事件

悪想の中でも最近本当に多いものが「アンチ」と呼ばれる具現化だ。「アンチ」は総称で、アンチの中でもまた種類がある。

私は専門とまでは言わないがほぼ専門である。先述した通り近年急増している「アンチ」。アンチ行為は無責任に匿名で人々を傷つける。している本人たちは遊び感覚で辛口評価として評価しているだけかもしれないし、大切に思っているからこその言葉なのかもしれない。しかし、アンチのせいで人が自殺する事件が起きているし、被害者の反応を楽しんで貶すような人間がいる。







ある日のことだ。

私の親友である雀という子からメールが来た。私と雀は小鳥仲間で仲良くなった。雀はとてもかわいく本当に雀のような子だった。

しかし、雀にはある秘密があった。

それは“ヲタク”ということ。彼女は一度はまるとすぐに二次創作を読み漁り自分で描くほどの子である。例にもれず、彼女は今は待っている漫画、アニメ、小説の二次創作を描いていた、はずだった。

私たちの「視る」能力は万能じゃない。雀とは最近会っておらず、メールやチャットアプリでは会話するものの直接声を聴いたりということはなかった。お互いに、いや、私はきっと仕事を盾にしていたのだろう。まずここが一つ目の後悔だ。

そう、「視る」力は対象と顔を突き合わせることで「視る」ことができるもので、彼女からの文字だけでは私は気が付くことができなかったのだ。































親友、雀からの最後のメールは


『さよなら』


だった。










__

それを見たとき私は家でゴロゴロと雀からのメッセージを待っていた。その日の雀はいつもより口数が少なく私は疲れていたのかな、としか思っていなかった。

しかし、彼女からの「最後」にするつもりのメッセージが届いて私の頭の中は真っ白にも真っ黒にもなった。大切な親友の現状を理解していなかった自分に腹が立つし、こんな自分を私は私自身が拒絶した。

だが、今はそんなことをしている場合ではない。雀に電話をすると雀は出てくれた。

「…ねぇ雀、今どこにいるの?」

そう聞くと

『…ゆ……う…?_わ=_じ&#!”$__’よ…。』

耳を澄ますが雀の声が聞き取れない。

「雀!聞き取れない…。文字打てる?」

そう聞くと雀の小さい悲鳴が聞こえた。

私は最近平和ボケしていたのだ。悪想のせいで死を選ぶ人間のうちにごく稀に具現化を見ることができてしまう者がいる。雀は長い間私といたこともあり視えているのかもしれない。もし視えているとしたらそれは相当危ないということだ。あいつらは時々視える一般人を殺す。なぜならヤツらは“悪意”という想いの具現化であり、それは“悪意”と“娯楽”の集合体___「アンチ」だからだ。

「アンチ」には複数の種類があるといったが代表的なものが“悪意”、“娯楽”、“蔑み”、“愉悦”などだ。そして、“想い”は良くも悪くも純粋なものなので“悪意”だったらそれが大きくなりすぎて悪意100%で人を攻撃し、それに何の疑問も抱くことがない、獣のようなものだ。理解するほどの知能もなく生み出された理由だけを攻撃する、それが「悪想」と呼ばれる具現化なのだ。

先ほどよりましになった頭を使って考える。私の知るアンチによる自殺で一番多いのはやはり自室だ。そこに向かいながら彼女のことを考える。確かに雀は「アンチ」される対象だった。そう、二次創作の作品なのだろう。私は小説ばかり読むが彼女は文才があり、とても面白いと思う。しかし、それらはあくまで彼女の妄想の産物でありそれを自己満足でサイトに上げたりしているだけなのだ。

昔彼女は

「小説家とか、何かを創りあげる人って変態なんだと思うんだぁ。」

と言っていた。なぜか聞くと

「だってさ?ものを創り出すって本当に大変なことだし、私は元あるものからの派生みたいなものだけど1から10に行くのだって大変なのに0から1を創りあげるってとってもすごいことだと思うの。でもさ、これは私だけなのかもしれないんだけど、楽しくってしょうがないの。私が考えた支離滅裂な妄想をどうやったらみんなに伝わるんだろう、このキャラの良さが伝わるんだろう、って考えているときが一番楽しくってさ?そりゃ批判もあるけどさ?なら読まなければいいのになってほんとに思うんだよねぇ。わざわざ自分の地雷を読んで気分悪くなってそれを作者のせいにして。何がしたいんだろう、あの人たち。」

そう笑いながら言った。私は彼女の言葉を聞いてからアンチについての考えを改めたのだ。そしてそれと同時に彼女の作品にもアンチが付くのだな、と当時驚いたものだ。





雀の家は私の家から少し遠い。夜中ということもあり、道がすいていたため予想り早く着きそうだな、と思いながら向かっていると雀ではない女性がうつろな顔をしていた。その人の周りにも「アンチ」がいた。私は迷った。親友も危ない状態であり、目の前の女性も危ない。しかし私はまだまだひよっこなため、女性のアンチを退治すると時間もそうだが親友が危なくなってしまう。

私は最終案として司令官に連絡を取った。

「っもしもし、小鳥遊です!支給応援お願いします!」

とGPSを起動させた。

「あ、あの!これ、持っててください!」

そう言ってGPSを女性に持たせた。

「飛龍さん!私のGPSをもたせたので後お願いします!!」

そう言って飛龍さんの返事を聞く前に雀の家に向かった。





__

雀の家に着いた時、結果から言えば間一髪だった。

「アンチ」は性質上ほとんどが言葉攻めをして相手の精神を崩壊させて自殺させるのだ。目視できるとしたらなおの事、だ。見た目も気持ち悪いし。なんか、ニタニタしてるしとにかく気持ち悪いのだ。

私たち〈影〉所属のものたちは想像力を武器とする。言葉の通りで、私たち「視える者」はこの眼で具現化たちが視えるため頭が柔らかい。そして、影響、私たちが具現化したいものを強く考えると具現化するという何ともよくわからない能力がある。私は銃器を主に扱い、弾が具現化にあたるとどうなるかまで想像して手元に集中すればそれが具現化される。

しかしこの能力にももちろん限りがある。私の場合は量より質のため一回で具現化するものは少量だし同じものを具現化しようとしても質が落ちてただただ相手に刺激を与えて襲い掛かってこられてしまうこともある。退治するものが多ければ多いほどまだまだ実力不足だということを痛感するのだ。先ほどの彼女は「アンチ」が数匹と他にもくっついていた。きっとあれは最終的に過労なのだろう。それこそ私には相手にできない代物だった、言い訳をしてしまう。

だが、先輩が言ってくれただろうし私は雀を生かすことができた。私にとってはとりあえずのミッションは成功に終わった。明日、報告書を提出する時に彼女のことを聞いてみよう、と思いながら雀と話す。

やはり雀は二次創作のことでアンチがきて、初めは真摯に受け止めコメントを返していたがそれで調子に乗ったのかヒートアップしていき、炎上した。しかし、それを私に言ったら迷惑と思って言わなかったことで親友に隠し事をしているという罪悪感もあって余計にいいずらくなって、という負のループだったらしい。“悪想”はそういう負の感情を喰らい大きくなっていくため、悪化させてしまったのだろう。

私も私で思うところがあったのでお互いに謝りっぱなしだった。

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