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「それであの先輩から私を守ってくれたんです! 大切な人だって言って!」

「まあまあ! 和人も言う時は言うのねぇ」

「本当にかっこよかったんです! それでその後にカズから告白されて、アタシもう嬉しくて泣いちゃったんですよ!」

「そうなのね! うんうんそれで――」


 ……気まずいとです。

 あの後、ピンクの可愛らしいパジャマに身を包んだ柚希が戻ってきて夕飯の時間が始まった。今まで見たことがなかった柚希にドキドキするのは当然だったが、すぐに俺に関しての話で柚希と母さんが二人の世界を作ってしまった。


「……はは」


 別に仲間外れだなとか、俺も話に加わりたいとかそういうことは不思議と思わなかった。俺の中にあったのは笑顔の柚希と母さんが並んで話しているこの光景が嬉しかった。元々仲が良いのは分かっていたけど、こんなに打ち解けているのは二度目になるが本当に嬉しいことだった。


「あむ……」


 あぁ唐揚げが美味い。それにこっちの豚汁も本当に美味しい……あ、このコロッケは柚希が作っていたんだっけ。うん、甘くて美味しい本当に最高だ。

 二人の声をBGMに美味しい夕飯を食べていく。語彙力が少し死んでいるが、それは大好きな彼女の手料理を食べていることに感動しているからと思ってほしい。


「……本当に美味しいな」


 コロッケだけでなく、ポテトサラダなんかも結構手が込んでいる。これを作ってくれたのも柚希だけどなるほど、弁当の時も思ったけど本当に柚希は料理が上手だ。出来ることなら毎日食べたい、そんなことを思ってしまうほどに美味しかった。

 手が止まらない俺だったが、そこで話し声が止んでいることに気づいた。どうしたのかと改めて二人を見ると、二人は話をやめて真っ直ぐに俺を見つめていた。


「……えっと?」


 どうしたのだろうか、もしかして頬に米粒でも付いてる? 頬に手を当てたがそんなことはなかった。それなら一体何が、そう困惑する俺を見て柚希が嬉しそうに口元を緩めた。


「ふふ、カズが美味しそうに食べてくれてたのが嬉しかったの。作って良かったなって、そう思った」

「……そっか。うん、最高に美味しいよ」

「本当?」

「うん。毎日食べたいって思ったくらいだから」

「毎日……それって」


 思わず言葉に出てしまった……って、恥ずかしがる必要はないか。それでも頬に熱は溜まって熱さを感じる……それを誤魔化すように箸を動かしていると掠れるような声だったけど、俺の耳はしっかりと柚希の声を拾った。


「……アタシ、本当にカズと結婚したい」


 ……麦茶を飲んでいたら吹いていたかもしれない。俺と同じように顔は真っ赤だけど、しっかりと俺を柚希は見つめていた。真っ直ぐに、俺しか目に入ってないと言わんばかりに……そんな柚希を見て母さんは口元に手を当てながら微笑んでいた。


「ふふ、柚希ちゃんを見てると本当にこっちも笑顔になるわね。そう言えば二人は喧嘩とかしたことはないの?」

「……あぁ」

「喧嘩……ですか?」


 柚希と喧嘩はしたことないかな……というか言い合いもあまりしたことはない? 柚希も一緒なのか顎に手を当てて考えているがそのままだ。本当に仲が良いのねと、そう母さんが締めてこの話は終わった。

 そして――。


「あぁ楽しかった!」

「こんなに明るい夕食は久しぶりだったな」


 場所は変わって俺の部屋だ。

 夕飯を済ませ片付けに入った柚希と母さんだったが、俺も何か手伝いをしようとしても任せてと言われてしまい眺めるだけになった。ああいう時にどうすればいいのか迷うけど、柚希の厚意に甘えることにした。

 夕飯も済ませ歯磨き等も終わらせた以上もうやることはない……まあまだ寝るには早いし俺も柚希もまだ寝るつもりはなかった。


「……綺麗だな」


 当り前のことだけど、風呂の後ということで柚希はすっぴんだ。最低限の化粧くらいはしていると聞いたけど、特に変化がないあたり元々のレベルが高いということなのかもしれない。ボソッと呟いたそれに柚希は気づいて無さそうだけど……というか、柚希は俺をチラチラと見ながら体をモジモジさせる。


「……ねえカズ」

「どうした?」


 柚希が何を言いたいのか、そして何を求めているのか……柚希と恋人になってからある程度経ったからこそ言葉にしなくても分かることがある。柚希のために用意した布団はまだ畳んだまま……俺は柚希の手を引いてベッドに腰を下ろした。

 頬を赤く染め、少しだけ潤んだ瞳を向けてくる柚希……至近距離で見つめているからこそ、彼女の吐息すらも感じることが出来る。俺は柚希の頬に手を当てて、そのままいつもしているようにその唇に触れるような口付けをした。


「……ぅん……っ」


 触れるようなキスをして、そして顔を離してお互いに微笑み、そしてまた近づく。その繰り返しだけでも心は満足していた。でも、物足りなさを感じているのも確かだった。それは俺だけでなく、柚希もまた同じみたいだ。


「柚希、好きだよ」

「アタシも好き。どうしようもないくらいに好き」


 まさか自分がこんな立場になるとは思わなかったけど……なるほど、もっと深い繋がりを求める……そうなりたいと望む気持ちはこんなにも強くなるのか。少しだけ怖がるような、けれども期待を滲ませるその瞳に俺は一体どう映っているのだろう。

 どちらからともなく、俺たちは再び口付けを交わした。ただ今までと違うのは、ただ触れ合うだけではなく、舌を使った深いキスだった。脳がピリピリと痺れるような、そんな甘くもあり心地の良い刺激を求めるように……俺たちは一心不乱に舌を絡ませ合う。


「……ぷはぁ」

「はぁ……はぁ……」


 キスに夢中になりすぎて息をするのを忘れていたのかお互いに肩で大きく空気を吸った。考えることは同じだなとクスクスと笑い合い、そして柚希が小さく言葉を口にした。


「……初めてだから……その、分からないことは多いと思うの。だから優しくしてね?」

「もちろんだ……って、俺もそうだから不安はいっぱいだよ」


 ……まあ健全な男子高校生としてそういう動画を見たことがないわけじゃない。それでもやっぱり、お互いに初めてということで不安を完全に拭い去るのは無理だろう。それでも、お互いに求めるこの気持ちを止めることは出来そうになかった。

 再びキスを再開し、俺は……自然と腕が伸びるように、柚希の豊かな胸に触れた。


「っ!」


 ビクッと体を震わせた柚希に俺はハッとして手を離そうとした。でもそれを止めたのは柚希だった。


「やめないで……少しビックリしただけだから。お願い、もっと触れて。アタシをもっと感じて」

「……あぁ。分かった」


 気を取り直して再び手を当てた。片手で収まらない大きな胸、柔らかさと共に温もりも感じ、そしてドクンドクンと柚希の心臓の鼓動も僅かながら感じることが出来る。そして夕飯の時……いや、正確には風呂から上がった柚希を見た時に気づいたけど下着は付けていなかった。


「……くすぐったい……でも、凄く幸せが溢れてくる。好きぃ……好きだよカズ」


 掠れるようであっても、しっかりと聞き取れる好意を伝えてくれた柚希に応えるように俺ももっと彼女を感じたいと手に力を込めた。指が沈むようで、でもすぐに押し返してくる弾力……先ほどよりも柚希の鼓動と息遣いが激しくなっていた。そんな彼女を見て俺自身が興奮を感じるように、柚希もまた俺と同じだと言わんばかりに柔らかさの中に小さな硬いそれを感じることが出来た。


「柚希、愛してるよ」

「うん。アタシも愛してる」


 そうして彼女を押し倒した。

 まだ夜は長い……なんなら明日の夜も柚希はこの家に居る。間違いなく、これからの長い時間俺たちを邪魔する者は誰も居ない。


「きて、カズ……っ!」


 腕を広げて俺を求める彼女に応えるように、俺は……俺たちはこの日、一つの段階を踏み越えるのだった。

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