第13話 前哨戦

「放て!」

 轟音とともに進んでいた騎馬隊、歩兵部隊が次々に血を流して倒れていった。重装騎兵の装甲も、歩兵の持つ盾も簡単に突き抜けてしまった。

 魔法強化された装甲をつけた魔法装甲騎馬隊も、別の銃弾でその装甲を貫かれて倒れていった。

 侵攻してきた軍は、いつの間に築かれたのか、何重もの壕と柵を前にした塹壕から放たれる銃弾に侵攻を阻まれていた。

 ただし、銃弾を放つ部隊は正面に限られており、左右の広い範囲ではそうはいかなかった。それでも、数丁の筒を束ねた物が据え付けてあり、そこから放たれる銃弾はおびただしい数であり、後方には上空から炸裂する砲弾が度々飛来し、せっかく第一線を突破した隊の後が続かず、あたら兵を消耗させてしまっていた。

 焦る諸国の将軍達の前に、

「我々が形勢を逆転しますから、御安心下さい。」

 聖楯、聖鎧、聖槍で武装した騎馬隊約200騎、さらに竜の頭をつけた馬車が10台、竜の口からは炎が100㍍以上の範囲で吹き出すという。それが密集隊形で進み出した。

 今まで猛威を振るっていた銃弾が、さすがに、この密集隊には無力だと思われた。

「もう直ぐ、竜火口の有効射程に入るぞ。」

 誰もが勝利を確信していた。その火炎は、かなりの高位の魔道士の火炎弾をはるかに威力で上回り、広い範囲を燃えあがらせる。

 それが、今まで弾き返していた銃弾に先頭の何人かが負傷した。

「どういうことだ?」

「弾を特別な弾頭弾に変えただけよ。」

 女の声だった。

「はあ?」

 振りかえると同時に、馬車10台が次々に、車輪が壊れ、傾き、発車できる状態ではなくなっていた。

「ギリシャ火の原理に、魔王石を組み込んだものだね。なかなかよくできているよ。」

 2人の男女が笑って立っていた。

「こいつらを倒せ!」

 二人は、それを聞いてニヤリとして言った。

「正しい判断だ。」

 2人の剣が一閃すると、2人に向かった十数騎が、自慢の聖鎧、聖盾ごと、聖槍の先端が切り落とされたことを驚く前に、切り裂かれ、血を吹き出して落馬した。

驚いて立ち止まった時には、2人は隊列に踊り込んでいた。

「うわー!」

「きゃー!」

 断末魔の絶叫が次々に上がった。

「みな集まれ!魔力連係して密集隊形で蹴散らすぞ!」

「ほう素早いわね。よく訓練された男女ね。」

 2人に向かって突撃しようとしていた時、防御結界を突き破った砲弾が続けざまに炸裂した。

「ひ、卑怯者!後ろから不意打ちとは…。正面から正々堂々戦え!」

 1人何とか残った女騎士が叫んだ。

「このくらいの砲弾でやられていたら、私達に勝てはしないよ。」

 彼女の首が落ち、血が吹き出した。

「一寸驚かせてやるわね。」

 王侯軍陣地の幾つかに、火柱が上がった。それから、少し時間が経過したころ、雪崩を打って退却を始めた。陣地から、追撃の兵士がどっと出て行った。砲弾の炸裂が、雪崩をうって退却してゆく将兵の中で炸裂した。殿軍どころではなかった。完全に狩られる状態だった。

「ところで、姉さん。」

 そう言いながら、剣を素早く抜いて、空を切った…はずだったが、何もないところから、血が噴き出した。二人の男が姿を現して、倒れた。

「どちらが本物か、分かるわよね?」

「私よ!」

 彼は、無造作に二人の姉の内一人を切り裂いた。

「馬鹿。私が本物よ。」

「妻は、お前のようにブスじゃないよ。」

 血を吹き出しながらも、地面に這いつくばっても、

「あなたは騙されているわ。」

 それも、頭を足で踏み付けられて気を失った。

「殺さないわよ。全部吐かしてあげるから。そして、あんたが私達のスパイだったとしてあげるから。」

 彼女は、残虐な笑みを浮かべていた。

「これで、もう終わりのようだよ。」

 離れたところで監視していた一人を倒してから、姉を抱きしめた。

「本当に甘えん坊なんだからあ~。」

「そんなことを言うなら、離れようか?」

「だっめ~。もっと抱きしめなさ~い!」

 しばらくそうしてから、情報を吐かせるための連中を、倒れている中から拾いはじめた。

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