20
今日やっと柚希に想いが伝わった。
付き合ってくれ、その言葉に頷いてくれたと言うことは今日を持って恋人になったということでいいんだよな? あまりの嬉しさにもしかしたら出来の良すぎる夢じゃないのか、なんて思ってしまったけど傍に居る柚希の存在が現実なのだと教えてくれた。
……ただ、少し周りが見えていなかったのは否めない。
「……………」
「……あはは」
ベンチに座る俺と柚希の前に立っているのは蓮と朝比奈さんの二人だ。手を繋いでいる様子からおそらくデートでもしていたのだろう。この公園に立ち寄った時に俺たちの姿を見えたので近づいてきたみたいだ。
「二人を見つけたから近づいたらいきなり柚希が押し倒してキスするんだもんな。雅と一緒に思わず叫びそうになったぞ」
「本当だよ。でも……キスしてたってことはそういうことなの?」
朝比奈さんの問いかけに俺たち二人は頷いた。
「さっき告白してな。付き合うことになったよ」
そう言って柚希を見れば彼女もまた俺を見つめ返す。柚希にとってはずっと一緒に居た幼馴染にへの報告にもなるのかな。
「カズの言う通りだよ。やっと……やっと恋人になれたの!」
照れくさそうに、けれども満面の笑みに俺も思わず頬が緩んだ。伝えられた蓮たちも似たようなもので、心から柚希のことを祝福してくれているようだった。
「やっとか。いつかいつかと思ってたけど、思ったよりは早かったのか?」
「そうだね。雰囲気的には既に付き合ってたようなものだけど」
朝比奈さんにそう言われ俺は今までのことを思い返す。今になって実感したことだけど、確かに俺と柚希の距離は近かったと思う。あまりに柚希が自然に懐に入ってくるから……いや、最初はおかしいと思ってはいたんだろう。ただ居心地が良すぎてそれが普通なのだと思い込んだのかもしれない。
「でも……本当の意味で恋人になった。なあ柚希」
「うん♪ アタシとカズは恋人……うふふ」
そうやって伸びてきた手を握ると、指が絡み合うように触れてくる。あぁやばい、付き合いたてというのもあるんだろうけどこれだけで幸せなんだけど。
蓮が呆れるように苦笑し、朝比奈さんも似たようなものだが柚希を見つめるその目はとても優しかった。柚希から視線を外し、俺を見つめ彼女は口を開いた。
「三城君、柚希ちゃんをよろしくね? 悲しませたら絶対に許さないから」
許さない、その言葉には大きな重みがあったような気がする。これからの未来がどうなるかは分からないが、俺としては絶対に柚希を悲しませるつもりはない。
「分かってるよ。もちろん口だけになるつもりはない。本当の意味で柚希を悲しませない、守ることを約束するよ」
「うん。お願いね」
俺の誓いとも言える宣言に朝比奈さんは柔らかく微笑み頷いた。どうやら本気だと受け取ってもらえたみたいで安心する。そんな時、蓮に視線を向けると彼は肩を揺らして笑っていた。どうしたのかと首を傾げる俺に、蓮はある方向を指さす――その指の向く先は柚希だ。
「柚希……?」
彼女はただただ俺を見つめていた。どこか潤んだような瞳にどうしたのかと焦りが生まれる。
「焦る必要はないぞ。ただ感動してるだけだって。そうだろう柚希」
「……うん。カズ、好き」
そう言って柚希は抱き着いて来た。
猫が飼い主に甘えるようなその仕草に柚希に対する愛おしさが溢れる。頭を撫でてあげればもっとしてと言わんばかりに甘えてくるのだ。
「ふふ、ある意味三城君にとってはこれから大変かな」
「大変?」
「うん。柚希ちゃんこうなるととことん甘えるから。覚悟しておいた方がいいよ、もっと柚希ちゃんの可愛い所見つけちゃうと思うから」
「それは……」
むしろ望むところって感じだ。
二人が居ることも忘れて甘える柚希に構いつつ、時間を潰す。そしてある程度時間が経ったときに蓮からこんな提案がされた。
「和人と柚希はどうする? 良かったら一緒に遊ぶか?」
「いいね。どうかな?」
いや、デートにお邪魔するのはどうかと思うんだけど。蓮の突発的な提案ではあったが朝比奈さんも賛成のようで異論はなさそうだ。じゃあどうしようか、柚希に聞こうとして言葉を呑み込む。何故なら柚希が俺よりも先に二人に返事を返したからだ。
「嫌だ」
それは明確な断りだった。
蓮と朝比奈さんは少し驚いたようにしているし、俺としてもいきなり考える間もなく断るとは思っていなくてビックリした。柚希は俺の胸元に頬をくっ付けながら言葉を続ける。
「今日はずっとカズと二人で居たい……もっとイチャイチャしたいからダメ。ごめんね二人とも」
……そうだな、せっかく柚希と恋人になれた記念日でもあるのに気が利かないのは俺だったか。
「ってことでまたの機会にでもお願いするよ。今日は柚希と二人で過ごすことにする」
「……そっか。分かった」
「ふふ、それがいいよ」
それで二人と別れ、再び俺たち二人の空間になった。
柚希は相変わらず俺に引っ付いて離れる様子がない。こうしているのはとても幸せなことでいつまでも大歓迎ではあるんだけど、ずっとこのままと言うのもそれはそれで困る。全く、贅沢な悩み事だな。
「ねえカズ」
「どうした?」
「ん」
目を瞑って唇を突き出すその様子にやっぱり俺は照れてしまう。しかしこうして求められて恥ずかしさを理由に躊躇うのは柚希に悪い。そう思って意を決して柚希にキスをした。
触れ合うだけのキスだというのにどうしてこんなに胸が温かくなるのだろうか。この腕の中に好きな人が居る、それだけでこんなに幸せになれるなんて思わなかった。
「柚希、好きだよ」
「アタシも好きだよ」
この頬の暑さが不思議と心地よい。
柚希も顔が真っ赤で照れているのが見て取れた。暫く二人の空気を満喫するように時間を潰した。そしてそろそろ帰ろうかという時間になった時、柚希が少し嬉しくも困ることを言いだした。
「ねえカズ、我儘言ってもいい?」
上目遣いに見つめられて俺は頷く。
「いつもならね、バイバイって別れられるの。帰ったら電話だってできるし、一緒に勉強する約束をしてるからすぐに会えるの。でもね? 離れたくないの……ずっとカズの傍に居たいの。帰りたくないの……っ!」
やばい、一瞬クラっときた。それくらいに破壊力があった。
とはいえ離れたくないのは俺も一緒だ。ただ、やっぱり俺たちは学生だから帰らないと親を心配させてしまう。だから……あぁくそ! この場合何が正解になるんだ!?
答えを求めるあまり焦ったのはあった。だからこそ、こんな提案をしてしまい後悔する。
「じゃあ泊まりに来る? 柚希が良ければだけど……」
言ってしまって後悔した。
付き合ってばかりで言う言葉じゃないだろ、もし俺と言う存在が目の前に居たら思わず頭を殴りそうになるくらいだった。だけど、柚希から返ってきた言葉は――。
「いいの? うん、泊まりに行く。ふふ、やった! 夜もカズと一緒に居られるね!」
……これは、良かったでいいのか?
飛び跳ねそうなくらい喜ぶ柚希を見るとやっぱり無しとも言えない。俺は何か言われるかなと思いつつ、母さんに恋人が出来て、その恋人が今日泊りに来るという旨のメッセージを送るのだった。
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