事件の後

次の日、出勤すると飛龍さんに問い詰められた。

「悠!昨日はどうしたの?」

そう聞かれたのでかいつまんで話す。すると困った顔をして私のGPSを渡してきたので受け取りながらあの女性について聞いてみる。

「飛龍さん、昨夜の女性、その、どうなりました?」

そう聞くと無言でうつむき微かに首を横に振られた。__そう、彼女は亡くなってしまった、ということだった。

飛龍さんから聞いた話では、昨夜は私の説明不足もあり間に合わなかったそうだ。それを聞いてまた私は自己嫌悪に陥った。あのとき私が“悪想”にわかりやすく反応したがためにヤツらの本能に触れてしまったのだ。

そして、女性のように“悪想”が原因で亡くなった方はほとんど私たちを恨む。死んで私たち「視える者」が視えているにも関わらず、放置してしまったのだから。

私が見るからに落ち込んでいると飛龍さんは私を車に乗せある場所へと連れて行った。

「悠。ここが昨夜の女性が亡くなった場所だ。」

そう言われ私は顔を上げるとそこには昨夜の女性がいた。この世に未練があったに決まっている。私が少しの希望を見せてしまったがために彼女はたくさんの後悔と私たちへの恨みを持って死んでいったのだろう。

「昨夜、貴女に出会ったにもかかわらず、その命を散らせてしまったこと、大変申し訳ありませんでした。」

そう言って女性に向かって頭を下げる。女性は私をじっと見ている。

「命を天秤にかけることはできません。貴女と出会った時点で本来であれば祓わなければいけない、それが私の使命だというのに…。本当に申し訳ありませんでした。」

『…私の命は貴女にとって何だったの?貴女、とても急いでいたよね?天秤で測ることのできない?笑わせないで。貴女は昨夜、私の命とナニカを天秤で測った。そしてそのナニカのほうが重かったから他人任せにして、私に希望を持たせてっ!楽しかった?』

その通りだった。私はこの女性と親友の命の重さをはかってしまっていたのだ。

「申し訳、ありませんでした。」

それ以外に何も言えなかった。

『…ふふ、謝ることしかできないの?貴女が謝ったら私は生き返るの?』

女性は初めて私に笑いかけてきた。それは傷つき、怒りを隠しきれないとても美しい笑顔だった。





そこから先は覚えていない。ただ、気が付くと飛龍さんの運転する車の中にいたのだった。




















私は一つ「罪」を背負った。





___

具現犯罪特殊取締組織の所有地には静まった場所に墓地がある。

そこには何も埋まっていない。

では何のためにあるか、それは、“悪想”によって亡くなってしまった我々の「罪」がある墓地。親族にも事情は当り障りのないように話して、遺品がお墓の上に置いてあったりする。

ここの墓守は私たちに協力的な倭想の方々が引き受けてくださっている。

あの日から私はここにあるあの女性のお墓に手を合わせる。

これは、私の「罪」であり、戒めなのだ。

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