
「そうなの?」
「うん。居るよ」
……凄いんだなお金持ちって。
柚希に聞いたけど、朝比奈さんのお父さんは病院の院長でお母さんは弁護士らしくそりゃ高給取りですわ。
「昔からここに集まって遊んだり、テスト前に勉強とかもしたんだよ?」
「へえ」
その場所に居たわけではないのに、何となくその辺りの想像が出来てしまう。この長いテーブルをみんなで囲むようにして勉強し、時にはまだ小さいみんながここを走り回ったりしたんだろう。
「お姉ちゃん久しぶりにプロレス技披露したら?」
「やらないわよ!」
「お兄さんも見たいよね?」
「……そこで俺に振るのか」
実を言えばどんな感じなのか気になるっちゃ気になる。柚希は恥ずかしそうにモジモジしているけど……これは見たいと言ったらどうなるんだろうか。俺自身も答えに窮していると乃愛ちゃんがこう言った。
「お兄さんにやってみたら? 痛くない感じでさ、こんな風にやってたのって」
「いいじゃん。やってみろよ柚希」
みんなからの視線を受けて柚希が小さく聞いてきた。
「やってみる……?」
取り合えずどう答えればいいのか分からなかったので頷いてみた。すると柚希が立ち上がったので俺も一緒に立ち上がる。柚希は俺の体を拘束するように腕を回して技を掛けるのだが、当然全く力が入ってない。それどころか……その、スタイルの良い柚希にこうされると俺自身色々と問題が起こるわけで。
「……ねえカズ、ヤバいかも」
「なにが?」
「アタシさ。こうやってカズと至近距離で絡み合ってると……その……スイッチ入りそうになっちゃうんだけど」
その言葉にドクンと心臓が跳ねた。そうしてちょっと腕が動いてしまったのだが、肘の位置が丁度柚希の胸を押し潰すような形になってしまう。
「……ぅん」
柚希の悩ましそうな声を聞いた俺は一気に冷静になった。落ち着いて、落ち着いて体を離そうな? 柚希に視線で訴えると、柚希も小さく頷いてゆっくりと体を離し元の位置に腰を下ろした。
ただ、さっきよりも柚希の距離は近く腕を組んで離してくれない。空と洋介は首を傾げていたが、そっぽを向いた蓮はともかく残りの女性陣が顔を真っ赤にして俺たち二人を見ていたのは勘弁してくれ。
「お、このバウムクーヘン美味いな」
「マジで? ちょっとくれよ」
「はいよ」
そんな空気を物ともせずに腹を満たそうとする空と洋介が俺には救世主に見えたよ。それから用意されたジュースとお菓子を雑談を交えて食べつつ、朝比奈さんが何かを思い付いたように部屋を出て行った。
「どうしたんだ?」
「たぶんボードゲームの道具取りに行ったんじゃないか? そういうのをみんなでやるのが好きなんだよ雅は」
「そうなんだ」
それはちょっと意外な気もしてる。まあ取り合えず朝比奈さんが帰ってくるのを待つとしよう。
「もう空君! お菓子ばかり食べてると太りますよ?」
「それは凛じゃ――」
「……すぅ」
「って何でもない何でもない!」
目を細めた青葉さんに空が慌てて弁解するように手を振るう。あれだな、一度空にはちゃんと考えて言葉を発するように言った方がいいんじゃないかな。青葉さんのことだから大丈夫とは思うけど、その度に折檻食らうと身が持たないんじゃ……。
「いつかポロっととんでもないこと言いそうで怖いんだよね」
「……たとえば?」
「う~ん、ないとは思うけど二人の仲に亀裂が入ってしまう何か」
「……………」
確かにそれもあり得るけど少し想像出来ないかもしれない。空もそうだし、青葉さんもお互いのことは誰よりも理解していると思う。そんな二人だからこそ、何があっても大丈夫だと思わせる安心感があるんだ。
「ふふ、要らない心配かな」
そしてそれは柚希たち他の人たちもそうなんだろう。
他人にまで伝わるような仲の良さ、思い合っている姿は本当に尊いモノだと思う。そして同時にとても凄いことだと思うんだ。いつになるか分からないけど、本当の意味で二人の想いが交わる瞬間を見てみたいものだ。
っと、そんな風に空と青葉さんを見つめていた時に朝比奈さんが戻ってきた。
「じゃじゃーん! みんなでこれやろうよ!」
ボードゲーム……これはたぶん人生ゲームみたいなやつだな。テレビゲームはよくやるけどこういったタイプのモノはあまりやったことがない。だから結構楽しみにしている自分が居た。
しかし、この人生ゲームが後に悲劇を生むことになるのを俺は……ここに集まった俺たちは知る由もなかったのだ。
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