第12話 至る所で2

「若様!お嬢様!」

 声をあげたのは、二人の子供の頃から仕えてきた侍女長だった。昨日の夜から姿が見えない王と、今日王宮に来たはずなのに、何処にいるか分からない妹王女を心配していたのである。二人が、武装して王宮の廊下を歩いていて、初めて出会ったのが彼女だったが、心配していた彼らを見て、安堵の余り、昔の呼び方が出てしまったのだ。二人も、それを咎めなかった。

「何ということを!謀叛人どもが!前王陛下のご恩も忘れて!」

 2人から事情を説明されたて彼女は、真っ赤になって怒った。

「私達は、国のために、この暴挙を止めなければならないと思っている。王宮を取り戻す。忠義と分別の残っている者は少なくないはずだ。お前には、そのような者を集めて王の間に集結するよう呼びかけてもらいたい。」

“頼む。”と懇願する2人の表情から、子供の頃の二人を思い出した彼女は二つ返事で駈け出していった。“お願い!”と彼女の前で頼み事をしている幼い二人の姿が脳裏に浮かんでいた。

 二人は、廊下を進んだ。たびたび衛兵達に出会うと、誰もが驚いた。剣を抜こうとした者もいた。躊躇する者もいた。彼らには一喝をした。逃げる者もいれば、そのまま平伏し、彼らに従う者もいた。最初から、平伏する者もいた。付き従うことを選んだ者達には、その忠義に報いることを約束した。剣を抜いて襲いかかって来た者もいた。王家秘蔵の武具を纏った彼らの前で、かつ、どうしても心のどこかで躊躇するところがあったため、二人に瞬く間に斬り倒された。自ら駆けつけて来た者もいた。さらに、王女付きの騎士にも出会った。彼女の後を追ってやって来たのだが、彼女が見つからず、探し回っていたと言うのだ。貴族とはいえ、王宮を探し回ることができたというのは、余程警備が弛緩しているらしい。彼は、控え室で待つ、兵士を連れて来ると言って駈け出した。彼らを待っているわけにはいかなかった。二人は従う者達を連れて、王の間に入り、玉座に座った。妹を隣に座らせる。“お兄ちゃん、わたしを!”王宮内の招集の鐘を鳴らした。もう状況が広まっているのだろう。来るのは、少人数だった。それでも、悲壮な表情を浮かべている。ここで死ぬことを恐れていない顔だった。

 かなりたってから、まとまった一団が入ってきた。王妃も、義弟(妹の夫)もいた。

「今ならば、罪は許す。」

 王は、毅然として言った。それから、

「シン殿達のおかげで、わが国は他国から、他種族からの侵攻から守られてきたし、その政策により豊かになった。だが、我々は独立しているし、何らの干渉も受けてはいないし、彼らも求めてきていない。彼らに敵対する理由はない。」

と訴えた。しかし、彼の妻は、嘲笑うような顔だった。こんな顔をするのかと驚いた。

「そのような軟弱な、臆病な、ハイエルフの誇りを失った者なぞ、我が夫だったと思うと恥ずかしいわ。お腹の子に、お前のような者を父と呼ばせたくないわ。男なら、ハイエルフなら戦え!そうでないならば、自らを恥じて死ね!」

「その子は誰の子よ!」

 兄の代わりに妹が、叫ぶように問うた。

「淫乱な、女らしいい方だな。」

 夫の言葉に、唇を噛んだ。“妹を侮辱するな!”と怒鳴りつけようとした時、

「王妃よ。よくぞ言った!」

 小柄なロリなハイエルフの女が入ってきた。齢300の、自称だが少なくてとも寝たきりの200歳の老ハイエルフが自分から年長の座の順を譲っている、長老である。

「長老。あなたまでが。」

「我がハイエルフの誇りを忘れた者に王の資格はない。人間やオーガに掠奪されてきた歴史を知らぬとは言わせんぞ。」

「それを防いでくれたのが、シン殿達ではないか?」

「支配と言う略奪を受けておるのじゃ!ええい、あの男を玉座から引き摺り降ろせ!」

「首謀者を捕らえよ!その他の者は罪を問わん!」

 どちらも動かなかった。反乱者の数は、倍以上だった。思った以上にこちらに集まる兵が少なかった。確実に、こちらこちら側に駆けつけている者がいるし、士気はこちらの方が高い。しかし、長老の魔力は大きい。

「すまない。」

 王は妹に謝った。“お前だけは何とか逃がすから。”そういう気持が伝わってきた。

「私は、死んでも、お兄様を、陛下を守ます。」

“きゃー、私ったら。”

 どちらともなく、手を握りあった。

「敵見方がはっきり分かって良かったわ。」

 女の声が、響いた。いつの間にか、間に二人の男女が立っていた。シンとテイカだった。

「全く来てみると、ここでも、こんなだとは。一体どうなっているんだ?ダリア。お前が、そんなことを言い出すとは思わなかったぞ。垂れ下がってきた胸同様に、耄碌したか?」

 シンは呆れたという顔で、吐き捨てるように言った。

「こ、こやつらを殺せー!」

「シン殿、テイカ殿をお守りセよ!」

 ロリエルフの攻撃魔法で、戦いの火蓋が切られた。エルフの王と妹王女も先頭になって斬り込んだ。シンとテイカは、自分達に向けられた魔法攻撃を簡単に弾いて斬り込んだ。シンとテイカの前に、あっという間に半ば以上が、倒れたり、炭になったり、ミンチになったりしていた。もう後は、反乱軍は、降伏するもの、逃げ出す者まで出て、一方的な戦いとなってしまった。

「王と王妃は、よくやった。その働きに免じて、ハイエルフの罪は訪わないことにする。」

“え?”兄妹は顔を見合わせた。

「叛逆罪の夫婦は如何するかな?」

 王妃と大公を押さえつけながら、テイカが言うと、

「自害では英雄視されそうだし、戦死も同様だしな。」

 シンも判断に迷った。

「私は王妃…」

「王の子供でもないものをみごもっていて、王妃なものか。」

 真っ青になっている女を見ながら、

「こうしよう。愛人に夫を殺させたことにするか。」

 テイカは、無造作に大公の首をはから、

「その愛人に裏切られて、殺された。その愛人は若い恋人を選んだから。」

といって、また剣でもって、元王妃を剣で真っ二つにしてしまった。

「で、その若い恋人は、男が危ういと見て、一人で逃げ出そうとしたところを。」

と自称300歳のロリハイエルフに目を向けた。彼女は、シンに踏み付けられていた。

「しかし、こいつを選んだ男とやらは、何処にいるんだ?」

 シンの質問に、

「そこの死体の中にいるんじゃない?知らない~。」

がテイカの答えだった。

「そうか。」

「妾は…。」

 シンは、彼女の言葉を待たず、脳天を剣で貫いた。

「直ぐに侵攻してきた奴らやそれに呼応する反乱者どもを制圧するから、お前達も兵力をまとめて加われ。」

 同意するように、国王“夫妻”をはじめとして平伏すると、

「奴らの後ろから侵攻してくる諸国は、お前達の自立など認めることも、共存も認める連中ではないからな。数はともあれ、早く加われ。そのことが、お前達の今後の地位を保てることになることを忘れるな。」

 そして、数時間後、慌ただしく服を着る二人は、

「集められただけの数で出発だ。」

「うん。おに…あなた。」

“いや~ん、あなた、だなんてー。”“なんか照れるな。”と鼻の下がのばしてしまう二人だったが、これからことを考えると緊張した。大きな戦いに巻き込まれることが分かっていたからである。

「勝って帰ろうな。」

「うん。」

 二人の唇が重ねられた。しばらく、舌を絡ませてから離すと、

「帰ったら?」

「ゆっくり、妻のお前との時間を…。」

「そうしようね。」

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