第6話 勇者様達は見る
「ここが魔族の領域なのか、本当に?」
ドウサは、驚きと不信感がないまぜになった言葉を発した。そこには、人間と魔族がともに暮らしている姿がどこでも見られた。田畠も牧場もともに、のどかな風情で、よく耕され、家畜は肥え、豊かそうに見えた。各種麦、米、雑穀、豆類、野菜類が輪作され、場所に適したものが栽培されていた。風車も水車も、彼女が見知っていたものとは異なるものばかりで、かつ、ずっと性能が良いように思われた。都市の市場には、海の幸や山の幸も集まっていた。どこも清潔な感じがした。
都市の、わりと貧しい階級出身のウーニャなどは、都市でも、田園でも、見るもの、聞くものが珍しく、好奇心剥き出しに、夢中になって質問の嵐を周囲にまき散らしていた。クーワというと、直前のハーフエルフの公爵の公国で、公国の女公爵と長い時間話をしてから、今回のことについて、やる気の半分を失っているように思われた。通過した、どの国も、都市も、勇者の認定状を見て丁重に迎えてくれたが、魔王の脅威など笑って否定したのであるから、なおさらだった。どこを見ても、脅威を示す跡なぞすら見つからなかった。ただ、ドウサは、それがかえって不信感を感じていた。
魔族の侵攻はあるが、シギョウ達の奮戦で事前に撃退出来ているので、国土は平穏を保っているという言葉が、上から下まで、端々からでていたことである。”あの2人が、それだけの力があるのだろか?“シンの力はよく知っている、彼の妻がかなりの実力があってもおかしくはない。だが、勇者ですら個人では限界がある。魔軍の撃退までしてしまう彼らには、何かあるのではないか。
「人間が共存しているわよね。でも、魔族に支配されている、統治されているわけでしょう。ここを支配、統治しているのは魔王ではないのかしら?」
トレアはしきりにドウサに言った。吹き込んでいる、といったほうがいいかもしれない。
「それこそが、この地の魔王ではないのかしら?」
トレアは、唆すように言った。
「そんなこと言うのなら、ここを統治する、魔族なり、魔王に会いに行けばいいでしょう?」
はウーニャだった。彼女は行動が早かった。
「それで、大公殿はどのように言われたのですか?大公殿の印象は?」
シンが勇者達に尋ねたのは、彼と妻の館であった。彼ら一行総勢40人ほどを何とか収容できるだけの大きさがあった。
かなり大きく、立派だった。
「ここは、他の魔王軍の撃退での功績で、大公様からもらったものですよ。」
大公とは、この魔界とも人間界とも言えるところを統治している存在だが、勿論2人の息子と娘である。2人は上手くやってくれている。
「私達の知っている魔族とは全く違う‥という印象ですね。」
「お二人のお陰で、他の魔王達の侵攻を防ぐことができ、人間・亜人とも平和的に繁栄を享受していると説明してもらいました。」
事実なのだ、そのことだけに限れば、全くの事実なのだ。
「更に、この地が豊かなのも、お二人のご助力があってのこととも仰っていましたわ。」
“余計なことを、2人とも。”“どっちよ、そこまで言ったのは。謙遜も過ぎては元も子もなくなるのよ。”“後でよく言っとかないと。”“後で、お仕置きよ。”これとて事実なのだ。はるかに進んだテクノロジーの知識を持っていた上、機械や科学が得意な彼は、より効率的な風車を初めとした機器を作ってきた。彼女は魔王としての統治の経験と経済、社会に関する知識を使って、経済、生産活動、政治などで優れた施策を行ってきた。そして、互いに、双方の得手の分野も手伝ってきた。それが、この地を繁栄させている。しかし、あまり強調したら、“疑いをもたれるだろうが!”
「でも、所詮は魔族の言葉。」
トレアだった。窺うような、それでいて、妖しく誘うような顔だった。2人は。流石に表情が一瞬きつくなった。
「いえ、私が思うと言うのではなく、私の報告を聴いた方がそう言われるのではないかと。」
“これも、様子見の言葉だな、こいつ。”“この小娘。策士ぶって。”
「納得がゆかれるまで、滞在していただいてよろしいですわよ。」
「お邪魔ではありませんか?」
「別に、私達夫婦はいつも通りに過ごしますから。」
4人の視線が痛くなった。
4人は、彼との出会いのことを思いだしていた。彼の方も半ば同様に、そして他の半分はデジャブ感を感じていた。それは、過去にやって来た勇者達とのことだった。“彼女達の選択が、よい結末の方だと良いんだけれど。”
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