第10話 先制攻撃
オーガの都が炎が各地から上がっていた。
「どうしたと言うのだ?」
オーガの王が、廊下を走りながら叫んでいた。彼は、二人の侍女と護衛一人を連れただけだった。
王の間に入ると、近衛隊長が数人の兵士を連れて待っていた。
「いったいどうしたのだ?」
玉座に着きながら、近衛隊長に尋ねた。
「反乱のようです。反乱軍が王都に侵入していたようです。」
彼は青ざめていた。それを聴いた王も、血の気が引く思いだった。しかし、
「いつの間に!王都の警備はどうなって…。そんなことは後回しだ。鎮圧はどうしている。」
「各警備部隊が戦闘中です。王宮の守りを固めているところですが、各方面への援軍の派遣、待機の部隊の動員も進めております。」
「分かった。わしの鎧や剣を。陣頭に立つ。」
まだ若い王は、反応も早く、戦意も高かった。すぐに玉座から立ち上がった。
侍女や側近達に手伝わせながら鎧をつけ始め、
「そうだ。妻は、王妃はどうした?大丈夫か?」
誰もが、互いの顔を見渡した。
「私をお捜しですか?」
扉が開いた。オーガの標準では、大柄とはいえないものの筋肉はついた、歴戦と一応いえる実績のある王は、鎧を着込むとそれなりに威厳があったが、開いた扉から続いて妻が入ってくるのを見ると、一瞬表情が輝いた。が、その後ろに従う兵士達が目に入った時、再び、その顔から血の気がなくなった。反乱を起こした貴族とその兵士達だったからである。
「ど、ど、どう…。」
さすがに言葉が出てこなかった。すぐに状況を理解した。夫婦仲は悪くなかったはずだ、彼女以外の女とは関係を持っていなかった。子供も生まれた。金髪の、やや小柄のオーガの名門の貴族の娘の、清楚な感じの美人だった。
「支配に甘んじている男など、国王でも、夫ではないわ。女の姿で落ち延びなさい!」
女の姿で、と言うのは、彼を非難する者達のセリフだった。
“何を、…、お前まで何を…。”
その時、侍女が別の扉から飛び込んできた。
「陛下!大変です。王子様が、御子様が。」
1歳になったばかりの王子を抱えていた。既に生きていないことを確信できた。侍女を見ていた顔が、妻の方に、また向き直った。
「臆病な、軟弱者の汚れた子供なぞ、いらないわ!」
“何と?”
「わが国の解放のため、傀儡の王を玉座から引きずり降ろせ!」
一斉に、彼等は剣を抜き、鉾、斧を振りかざして襲いかかってきた。近衛隊長以下、側近達、さらに侍女達も加わって迎え撃ったが、多勢に無勢であっという間に、防戦一方になった。
「陛下!危ない!」
女騎士が、王に振りかざされた剣を剣で受け止めた。彼の幼い時から傍に使えていた女だった。王自ら剣を抜いて戦っていたが、突然、近衛隊の騎士に斬りつけられて、血を流して倒れたのである。
「我が夫が、何故なら陛下を裏切る?」
女騎士が詰問した。
「国賊の偽王に従う妻など知らぬ。」
彼女は、少し前、結婚していた。その夫が、裏切ったのである。
「うわー!」
大音声で起き上がり、王は彼女に助太刀した。彼女と共に、彼女の夫を退けたが、周囲には彼らを助ける者はいなかった。死ぬか、動けなくなっていた。二人は、互いに背中を預けながら、剣を構えていた。
「すまぬ。お前の夫の元にゆけ。十分忠義を果たしてくれた。」
「何を言います。わ、私は最後まで陛下と共に。…。本当は、陛下のことをお慕い申しておりました。陛下が死なれるのであれば、せめて、共に死ぬことをお許し下さい。」
「…。本当にすまん。」
二人は涙を流した。
「偽王と娼婦に死を。」
その声に二人は、死を覚悟した。“死後の世界でお前を娶ろう。”“もったいないお言葉。”二人は心が通じ合うのを感じた。
その次の瞬間、二つの影が、反乱軍の後ろから現れた。そして、瞬く間に、真っ二つに、炎上し、氷つき、黒焦げになり、穴が開き、数十人の反乱軍は血の海に沈んでいた。
「危ないところだったな。」
「もう大丈夫よ。」
「シン様。タイカ様。」
二人は、腰が抜けたように床に座り込んでしまい、礼をとろうとしても思うにまかせないようだった。それでもしっかり、手をにぎり合っていた。それをシンとタイカは、微笑ましそうに見ていたが、
「王都の賊徒は、私達が制圧しておくから、お前達は、速やかに兵をまとめておくように。ああ、お前の忠臣達を回復させておこう。」
シンが素早く、倒れている近衛隊長らの元に歩み寄よると、タイカが、
「どうする、この女は、少し前までお前の妻だった女だが?体の中に、お前のでない精子が入っているが。」
その女の首根っこを掴んで彼に示した。女は、助けを求めるような目を向けていた。
不安そうに覗きこむ視線を感じて、
「見たこともない、知らない女です。」
「そうか。それではこいつはどうだ?」
裏切った近衛騎士をつまみ上げていた。
「夫と自称していた男ですが、会ったこともありません。」
「何を言うんだ?あの女に騙されたんだ!俺に初めてを捧げたじゃないか?俺との夜を忘れたのか?あんなにおねだりして、涎を流して…。」
タイカが殴りつけて黙らせた。それに触発されたのか、女が
「私の体を忘れていないわよね、称賛してくれたでしょう?」
彼女も殴られて黙らされた。
「王よ。生き残った忠臣達は回復した。早く立ちあがり、彼らを指揮し、我らに続け、王妃とともに。ん?他に王妃がいるか?」
シンとタイカは、微笑んで、二人の男女の頭を踏み潰した。
「早く我らに続け。」
二人は、消えた。
「陛下?」
「ともに行こう。いや、ともに行ってくれ。お二人にも、夫婦だと命じたられたからな。」
「私はあのような者の…それに、もう汚れて…。」
「処女であることが、どれ程のことがある?お前は、お前だ、幼い時から好きだったお前に変わりはない。」
「陛下。」
「行くぞ!」
「はい!」
二人は立ちあがった。そして、一瞬唇を重ねた。王は、直ぐに命令を次々出し始めた。
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