第8話 過去と現在の交差 2
「囲まれています!」
誰かが叫んだ。
「あなたがそのように卑怯だったとは。」
「なんだ?10人以上で2人を襲うのは正々堂々と言えるのか?」
「うるさい!シンを返せ!」
「行きましょう!勇者様。」
「連係で行くぞ。聖なる怒りの青の雷撃よ!」
詠唱が唱えられると、3人が態勢を整えて、青色の電撃が光った。空間が、ゆがんだように思われた。が、それは一瞬で消えた。中和されたのだ。シンとタイカが飛び出した。
たちまち壁に叩きつけられていた。何故そうなったかわからなかったが、3人は、全身が壊れるくらいの激痛を感じながら立ち上がった、何とか。
「勇者様!」
仲間達の声が力になったと感じた時、今まで聞いたこともない、連続した、凄まじい速さの、爆発音が耳に入ってきた。台車に載った6本の細い筒が見えた。
直ぐに何人かが、叫び声をあげて倒れた。慌てて張られた防御結界や聖盾や聖鎧を装着していた者達は何とか無事だったが、何か短い太い筒を持った数人から、小さな爆発音がすると、直ぐに盾や防御結界に大きな衝撃が爆発音とともに来た。怯んだところに、強い衝撃が来て、動きがとれないうちに飛び込んで来た数人にたちまち倒されてしまった。
「なんだ?」
「ガドリンク銃とショットガン、そして私達の子供達と家臣だよ。」
目の前に、シンがいた。体の痛みも忘れて、0距離からの雷撃魔法を放った。自分への衝撃も覚悟の上だった。“ともに死ねば、彼は、私のもの。”思考が薄れる中、そんな考えが浮かんでいた。
「何とか、殺さずにすんだわね。」
タイカが、2人を気絶させてから、シンに言った。
「どちらが持ちかけたんだ?」
シンは尋ねた。ドウサと戦った翌日の午後だった。ウーニャとクーワは、二人してシンとタイカのもとを訪れた。“意外に似通っているかもしれないな、この2人は。”積極的的だが、頭より先に手足が動くタイプのウーニャと落ち着いて、慎重に行動するクーワとは対称的タイプに見えるが、シンの質問に、互いに指をさして
「ウーニャが。」
「クーワだよ。」
本当のところはどちらともなくではあった。
“出会った状況も似ていたな。”どちらも一人っきりだった。ウーニャは、それでも果敢に、いや自暴自棄になって、単身魔王の本拠に乗り込もうとしていたが、クーワはこのまま何処かに行ってしまおうか迷いながら、魔王城の周囲を探っていたものだった。どちらの場合も、とりあえず、
「冷静になっては如何ですか?」
と連れ戻した。
どちらの場合も、パーティーのメンバーを他の勇者に引き抜かれてしまい、彼女の支援者達もそんな彼女達を見て態度が冷たくなった。その他の周囲の態度も悪くなり、一人で戦い続ける中、心身ともに疲れきってしまっていた。取り敢えず、シンとともに2人で仕事をこなすことになったが、全てが上手くいくうちに自信も、心身も回復していった。そのうち、他の勇者のもとに走った元パーティーメンバーの何人かが戻ってきた。彼女との日々の方が良かったということがよく分かったからだったが、シンが接触して、話をしていたのである。また、オンのように、パーティーメンバーではなかったが、ウーニャとは古い仲で、彼女の苦境を心配していた者達をつなげたのもシンだった。他の勇者の妨害、謀略から彼女達を守り、彼女に魔王を討たせ、その功績を奪おうとする他の勇者達の陰謀を潰したシンは、最後の段階で姿を消した。
「あの、2人だけの日々が忘れられない。」
2人とも、そう思っていた。
「だから、姉さん。あの時、何もしてないってば。」
「そうかしらね?」
2人が、ここにそのまま残ると決め、パーティーメンバーに伝えに去った後、シンとタイカは言い争っていると、
「お母様。お父様。」
娘が顔を出した。
「どうした?」
「残りの勇者とそのパーティーですが、捕捉して殲滅したとのことです。」
「そうか。」
トレアとそのパーティー、それにハイエルフやオーガの戦士数人が加わって、周辺国でエルフの女王が統治しているツバキ連合公国の王宮で女王と対面していた。タイカは魔王であり、近いうちに諸国の軍が討伐に来るから、それに味方するよう説いた。そんな顔をして、彼女の暗殺をハイエルフとオーガ、何処でも仲が極端に悪い部族が同盟していた、とともに図っていた。彼女は突然笑い出した。
「私が、わが国がシン様、タイカ様と争うなどあり得ないことはご存知でしょう?無事にここから出られるとお思いですか?勇者、様?」
トレアが笑いで返した。
「勇者を甘く見過ぎではないですか?」
それを彼女は鼻で笑った。
「私はかつて勇者のパーティーの一員だったのですよ、これでも。」
トレアが言い返す前に、彼女の横に現れた逞しい戦士が、彼は彼女の夫だった、
「その時の勇者というのが、俺なんだよ、お嬢ちゃん。」
「おばさん、おじさんの勇者とその仲間とはね。」
トレアの言葉に、相手は、カチンときたようだったが、彼らが口を開く前に、
「怒りなさんな、事実なんだから。俺も元勇者、こいつは魔王軍の元四天王だよ。」
「ま、若い私達に委せて。」
トレア達の後ろから声が聞こえてきた。
「お前さんだっておじさんだぜ。あ、俺は元魔王の第一子、第一王子だ。」
「その妻の元勇者よ。尻の青い小娘勇者さん。」
女王の後ろから、さらに二人の男女が現れた。
動揺するパーティーメンバーを見て、
「戯れ言に、騙されないで。私を、自分を信じなさい。」
とあくまでも冷静に言った。
「あいつは、面白い奴ではあったんだが。」
シンは寂しげに呟いた。彼女は、何とか魔王を、ライバルに先んじて倒そうと焦っていた。ライバルのチームに王女が加わっていたことから、焦っていたし、それもあって、彼女のパーティーのメンバーは実力がみんな見劣りする者ばかりだった。
王女追い落としまで画策しようとしていた彼女を制したのは、シンだった。彼が入り、メンバー達の実力を向上させ、彼の作戦と実力もあって見事に魔王を倒すことが出来た。彼女に名誉がいくように、かといってだれかを追い落とすこともないように、全てが円満にいくように手をまわした。彼女のように、策を巡らす、そして、シンの行動を理解することが出来る者は、使い道が、それなりにあった。しかし、彼女は彼よりも別の相手に利益を見たらしい。
「のし上がるんだと、いつも言っていたからな。」
“使えたのにな。”と残念そうな顔をしていると、
「手練手管がありそうね。それが未練なの?」
とタイカに睨まれてしまった。
「だから~。」
とまた、説明するのだった。
薄れゆく意識の中で、トレアは“あいつと一緒にのし上がって、頂点…玉座につくことを夢見たのに、どうして?あの女のせい?いや、どうにか考えればよかった。最初から、私は奴と手を握ることを放棄していたんだ。あんな言葉にのせられて、奴を裏切っていたんだ。馬鹿だよ、私は。奴と共にいれば、可能性はあったのにさ。”
次第に薄れる意識の中で、“また、あいつが助けに来てくれるなんて期待して…私は本当に馬鹿だよ…。”
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